第104話 やられたくなかったカウンター

 面倒な先輩の立場を確実にした【フラワリィ】だが、僕のデッキにおけるナンバーワンであることは間違いがない。決勝では出番なかったけど。


 【暁の星アズールステラ】も関わりたくなさそうにしながらも頭を下げていた。僕の背に隠れながら。つんけんしていたのが幻のようだ。


 出陣時に発動する特殊能力『熾天飾りし花車フラワリィ・リング』による強化で戦況がまた一変する。

 捨て札にある神秘ミスティックから五枚をランダムに選んで装備品とする。ここまでの道程で捨て札には神秘が選べるほど眠っている。


「パンチの無い子もいますねえ……。けれど、おおよそお望みには適ったのでは?」


 ごそごそと捨て札からカードをランダム選抜した【フラワリィ】が言う。


「合計で必要神秘力ミスティックポイント4100。及第点だな」


 一枚だけ神秘力0のカードが混じってしまったのが戦闘力の面では悔やまれる。


 基礎能力では【フレンドラゴン】にも遠く及ばない……が、僕の陣には頼りになる後輩妖精フェアリィがいる。


「【暁の星アズールステラ】、【フラワリィ】を強化だ!」

「強化させてあげましょう! 四天に轟くフラワリィさんの偉大さを一段と褒め称えてくれて構わないのですよ!」


 僕の指示に、しかし【暁の星アズールステラ】は、ぷいっと顔を背けた。

 今まで素直に言うこと聞いてくれていたのになぜ!


 【フラワリィ】は顎に手を当てて、ははーんとでも言いそうな表情で笑う。


「ははーん、さては戦場の主役を奪われるのではないかと嫉妬していますな? 決勝ではあなたが活躍したそうですが、今回はフラワリィさんに譲っていただきますよお! 早くLSさんの指示に従いなさいなっ!」


 言ってる。


 頭お花畑の妖精に催促を受けた瑠璃色の妖精は、ツーンとそっぽを向いてそれきりである。頑な、というよりも単純に【フラワリィ】とは性格が合わなそう。今の【フラワリィ】は傍から聞いていてもウザいけど。


「なるほど……こんな感じ……」


 リッカが脇で頷いては何かをメモしている。


「【フラワリィ】がうるさくて悪い」

「アーカイブでしか観られなかった漫才が観られるから大丈夫」

「漫才をしているつもりはないんだが?」


 全ては【フラワリィ】が悪い。

 どれくらい悪いかと言えば、あの妖精が交流を深めようとするごとに、ツン度合いがツンツンツーンにまで跳ね上がってしまっているぐらい悪い。

 同じ妖精フェアリィなのだから仲良くしてほしいと心底思う。


 僕は溜め息を吐いて、【暁の星アズールステラ】に付き纏っては思い上がった台詞をぶちまける【フラワリィ】を引き剥がし、心を閉ざしてしまった【暁の星アズールステラ】をなだめすかす作業を始めた。

 ここ一番で安定して頼りになるのは君だし、序盤から盤面にいてほしいカードではナンバーワン。見た目もかわいいし、瑠璃色が綺麗だし、いつも特殊能力を使っている時の光景は絵に残したいくらい美しい。【フラワリィ】が気に障るのは分かる、分かるけどここは一つ君が大人になって頼むよ。


 ミスターマーリンに教えていただいた台詞を総動員して、なんとか【暁の星アズールステラ】の機嫌を直す。

 『まつろわぬ』って絶対にこういう意味のネガティブワードじゃないと思うのだけど。


 バッテンマークのマスクを口に装着させておいた【フラワリィ】に嫌々ながらも強化バフ暁の星アズールステラ』を掛けていただく。ありがとうございます。


 戦闘力バトルポイント8200、生命力ライフガード1400、行動力アクションポイント4のアンバランスなゴリラ妖精フェアリィ、ゴリリィの誕生である。めちゃくちゃ言い難いから使うのはやめよう。


「ああ……天空蒼海、遍く世界にフラワリィさんのすごさが知れ渡ってしまう……! まさに万能無敵の心持ちですねえ!」

「いい加減に謙虚って言葉を辞書に書き込んだ方がいいぞ。【暁の星アズールステラ】、ありがとうな」


 どういたしまして、と【暁の星アズールステラ】は僕の足をぺちりと蹴って、マスに戻った。プシュケーダメージこそ入らなかったが、普通に痛みだけ来た。痛い。照れ隠しで蹴るのはもう二度としないでほしい。


 超インフレしていくこの戦闘力があれば、大統領カラスなど恐れるに足らず!

 ――と、思いきや、恐ろしい特殊能力を持っていることが死に際に判明した。


 待機室から扉を超えて内部に入った瞬間、交戦状態に持ち込まれる。入ったと同時に引き込まれるほど交戦範囲エンゲージゾーンが広いのは継続と。


「フラワリィさん、スペシャルアンビシャストルネードキック!」


 僕が指示を出そうと考えた直後に、【フラワリィ】が謎の技名を叫びながら飛んでいった。


 ライフル回転しながら飛んでいった妖精が【ミニスタークロウ】に着弾。鳴き声すら分からぬまま、生命力が0になり――


「……っ!? デス始動の特殊能力!?」


 生命力が0になった時、自動的に【ミニスタークロウ】の特殊能力が発動した。


 最後の力を振り絞ってか、もしくは眼の前の異常な妖精から逃げようとしたのか。酷く折れ曲がった翼を羽ばたかせ、移動する先には、プレイヤー。

 鋭い嘴がキラリと光り、風に弄ばれる傘のように不規則な軌道で、しかし確かに僕へと向かって飛んでくる。


 手札をサッと精査し、ダメージカットの神秘ミスティックを選ぶ。【フラワリィ】を出陣させたから、必要神秘力が少なくて使用を節制セーブしていたカードも使えるぞ!


「えっ? 割り込めない!?」

「エルスくん!」


 敵の攻撃に反応して判定を割り込ませる形になるのだが、カードの使用自体が許されない。条件を満たしていない?


 3200の戦闘力が、手前で高く跳ねて、頭上より襲いくる!

 両手を交差し意味のないガードで顔面を守る。


「ぐ……っ……、…………う、ん……?」


 来ると待ち構えていた衝撃はなく、顔の横を通り過ぎた【ミニスタークロウ】が地面に落ちてポリゴンへと変わっていく。


 構えを解いて、服装を正す。


「驚かせやがって……。一体なんだったんだ?」

「ハンデス」


 平静を装う僕の疑問に、冷静なリッカがぽつりと答えた。


 ハッとして、左手に保持していた手札の山を確認する。表の一枚に、鋭利な刃物で穴が穿たれていた。

 カードの先端からポリゴンとなって捨て札に移動する。


「まさか……ここからハンデス階層が続くのか?」

「厄介」

「道理で好きにカードをドローさせてくれるワケだ……」


 僕ら二人で苦々しく先の話をしていると、


「盛り上がっているところ申し訳ないのだけれど」


 初心者のフルナが手を挙げていた。


「ハンデス、とは?」


 横で同じく初心者のイクハが特大の頷き。そういえばハンデスってカードゲーム用語か。

 何が厄介なのかを話してやらねばならぬか。

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