第208話 厳しき自然界の掟
フルナの初手はフィールドの掃除からであった。
「最初にサーヴァントの
「……なるほど……、なるほどねぇ……」
早速、僕の背筋に冷たい汗が流れた。
パワー系のサーヴァントで身の回りを固めていたから、最終的にはそいつらでパワープレイが始まる……あるいはリッカのように合成した強力なカードの生成。
とにもかくにも、サーヴァント中心の攻撃を仕掛けてくると思っていたのだが、思惑を初手でかわされた。
僕がカードを教えたとはいえ、その時点のフルナは積極的に
過去の幻影と集団の流行に僕が惑わされたのか……。フルナはあえて幻影をなぞっていたのかもしれない。
それの意味するところは、神秘力の大量消費を前提としたデッキを組んできているということ。
サーヴァントを主体に戦略を組み立てようとしていた僕にとっては痛恨の読み違い。
いつも僕が相手にやっていたことを、相手からやられることほど辛いものはないぞ。
フルナの周囲を守っていたデカい鳥? らしきサーヴァントたちがウルズの泉へと吸い込まれ、巨大な神秘力の塊となってフルナの力と化す。
「そんなに強いカードをあっさり生贄に捧げて良かったのか?」
本当は良くなかったのであれば僕は嬉しい。
「だって、これが一番効率良いのだから仕方ないわよ。続けていくわよ、出陣!」
サーヴァントを神秘力に変換して空いたマスに再びの呼び出し。
敵陣左側後列に、立派な口ひげを生やした大きなペンギンが現れる。
「
皇帝ならぬ王弟とは。ペチペチと短い足で歩く姿にも貫禄があるような気がする。
戦場に出てくる王族の弟は大体脳筋のイメージがある。
それに違わぬ戦闘力1600!
代わりに生命力は800と大分目減りしている。リッチであろう食生活を見直した方が良さそうだ。
「特殊能力『
【オウテイペンギン】は平たい羽でペチン! とまるまる太ったお腹を叩く。
急襲要員はきちんと用意していたか。
1マス前進してから前列に出陣させれば、この手番で僕のところまで届かせられたのに、それをしなかったのはまだサプライズが待っているに違いない。
この【ペンギン】を最大戦力に育てるわけではあるまいし。
【ペンギン】を出陣させるだけさせて、フルナは手札から次のカードを引き抜いた。
「そして、私はこの
「初見だな……。それが
「ええ、その通りよ」
金色の演出から出現したのは、白黒のツートンカラーで構成された神秘の弓。
形状としてはクロスボウに近いかもしれない。機巧を備えた道具に加護を与えるな神々め。
【飛燕】はフルナの右手の甲に張り付いた。張り付いたと言ってもそこは神秘的装備、肌からは少しだけ離れて浮いており右手のどんな動きにも追従する。
ヤバい、めちゃくちゃカッコいい。
あのカード僕も欲しい。
デッキホルダーでも似たようなことはできるかもしれないが、実益を伴わないので尻すぼみになりがちだ。その点、あれは実益がジャンジャンバリバリ払い出されそうなので羨ましい。
「この装備系
「う、羨ましがってなんかないぞ!」
「そうかしら、熱い視線を感じたけれど」
「ハァ!? カッコいいとは思ったけど何か!?」
キレ散らかしながらも褒めておく。会話を切るには、会話できない状態であることを示すのが手っ取り早い。
本当はキレてないですよ。頭は冷静だ。
フルナはそんな僕の思考を見透かしたように微笑むと、
「【飛燕】は行動力1と神秘力300を消費して矢弾を一発撃てるわ」
「……肝心の矢も弾も装填はされていないようだが」
僕の見る限りでは【飛燕】には飛ばすべきモノが装填されていない。別途、用意する必要があるのか。
「御推察の通りよ。矢弾は一発ごとに都度用意しなくてはならない。……そして弾になるのは、私の手札にあるサーヴァントカード」
残った二枚の手札を見せびらかすフルナ。
「射程はこのソロ対人フィールドだったら全域。ダメージ計算は弾になるサーヴァントの戦闘力プラス生命力したもの、それに行動力を掛け算した数値になるわ。攻撃対象の戦闘力で減算はされるところが残念なポイント」
「さらに神秘力を追加……
「ええと……行動力の倍率数値をプラスするんでOKか?」
「違うわよ。(戦闘力+生命力)行動力×過剰ボーナスの計算式ね」
【フラワリィ】も大概だけど、【
プレイヤーが遠隔からサーヴァントを処理できてしまったら、あらゆる戦術の前提が覆る。
こんなカードを持ってて十全に使いこなせるなら、そりゃ『六つ星』相手でも倒して来れるだろうよ!
現状、僕がフルナに指摘できる点は一つしかない。
「それで……弾になるサーヴァントはどれだけいるんだ?」
フルナの手札はたったの二枚。
次の手番で引いてきたとしても弾になり得るのは三枚だ。
速攻でフィールド上のサーヴァントを処理すれば不毛な殴り合いに持ち込める!
フルナは肩を竦めた。
「残念ながら手札はこの二枚しかない。手札が無ければ、【飛燕】を装着した意味も無いわね」
粛々と応えるフルナにゾッとする。
やはり、規定事項だ。
「それが分かっていながら手札を減らし続けたのは……」
「当たり前に、わざと減らしていた……に決まっているでしょう?」
「でしょうねえ!」
嫌な予感がマックスハート。高鳴る鼓動で夜も眠れない。
あえて手札を少なくする、という手管は逆に言えば、手札が多いと都合が悪いことを意味する。
残り二枚の手札から、さらに一枚のカードを引き抜くフルナ。この手番で三枚目のカード行使。
「
「なっ、えっ……げっ、マジ!?」
枚数交換だと!?
「私のために卵を温めてくれてありがとう」
「絶対に悪意あるだろ、そのコメントは!」
木の枝を組み合わせて作られた鳥の巣が出現し、ふくふくとした親鳥が巣の中にころんと並んでいる八つの卵を見つめている。
卵は間もなく震えだし、次々と内側からの衝撃で殻にヒビが入り出した。
そして産まれたのは、親鳥とはまるきり似ても似つかない細っこい種族の雛だった。
雛が親鳥の顔を見る瞬間、どこからか飛んできた別の鳥が親鳥を蹴飛ばして代わりに居座る。簒奪鳥の顔は、雛たちにそっくりであった。
巣ごと雛を奪い取った悪鳥は、一つだけ残っていた卵を巣の外に捨てると高らかに鳴き声をあげる。
親鳥は落とされた卵からなんとか雛が産まれているのを見つけると、雛を守るべく周りに木の枝を集め始めるのだった。
そんな寸劇を経て、フルナの手札は七枚、僕の手札はわずかに一枚となる。
「……そのカード、絶対に悪意あるだろ」
「言わないでちょうだい。自然界の掟とはかくも厳しいものなのよ」
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