第164話 水に栄養、土に【花】
【妖精境】を残した理由はいたって明確。
僕の保有するカードにおいて、最も手札を増やすことのできる
山札のトップから二十枚を確認して、それが
逆に言えば、
そこは安心していい。
僕が今回持ち込んだデッキの枚数は五十枚。
ゲーム開始時の手札に五枚、1ターン目ウルズフェイズのドローで三枚。『ノルンの憂い』でさらに八枚。
ヴェルザンディフェイズの3ターンでドローしたカードが九枚。
合計で二十五枚になり、デッキの半分はすでに見ることができた。
手札と捨て札ログを確認すれば、必然的に残されたカードが分かってしまうということだ。
【妖精境】の効果で確認できるのは、山札の残りほとんどである二十枚。多少前後するかもしれないが、期待値は高い。
これを使うと山札が無くなってしまうということでもあるけれど、どうせスクルドフェイズに入ってしまったらドローに制限がかかる。山札をドローすることが難しくなる以上、ヴェルザンディの最終ターンで使い切るのは悪くない。
エドアルドが僕の手札を奪おうとするのなら、奪いきれない枚数の手札を保持すればいい。
先に手札が爆発するのはエドアルドの方だ。
「さてさて……予習が十分なあんたはもちろん御存知だろうが、僕はこの手番で【妖精境】を使用する予定だ。何かカウンターがあるのならぜひとも使わずにいてほしい」
「少年、仮に私が対処手段を掴んでいたとしても、使用できそうにもないカードに対して用意はせぬよ。【花の妖精境:ティルナノーグ】は確かに強力な
「それはそう。単体で生命力1000を持つカードが僕の手元に一枚もないのは確かだ」
鎧などの武装込みで生命力を高めに設定しやすい人型や、物量や体積の関係で生命力が多い大型サーヴァントと違い、うさぎ等の小型サーヴァントは揃いも揃って脆すぎる数値ばかりを備えている。
高い耐久力を持つカードも存在はするが、基本的にうさぎや妖精は敏捷性や器用さ、意外性を身上とする。身体的に強力な一枚を中心に運用するカードシリーズではない。
あくまで他のカードと連携することで真価を発揮するカード群がメインなのだ。
そこに単品でシナジーの少ないカードは刺しづらい。
僕がデッキに組み込んでいるのは、サーヴァントとサーヴァント、あるいは
「さすがにこれだけやっていれば【フラワリィ】以外にも、
前のターンで手札に引いてきていたカードに指を伸ばす。
追撃に使うことを考えていたが、消極的に思い直して手数を減らしていたのが良かった。
「
僕の指先でカードが鈍色の光を放ち始める。
「出陣、させないだと!?」
「生憎だが、こいつは手札から特殊能力を発動させないと活躍の場が奪われてしまうのでね。特殊能力『吸着する肌』は、【ケルピー】が手札にある時だけ発動できる! 【ケルピー】は手札にある他のサーヴァントカードを触れた数だけ吸着し――『ウルズの泉』に引きずり込む!」
鈍色の光を纏ったままの指先で、一枚二枚、三枚とカードに触れていき。
「こいつもオマケだ持ってけドロボーッ!」
十二枚もあった手札からごっそりとカードが引き抜かれ、半分以下、残り五枚になってしまった。
指先に付着していた鈍色の光がカードを捕らえたまま離れていく。光は馬の形に変わり、【ケルピー】によって泉の中へと引きずり込まれていく六枚のカード。そして泉の奥底で順番に神秘力へと砕かれていく。
【ケルピー】自体は神秘力にならず、特殊能力を使用するとそのまま捨て札へと行ってしまうが、ノータイムで出陣させていないサーヴァントを神秘力に変換できる有能妖精だ。下手すると【フラワリィ】より便利かもしれない。
「神秘力1500……! 一気に稼がせてもらったぞ!」
「代わりに手札を大きく喪失したようであるが」
「これから補充するんだ、一向に構わない!」
【妖精境】を使用……する前に、移動を行う。
1マスだけ後ろに下がる。敵陣左側中列へとマスの区切りを跨いだ。
改めて、僕はカードを指先に構え、宣言を行う。
「
上天より降りてくる、エドアルドがもたらした破壊の光とは別種の、柔らかく幻想的な虹色の極光。
元から咲き乱れていた花の丘に、
「これが件の【妖精境】か……! なんと優美な……」
初見のエドアルドはこの世のものとは思えない美しい光景に心奪われている。
情景を楽しめているのも、この瞬間だけだ。
僕のガントレット――山札からカードが弾け飛ぶ。
その内、十四枚の
もはや手札と山札を入れ替えたようにも見える状況に、エドアルドも口端を強張らせる。
「少年はどれほど
「【妖精境】で手札を増やす手段を考えるなら、そりゃこうなるだろ。
かなりの偏りがあったことは否定しない。サーヴァントが山札の前半に固まっている箇所があった。
だが、面白さ優先で仕込んだサーヴァントはまだ山札の中に眠っている。
妖精も構成上、減らしているとはいえデッキに加えているのだ。
まだ姿の見えていない、新たに仕込んだカードが来れば……!
「残りの六枚ははたしてうさぎか、妖精か、どちらかな!?」
僕の質問に応え、中空に留まっていたカードたちが二つに割れる。
四枚が捨て札へと向かい、僕のプシュケーに傷を付ける。いてぇな、ちくしょう。
喉奥からせり上がってきた液体を、一際大きな花弁の極彩色にペッと吐き捨てた。
「どうやら二枚も
「少年が喜ぶのは微笑ましいが……いいのか?」
「何がだ?」
「いや、なに。ふと思い出したのだが、私の聞き間違いでなければ、少年は【ラビッツサーカス:クラウン】を出陣させた時に、これが最後のサーヴァントだ、などと意気揚々に宣言していた気がしてな。今更ではあるが指摘させてもらおう」
意気のくじき方をよく分かっているじゃないか……。
思い出したように矛盾を突いてくるのはなかなかのダメージがある。
その場その場の勢いで言っていて、あのターンでは本当に最後にするつもりだった。しかし状況が変われば、取るべき手段も変わるわけで。
「また新たにサーヴァントの力を頼ろうとしているようだが、少年は構わないのか?」
「あー、その件については、だが……」
間延びした声音で時間を稼ぐ。
釈明というか、言い訳を考える時間をだ。この口撃をどのように躱すか。
……残った二枚のカードが選択を迫るように、視界の中で小さく跳ねた。
二十枚の中に含まれていた妖精に目を向け、
「――最後に僕が残す生き物、という意味ではきっちり実行できそうだ。心配をおかけして申し訳ないね」
狙っていたカードと、すっかり入れたことを忘れていたカードの二枚を引いてきた自身の剛腕に、ニヤリと笑った。
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