第97話 ダンジョンアタックのいろは
ダンジョンの攻略は当然ながらカード対戦とは違うシステムで行われる。
対戦の技術が通用しないワケではないが、ダンジョンにはダンジョンの流儀があった。
基本的ルールにおいて、精鋭カードの集合体たるデッキを使用するところは変わりない。サーヴァントと神秘は共用となる。
違うのはそれ以外のおおよそ全て。
カードをドローして手札を拡充し、手札からサーヴァントを出陣、あるいは神秘を使用してゴールを目指す。
それがダンジョンアタックの手段であり、目的である。厳密にはゴールして、報酬を得るためにクリア狙いをしているはずだが。
カード対戦におけるシステムは自分と相手の手番が交互に来る、いわゆるターン制。
対して、ダンジョンでは『アクティブターンバトル』なる制度を用いている。
戦闘時のみターン制の対戦形式で戦うのだが、その他の移動中などはシームレスに行動ができる。
自分たちの目線でリアルタイムに動いているから分かりづらいかもしれないが、対象と接敵するとバトルが始まるシンボルエンカウントと考えたらいい。
こういったダンジョンにおけるターン制といえば、ある種のローグライク系ゲームが思い出せる。似通った部分はあれど、本質的にはカードゲームだというシステムを以って戦闘することになる。
まずは手札を増やすことが最重要。
ダンジョンへの進入時に五枚のカードを引けて、以降は特定の判定を超える毎に二枚ずつドローができる。階層を移動する、一定の距離を踏破する、夜が明ける、などなどダンジョンによって判定基準は違う。
加えて、サーヴァントの特殊能力や神秘、ダンジョン内の地形効果等を受けて手札追加が行われる。
手札を潤沢に用意するためには、ドロー供給源となるサーヴァントの運用が必須だ。
しかしながら、対戦と同じ感覚でサーヴァントを出陣させていると痛い目を見る。
サーヴァントの出陣枠はわずかに3マスしかないからだ。対戦のマスで位置設定を表すと、プレイヤーが立つ最後尾マスと、プレイヤーを基準に中列左右真ん中の3マスが設定されている形。
二枚のドローが許可される特定判定に併せて、出陣権が一回だけ与えられる。つまり、初手でドロー供給源を出陣してしまったら、戦闘力に欠けるそのサーヴァントだけで次の判定まで進まなければならない。
またプレイヤーが出せるサーヴァントは三枚だけだが、敵は普通にもっとうじゃうじゃ出てくる。サーヴァントは敵を一体押し止めるのに精一杯なので、敵の処理に手間取っているとプレイヤーの方に流れてきて
その辺りの難易度を緩和するのが、チームアタック。
複数プレイヤーでの同時攻略だ。
巨塔の内部。
『
「主戦力になるあたしの【古竜】も、エルスの妖精も、育成、出陣に時間を要する。だから序盤はイクハとフルナに戦闘を任せて、あたしとエルスはリソースの増強に努める」
「まあ……それしかないか」
イクハもフルナも、叙事詩級のカードを持っていない。実戦に組み込めるネガティブカードもだ。
そうなるとサーヴァントの特殊能力による強化、あるいは存在重複で戦闘力を底上げしたサーヴァントがメインの火力となる。
一線級のプレイヤーは軒並み大会に参加しているだろうことを考えれば大したことないのかもしれないが、それでもイベント限定のダンジョンに挑んだプレイヤーたちが階層の半分にも至らず撤退している。
『三つ星』『五つ星』のカードを持ちこんだプレイヤーがいることは想像に難くないが、そういったプレイヤーもまた成す術なく不法侵入の罪状で処されていることになる。
上位互換カードによる存在重複で届かない場所へ、二人のカードが太刀打ちできるとは思えなかった。
「分かったわ。露払いは任せてもらおうかしら」
「後半役立たずって言われるのは納得いかないけど……そう言うなら序盤で個人点をバッチリ稼いじゃうからね!」
物分かりの良い二人で助かる。
リッカの説明に、僕が詳細を補足すると、不満げな顔をしたものの受け入れてくれた。
どうしても必要な役目であることは確かなのだ。
「僕とリッカは後半のために、前半は準備をしなきゃならない。その間は無防備になるし、サーヴァントを攻撃されるとその分だけ準備を完了するのが遅くなる。申し訳ないけど、前半はイクハとフルナに僕たちを守ってもらいたいんだ」
「守る……?」
ぴくりと耳を跳ねさせて、イクハが首を傾げた。
フルナもまた頬を持ち上げて呟く。
「私たちが、姫騎士に……?」
「ならん、ならん」
どっから出てきたんだ姫騎士は。
これまでの行動を考えると、肝心なところですごく弱そうな騎士になりそう。
「準備ができたら随時参加するのと、それとも二人だけでいけるところまでやってもらうのと、どっちが良い?」
僕が尋ねると、二人は顔を見合わせた。
「全然、準備が完了次第入ってもらっていいわよ。わざわざ人数を縛る意味はないでしょう」
「あたしたちが入ると、稼げる点数が減るけど」
「個人点は減るでしょうけど、それでチームの点数が増えるならいいのでは? 最高階層を更新する方が、序盤でちまちま稼ぐ点数より高そうよ」
リッカの念押しにフルナが持論を晒し、そこについては特に思うこともないと答えた。
確かに後半のボスと前半のボスでは、強さに天と地ほどの差が存在するだろう。ならば点数にも明確な差がある。
雀の涙ほどの点数をありがたがるよりも、余力を持って後半に進みたいのは本当のところだろう。稼げる点数を稼ぐのは当然として。
またイクハも指を立てて、一つの推論を挙げた。
「タイムアタック大会なんてやってるんだから、ここの評価項目にもクリアの早さとかがあるんじゃない? 私たちがどこまでできるのかは興味もあるけど、それで評価が落ちちゃってもしょうがないよー」
「まあ……終わりのあるコンテンツなら所要時間は計測も楽だし評価の基準に取り入れやすい。項目の一つに並んでいる可能性は高い」
事前に確認したところでは、項目個々の評価内容は表示されないらしい。
総合的に評価されたスコアがチームと個人分だけ教えられて、ランクと選べる景品リストを提示されて終わりだそうだ。
クリアしていないから表示されないだけかもしれないが。
「四人チーム固定を強要されてるところを鑑みると、クリアまで四人が残っていること、なんてのも評価対象かもしれないし、みんなが余力を持って進んでいけるのが一番良い。僕とリッカは準備ができたら戦闘に参加するから、それまではよろしく頼むよ」
イクハは両手を手前でグッと握りしめ、フルナは前髪を軽く整えて微笑んだ。
「任せてっ!」
「つつがなく前座は務めさせてもらおう」
巨塔の内部へと進む、これまた巨大で重厚な木造りの観音扉に手を掛けて、リッカが告げた。
「では、チーム『LS's』、攻略を開始する」
「「おおーッ!!!」」
「えっ、そんなチーム名だったのか!?」
僕一人だけテンションが揃わぬまま、新たな戦いが幕を開けた。
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