第28話 特殊能力ラッシュ!
僕は二枚目のカードを手元に引き寄せる。
「
直接フィールドの状況には関わらない特殊能力にアッシュはあからさまな安堵を漏らす。
僕は手札から一枚を捨て、新たに二枚のカードを得る。最序盤に引いておきたいカードではあったが、いつどこにいても役に立つカードだ。
三度、浮いているカードから新たに一枚を選ぶ。
「
カードより抜け出した勾玉のような
「特殊能力『森の詩』は、全ての手札から三枚をランダムに抽出、その中に神秘が含まれていれば他の二枚を捨て札にすることで神秘力を消費せずに使用可能……!」
僕の手札は六枚。
ターン開始時のドローで四枚になり、【いたずら好きの
そして、たった今、【花の妖精境:ティルナノーグ】の効果で三枚の神秘を引き入れた。そしてシルキーのおかげでさらにもう一枚プラス。一気に潤沢な手札となった。
合計で六枚となった手札の内、四枚が神秘で占められている。
特殊能力の発動は確定的であり、しからば最も高コストの神秘を使い倒すのが必定――
「――僕がノーコストで使用するのは当然このカード……
「ガッ、グアァァァーッ!」
掲げた右手の先に【山の怒り】が宿り……僕が勢いよく腕を振り下ろすと同時に、天より落ちてくる怒りの槌が神秘の花々ごと前方2×3マスを焼き払った。
直撃を受けたプレイヤー:アッシュのプシュケー1点を奪い、痛覚最大設定のアッシュがその身を仰け反らせながら吠える。
同じく激しい雷に身を晒している【天武鬼人:シャニダイン】は呻くこともなく、仁王立ちでただ耐えている。ダメージ1000は通っている。恐ろしい胆力だ。
「
間髪を入れず、畳み掛ける。
アッシュの復活を待たずして先に進んだのは、鬼人に対する畏怖からかもしれない。
その怖れに対抗するカードは、こいつしかいないだろう。
「フォース・フェアリィ……待たせたな、アッシュ! 【トラブルハンター・フラワリィ】!」
僕のデッキ『フェアビッツ』のキーカード。
キャラメイクで遊ばれまくった僕の天敵に近しい、華々しく飾った妖精が花畑の頂に顕現する。
「呼ばれて飛び出てふらわり〜! お困りの皆さん御用達、フェアリィ一番のトラブルハンター、フラワリィさんが参りましたよぉ!」
「な……、なんだそれ!?」
かつて無いサーヴァントの名乗り口上に、アッシュが思わず素に戻って叫ぶ。
従来のサーヴァントは吼えたり、叫んだりと発声こそすれ、意味のある言葉を話すことはない。これが通説だ。
しかし【フラワリィ】は顕現するなり、誰もが理解できる言葉をはっきりと発したのだ。
僕も最初は驚いた。そして事実を知ってマジでげんなりした。
「ハイレアリティカードの一部に、特にレアなAI搭載のカードがある。残念ながらこいつはその一枚らしい」
「残念とはなんですかあ!? フラワリィさんが来てくれてありがとう、喋ってくれてありがとうとお礼を言ってくれていいところですよ!」
「このように、うるさいだけでゲームの有利不利には何の寄与もしないから安心してくれ」
「羨ましい……シャニダインも話してくれねぇかな……」
シャニダインなら僕も話してみたいが、まともな神経をしていたらフラワリィと話したいやつはいないと思うんだよな。
閑話休題。
「【フラワリィ】には特殊能力が二つある……が、内の一つはフィールド上に居る時限定の能力だ。よって、今回はもう一つの能力を使うことになる」
「えぇ~、もうフラワリィさんの出番は終わりってことですかあ? もっと活躍したいですよぅ!」
「だぁ、うるせえな! お前が話してるとゲームが進行しねえんだよ! さっさとやれ!」
「仕方ないですねえ。『
アッシュは神秘を一枚しか使っていなくて、それがまだ場に残っているんだからそうに決まっている。
この特殊能力『
そして、ここがこいつの最高に癖あるところなのだが、この捨て札をサーチする場面、自分の捨て札はもちろん相手の捨て札も該当し、相手側の捨て札から拾ってきた神秘はそのまま相手側で発動する。きちんと捨て札を把握していないとかなり痛い目を見ることになる。
能力名が妙に格好良いのが腹立つわ。
使い勝手には不安が残る能力ではあるけれども、複数枚揃えることの難しいハイレアカードを二度使える可能性がある。しかもノーコスト。
デメリットを上回ってあまりある強さ。そのデメリットも使いようではメリットに転換しかねない。
「うーむ、これかなあ。LSさん、はいこちらをどうぞ! 良い神秘だと思うのでお喜びくださいな!」
「エルス……もしかしてAI搭載型のランダムサーチは実のところ自在にカードをコントロールできるとかじゃねえだろうな」
「安心しろ。こいつの言葉はほとんど雰囲気作りのためで、実際全く信じられない。この場面で使いようのないカードが来ても不思議じゃないぞ」
「失礼ですなー! せっかくこのフラワリィさんが
捨て札置き場へと雑に腕を突っ込んで引っ張ってきたカードに、どうしてそこまで自信を持てるのか教えてほしいくらいだ。
僕は溜め息を吐きながら、差し出された神秘を受け取る。
これまでのプレイで捨て札に置かれた神秘について、当然ながら把握済。記録を辿れば明確に表れる。
当たり札がどれほど入っているのかが分かっているくじ引き。
彼女が自信満々で引いてきたのは……、
「――なるほど、悪くはない。
つい先程、【謡う森樹の小人】の効果で捨てたばかりのカードだった。
本来であれば神秘力600を要する強力な
僕の左側にあった花畑マスが、突如、深い森に覆われる。生い茂りすぎた木々が、わずかな距離しかないはずの向こう側も見通せない局地的な暗闇を生みだしている。
「この迷いの森は同軸上にいるサーヴァントを惹きつける! 一歩でも森のマスに足を踏み込めば、容易には脱出できないぞ!」
さっき、こちらを使わずに【山の怒り】を選択した理由は、このカードが『兎穴』と同様、設置型の罠だからだ。
1マスに滞在可能なカードの枚数は一枚。【誘う迷いの森】に閉じ込められるのは一枚だけということになる。強力なのだが、対策を打とうと思えば簡単なのだ。
「……くくっ、不発だったようだな
発動された
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