第101話 腰ミノvsぬいぐるみ
『
味方サーヴァントの相手取ることができる敵は基本的に一体というのが前提認識としてあるが、これは敵側にも当てはまるルールになる。敵からすると一度に相手できるのはプレイヤー一人、と表現するのが正しいか。
これには敵の標的設定、ターゲッティングが大きく関わる……らしい。
攻略サイトによると、敵の攻撃対象選択は
そこに他のプレイヤーが新たに
敵の枚数が増えても、後衛の僕らに敵が流れてこないのはそういう仕組みを利用したものだ。前衛の二人が全ての敵と交戦状態になって抱え込むことで、後衛は
プレイヤー対多数に見えるが、厳密にはプレイヤー対敵一枚をいくつも抱えている構図が正しい。こちらはサーヴァントを増やすことで、最大四枚まで抱えられる数を増している。
では余っているプレイヤーや敵はどうやって、交戦できない状態で参戦して数的有利に持ち込むのか。
その答えが『
プレイヤーも敵も、すでに交戦状態となっているゾーンには無条件で参戦可能だ。
敵対者を共有し、袋叩きにする。そのためには戦場を共にすることが必要不可欠であった。
そしてリッカが最大戦力たる『おともだち』五連結の【レギオンフレンズ】を組み上げるには、この『
『おともだち』になるサーヴァントや道具がないと、【シャルロッテ】の本領が発揮できない。
【シャルロッテ】の『おともだち』合成の特殊能力は最低三枚から行使可能ではあるが、最大限活かすのならやはり五枚の『おともだち』を用意すべきだ。しかしながら、一人のプレイヤーに与えられた出陣用のマスはわずかに3しかない。
考えられる策は一つのみ。
――『
交戦状態の共有とは、
参戦中の味方が所有するマスをも共有するからこその
チームでダンジョンに挑む最大のメリットはここにある。
特殊能力に至っては引き込む必要すら無い。単体指定なら距離を関係なく指定できるし、隣接等の条件はプレイヤーが参戦時の位置関係を調整してやればよい。カード対戦時よりもファジーな判定となっている。
これが何を意味するか……。
他のプレイヤーが『素材』を提供できるということだ。
リッカが【シャルロッテ】を引いてきた段階でイクハとフルナから提供してもらった『おともだち』で【レギオンフレンズ】を作成し、二人を休ませて手札補給をさせるつもりは事前の想定としてあった。想定外だったのは、リッカが全く【シャルロッテ】を引いてこなかったことである。
まさかデッキが消えるまで引かないとは……。可能性は当然あるが、ここでそんな百分の一を当てなくても。
フラストレーションが溜まっているのか、グローブをギュッとはめ直す仕草にも力が入っている。
十七階層の牛さん……【イナカミノタウロス】を前に、満を持してリッカが参戦する。
【忘れられた人形:シャルロッテ】はすでにリッカと一体化して、頭の上にちょこんと乗っている。下のリッカがどう動こうとも同じ姿勢を崩さないのはすごいを通り越して怖い。
「行こう、ロッテちゃん。『
封印を解放し終えた【シャルロッテ】を携え、胸を張って堂々たる宣言。
一番槍はイクハが務め、フルナ、僕、リッカの順番で参戦している。
【イナカミノタウロス】はボスらしい風格を以って、ブルルォッと嘶いた。しかし腰ミノである。服の存在も知らない田舎モンってことだろうか? 果たして今後トカイミノタウロスが出てくるのか気になるところだ。
『
交戦時の戦闘方式はターン制。常にプレイヤーが先手を取るが、後からの参戦者には割り込みの判定が発生する。
連携時点での行動よりも先に割り込む……。
例えばプレイヤーAがサーヴァントを一回行動させた後にプレイヤーBが連携すれば、プレイヤーAの手番は一時中断されてプレイヤーBの手番が始まる。
敵Aの手番が始まる直前に連携すれば、ずっと僕らのターンになるワケだ。正面の相手と睨み合いながら、横合いから殴りかかる相手にも十全な対応をできる場合は少なかろう。
これは敵にも適用されるので、複数現れた時に最速で敵の数を減らさないと、ひたすら割り込まれて殴られ続ける可能性がある。というか殴られる。瞬間的な判断を要する難しさがあった。
ただし今回、【イナカミノタウロス】は一枚でのご登場だ。
しかも僕らは四人全員での『
つまり、今から殴られ続けるのは腰ミノを装着した陽気な牛さんだということになる。
「待ちに待った……。イクハ、フルナ! 『おともだち』を借りる!」
初手は最後に
頭上に抱いた美麗な人形のガラス玉がぐにゃりと歪んで見えた。
「あたしはまず出陣権を使って、空けた1マスに新たなサーヴァントを出陣させる! 来て、【アシハラ・ミズチ】ッ!」
リッカが山のような手札から引き抜いた一枚を叩きつけると、石造りの床に水が滲みだし、瞬く間に葦が伸び始める。
その根本を這う黒い影が水の中に現れた。
「
「ドラゴンっぽいというけど、
「諸説あるけど、
「そうなんだ?」
誰にともなくプリズムパックの宣伝をするリッカの後ろで、僕らはカードの検証を始めていた。同じモチーフを使っていても、解釈や名称の違いで明確にカードの格が変わってくるからなあ。
【シャルロッテ】はプレイヤー:HIME-RIKAと一体化しているから、実質サーヴァントは四枚出せていることになる。『素材』を自前で三枚用意できるから、残りの二枚をイクハとフルナから徴収していく。
壁に使われて
「ロッテちゃん、あたしたちの前にいる三枚と、イクハの【Dカンガルー】、フルナの【イエローホーク】を特殊能力『
一気に五枚のカードが糸にまとわりつかれて繭となる。
そして繭が解けた中から、つるりと無機質な質感のにんぎょうとなって再誕を果たした。
何度見てもちょっと……いや、かなり恐ろしい光景ではある。背筋がぶるりと震えそうだ。
「続けていくよ――『
上空でバチバチと積乱雲が生まれ……、そういった演出を全てスキップして深水色のぬいぐるみ【フレンドラゴン】がリッカのマスに出現した。
僕は思わず文句をつけた。
「おいおいおいおいおい! せっかく格好いい演出なのに飛ばすんじゃないよ! いいかげん僕にも観せてくれてもいいんじゃないか?」
バトルフェスでも演出スキップされたことを思い出した。
それじゃあ味も魅力もへったくれもないだろうが!
「長くなるから」
リッカは取り付く島もない。
「観たかったら、あたしがアッシュをボコボコにした対戦のアーカイブを参照して」
「リアルタイムで観ると違うんだよなぁ……」
「先は長い。巻いて行こう」
やっぱり不満が溜まっていたらしい。
「れっつゴー」
腰ミノを震わせている【イナカミノタウロス】にけしかけた。
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