第165話 【ワイルドハント】
「
僕がまず選んだのは、存在を失念していたカード。
そのイラストは白い着物を来た幼子が、家中の静かな部屋にひっそりと佇んでいる様子が描かれていた。
「ファースト・フェアリィ! 頼むぞ、【失せ物探しの座敷童】!」
日本における幸運の象徴。
妖怪、あるいは神の一種として扱われることすらある座敷童は、ノル箱では妖精の側面も持つらしい。
服装を全て白くした市松人形のような童女が現れ、手に持った鞠をついた。
「この子は失せ物探しが得意でな……例えば、捨てたくもないのに捨て札にいってしまったカードなんかを見つけるのが抜群に上手い」
「
捨て札の再利用は【フラワリィ】を運用していれば当然頭に入ってくる一手だ。
この場面であれば手札に入ってくれるのが望ましいのかもしれないが……。
「残念ながら手札には戻ってこない。捨て札にある好きなカードを選んで、そしてそのカードをどうするのか、すぐに決めてフィールドに出さなくてはならないのさ。他の妖精と違って、カードに対する縛りがなくて使い勝手が良い!」
妖精の系統は妖精のみに作用する能力が多いが、座敷童は他の要素が強いのか、妖精に縛られていないのがありがたい。
「……分かった、理解した。ならば、少年が捨て札から蘇らせるカードは……」
「【ラビッツサーカス:クラウン】! 再び僕と確率の海に飛び込んでもらおうか!?」
僕が見つけてほしいカードを告げると、【座敷童】は鞠をつきながら捨て札のゾーンに近づき――前へ出した足が鞠を蹴飛ばした。
慌てて鞠を追う【座敷童】が捨て札を踏んですっ転び、カードが一枚すっ飛ばされる。
眼前までしゅるしゅると回転しながら飛んできたカードは、道化師の姿をしたうさぎで。踏まれたことにちょっと不機嫌を散らしながら、【クラウン】はフィールドへと再出陣を果たした。敵陣左側前列。
良い位置に【クラウン】を出陣させられた。
そこのマスがネックだったのだ。
次のエドアルドの手番で【精鋭ピッカリン騎士団】に敵陣左側前列を詰められると、僕は【ピッカリン】とプレイヤー:エドアルドに距離を埋められて、前後右を囲まれ、手札の崩壊を待たずプシュケーを削りきられる未来が待っている。
【クラウン】は逃げ道を確保する文字通りの壁だ。
「少年が確率を過信するのは良いが、それほど50%を信用してしまっていいのかね」
もはや勝ちは揺らがぬと確信しているのか、エドアルドは苦言すら呈してくる始末だ。
追い詰めて【精鋭ピッカリン騎士団】で僕を叩けば、敵の手札の減少と自分の手札増大を同時に行える。必要な回数は見た目の枚数差よりも少ないのだ。
「50%を信用なんかしていない。ただ確率を上げる手段を知っているだけさ」
「確率を上げる……?」
「僕も50%に挑戦しよう……
最後のカードに呼び声をかけると、麗らかな花畑に突如、冬が訪れた。
暗い雪、厳冬と共に現れたのは、粗野な防寒着に身を包み、思い思いの猟具を持つ荒くれ男たち。そして、彼らに連なる人ならざるもの。
「ど、彼らのどこが妖精なのだ!? 私たちの前へと並べるには野卑な出で立ちだが、人間種にしか見えぬが!?」
「その疑問はごもっとも。だけど勉強不足だな!」
僕の反語にエドアルドは鼻白んで顎を引いた。
「起源はあんたらにも馴染み深い神様にあるんだよ! 神様に率いられた狩猟団は妖精と死者の団であり……故人の霊を連れ帰ってくる霊界からのキャラバンでもある!」
諸説ある。
ヨーロッパの各地に古くから伝わる話で、率いる者が神様だったり伝説上の人物であったりと様々なパターンがあれど、いずれも共通しているのは【
その一方で彼らが各地を渡る期間は、祖先の霊が霊界から現世に戻ってくる、日本で言うお盆のような時期としても認識されているそうだ。
僕の入手した【
北欧神話の主神オーディンや、伝説に謳われるアーサー王が率いる団ならば
ちなみにこのカードは『
「【
今回の対戦で僕が出陣させたカードは計三枚。
【クラウン】はすでに失せ物リストから名を消した。
【イリュージョニスト】か【アクロバット】。
「二枚の内、どちらを選ぶのかは僕ではなく【
「……答え合わせは少年の問題が出揃ってからにしようではないか。【イリュージョニスト】を引いてこなければ、少年の質問は意味を成さない」
そう、僕が望んでいるのは【イリュージョニスト】だ。
【アクロバット】は単体で引いても意味がない。二枚フィールドに揃って初めて劇的な効果を発揮する難しいカードだ。
であれば【クラウン】ではなく【イリュージョニスト】を蘇生させれば良かったのではないか、そういう話にもなるがそうは問屋がおろさない。
確かに奇術師を先に用意しておけば、どちらが来ても対応可能だ。
【
いくら現世に戻ってきたとしても、本質的には死者であるかの者たちは指示を聴くことができない。
ランダムなマスに舞い戻ったサーヴァントは毎ターン特殊能力を使用し、余った行動力は風に煽られた蝶の如く彷徨うのみ。何らかの法則はありそうだが、未だに判明はしていない。
要は【クラウン】も【アクロバット】も、僕の隣接マスに出陣してほしいのに、ランダムで遠くのマスに復活されたら意味がないのだ。
【アクロバット】を先に蘇生して、【
ゆえに僕の選択肢は【クラウン】を確定で隣接マスに復活させて、50%で【イリュージョニスト】を引き当てる。
これが最適な手段だと信じた。
「エドアルドさん、一応まだ降参って
「答え合わせをしてからでも遅くないのでな、遠慮しておこう。無論、少年が購入するのであれば止めはしない」
互いに引く気がないのは分かっていた。
単なる最後のブレイクタイム。
【
「さぁ……【ラビッツサーカス】本当の終幕へと向かおうか!」
異形の群れを率いる男がかさついた指で合図を鳴らす。
そして捨て札の海から頭を覗かせたのは――黒いスーツのうさぎであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます