第110話 彗星一点衝

「バッ……!?」


 馬鹿な、交戦連携エンゲージコネクト!?

 交戦エンゲージする相手がどこにいるんだ!


「一体何と……っ!?」

「ククッ、こんな子供騙しに引っ掛かってくれるとはな。初見の慌て具合とは、いつ見ても良い」


 子供騙し……。

 パスタリオンの用いた単語にハッとさせられる。


 わざわざ行われた『武装アームド』宣言。


 ついつい武器の見た目から忘れかけるが、【星槍】は神秘ではなく敵性物だ。

 そしてパスタリオンはプレイヤーの扱いではない。


 それぞれが交戦範囲エンゲージゾーンを所持している、一枚の敵性の相手である。


 交戦エンゲージ判定はプレイヤーに対して行われるものであり、出陣させているサーヴァントの枚数は関係しない。あくまで主たる意思はプレイヤーにしか存在しないのだから。

 しかし敵は主導しているリーダーがいたとしても、それぞれが個々の存在として扱われる。


「僕が交戦エンゲージしていたのは殿下だけ……!」


 同一マスにいないカードでも触れることは可能。

 さっきまでは文字通り、ただ【星槍】を持って構えていただけ!?


「御名答。これは身が長いのでなあ、普通に持っているとマスをはみ出してしまうのよ」


 確かにタネが分かれば二度目は喰らわないが、僕が今攻略しているのは一度目なので大変困る。困った。困りすと。

 ボケるほど余裕がない時ほどつまらないことを考えてしまう愚かな脳みそ。


「さて……そなたら戦士共に見せるのは最初になる。【星】の武具には共通の名称を持つ能力があってのう。まずはそれを披露しよう」


 『武装アームド』をした【星槍】を床から引き抜き、くるりと背に回す。

 先程の比ではない密度の紅焔を纏い、尋常ではない存在感を放つ騎槍。ただ持っていただけ、それが嘘ではないと誇示しているかのよう。


 告ぐパスタリオンの宣言で、超新星爆発をする直前の如き紅蓮に染まる。


「特殊能力『流星一本突きメテオストライク』。名称自体は聞いたことあるかもしれぬな。だが、これならではの特性を楽しんでもらいたい」

「存分に楽しんでしまったら僕の敗けなのでは?」

「それも致し方なし。“一撃必殺”が戰場の習いよ」


 ガチの戦場勢は恐ろしいことを言う。

 日本にも過去にそういう人種がいたと歴史が伝えているが、現代でどういう扱いになっているのか知らないだろう。狂人だ。

 一撃必殺に命を賭す男たちが一番怖い。


 僕とパスタリオンの間がぐぐーっと伸びる。

 システム的に距離が離れた……のではなく、パスタリオンの立つマスが拡大している。大技が来る。


 絶対的に言えば米粒ぐらいの大きさにまで離れたパスタリオンが、牙を剥く。


「我が『槍』を選んだのは、これがあるからよ」


 背に回していた【星槍】を前に向けて構える。左手を添えてバランスも良い。


 飛ぶようにして駆け出した穂先が、星灯を左右に裂く。


 一歩、床を踏むことに速度が増していく。

 まるで騎槍の重さを感じていない。


「ゲームでの扱いを教えよう。これは行動力2を消費するごとに次の攻撃威力を倍加する。いくつ持っていたのか忘れたが……とりあえずは行動力10の消費から始めてみようではないか」

「時すでにオーバーキル!」


 いやそりゃ……、最低でも戦闘力50000の攻撃が来るってことだろ!?

 5000を超えて「数字デカすぎんだろ……」とか言ってた僕らの基準を軽々と超えてくる、マジでやめてもらえませんか。


 この巨塔限定の行動力強化から来る数値ではあるだろうが、それを真正面から受ける僕はたまったもんじゃない。


「どうする、僕が受けるか」

「その悩みは解決しよう。【星】はこの場に一つで良い。そなたの【星】を排除させてもらおうか」


 ダンジョンでは結構フレキシブルに位置を入れ替えて攻撃の受け手を変えられたが残念なことに許されなかった。単体指定攻撃。

 三列全部轢いてフッ飛ばすみたいな能力じゃなくて良かったが。


 御指名を受けた【暁の星アズールステラ】は慌てた様子で僕に訴えている。

「どうすんのよ、私はどうしたら!?」と。


 時間がない。

 あと五秒もしない内に、流星が突きつけられる。


 結論から言えば――【暁の星アズールステラ】は見捨てるのが一番コスパが高い。


 戦闘力のインフレに付いていけておらず、なおかつ【フラワリィ】の強化も終えている。

 行動力10の削り要員がいなくなるのは惜しいが、肝心要の強化バフ効率が最低まで下がっている現状、新たな強化要員を追加する判断が、勝利に繋がる可能性が高いと見込まれる。


「――なんてことを言ってたら、勝てねえんだよな……! なぜか……っ!」


 最善だと思う行動が勝ちに繋がる可能性よりも、予期せぬ選択肢を取った時の方が勝率は高い……気がする。印象に残っているだけかもしれないが。


 それに、この場においてはどんなコストを支払ってでも【暁の星アズールステラ】は守る理由があった。

 なぜなら。


「僕がこの二枚を揃えた状態で勝つところを見たいからだ!」


 本当なら大会決勝で『フェアビッツ』のお披露目を兼ねてしたかったのに出てこないから!

 こんなとこで勝ち方にもこだわらなくちゃあならなくなったじゃないか。


 公式戦でもないし、最後の戦闘だろうから、手札なんて使い切ってよろしい!


「思考は間に合ったか?」


 拳ほどにまで拡大したパスタリオンが床を蹴って跳ぶ。

 夜空に超新星が輝く。


「『流星一本突きメテオストライク』――改定『彗星一点衝メテオフォール』」


 そして紅蓮の【星】が投擲された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る