第115話 勝利への最短経路
【
「受けよう。――『星奏陣』」
パスタリオンは特殊能力宣言を行い、構えを変えた。
攻撃時には腰だめに真っ直ぐ構えていた騎槍を、斜めに受ける。
高く掲げた右手から、半身にした身体を隠すように斜め下へと先端を下ろし、半ばに左手を添えている。
「だからナニ?」と【
それだけ。
パスタリオンにこれまでの敵が陥ったような苦痛の表情は見られない。
何の変化もなかったが、
「なるほど、早い。早いが……我に傷を付けるにはひ弱すぎる」
その台詞で【
【
パスタリオンはわずかに【星槍】を動かしただけで、他に何かをした様子もない。だが、鈴の鳴る音が響き、防がれたことだけが通知される。
「…………輝きを強めている……?」
一見、何も起きていないような状況だが、見逃してしまいそうな微小な変化があった。
【星槍】の紅彩が明度を増している気がする。
僕の単なる気のせいかもしれないが……。
【
同時にパスタリオンは【星槍】を頭上に伸ばした右手の手首だけでぐるりと振り回し、耳触りの良い鈴の音を響かせて、元の姿勢に戻る。
何をしたんだ……?
いや、【
「馬鹿正直に正面攻撃しかできないのではなく、ある程度の自由は効く、と……。仮に戦場で出遭ったのなら、そこらの雑兵には厄介な相手であろうな。攻撃されている方向を惑わされるのだから。もっとも我には無意味だが」
講評を行うパスタリオンの表情は淡々としており、不可視の攻撃を防御してみせたことに大した感慨も浮かばないよう。防げて当然の攻撃らしい。
【
両手の
頭上と股下からの同時攻撃を行った、がそれも簡単にあしらわれた、ということでいいのだろうか。
この六回の攻撃で確信が取れた。
まずは【星槍】を破壊しなければパスタリオンに攻撃は届かない。
実は言葉による指示の他に、思念で【
それは「パスタリオンを優先的に攻撃対象とする」こと。
通常、一体化した相手を対象選択不可で攻撃する時、サーヴァントが優先的に選択される。プレイヤーを攻撃したくとも、相手が自ら防御する意思を見せなければ対象が吸われてしまうのが、一体化の強いところだ。
しかし今回に限っては、そのシステムは反映されないのではないか? そう考えた。
なぜなら、この巨塔『
パスタリオンと【星槍】の優先度は同列になるのではないだろうか、と。
【星槍】に対象選択が吸われないのならば、【星槍】を無視してパスタリオンだけを倒せないかと画策し、試行のため【
結論……難しい。
ここまでの様子を窺う限り、的確に【星槍】で【
『星奏陣』の性能か、パスタリオンの常人離れした身体能力の賜物か……。不可視かつ爆速発生する【
きちんと対象を取る攻撃、あるいは範囲でまとめて野焼きにするしか、【星槍】が御存命の状態ではパスタリオンにダメージを与える手段はなさそうだ。
「【
「はいはいなー。まったく……LSさんは過保護なんですから!」
10000の戦闘力で反撃が返ってくるのなら、それ以上の戦闘力を持つサーヴァントで受け止めればよい。
そう考えるのは自然な流れだ。
戦闘力1500の【
『星奏陣』は反撃が発動するまで継続する、ある種のトリガーを要する時限特殊能力と言える。吸収し切れなかったダメージがどうなるのか、という不明点もあるが、パスタリオンが斜に構えているところを鑑みると、『星奏陣』の継続中はダメージ
つまりは『星奏陣』を終わらせた上で行動力を全て削り、【フラワリィ】の攻撃を生当てするのが勝利の最短経路だ。
そして、これぐらいの計算ならば誰でもすぐに思いつく。
パスタリオンもこの結末は頭に描いているはず。
にも関わらず、不敵な、傲慢な笑みを絶やさずにいる。
自分が敗けるなどありえない。
自信が顔に明示されていた。
「トラブルハントの時間……でいいな?」
だからと言って攻撃を様子見する時間はない。
毎回、敵を攻める度にコレで合っているのか、誤った判断ではないか。そう迷うことはあっても、最終的には攻める手を打つことになった。
読み合いの末、勝利は決定的な攻めの一手を打ち続けた先にあると信じているからだ。
何より……僕の手で勝利を掴みたい。勝利は零れ落ちてくるものではない、もぎ取るものなのだ。
「【トラブルハンター・フラワリィ】、
「はいなぁ!」
反撃による一撃が
【フラワリィ】は準備運動にシュッシュとシャドーを拳で倒すと、宙を蹴って、騎槍の裏、パスタリオンの懐に潜り込んだ!
「脇腹がお留守ですよお! プレシャスアクセルレバー爆砕ブロー!!!」
戦闘力20500のパンチが風を唸らせる。
「ここは我の設置した籠よ。飛んで火に入る羽虫とはよう言うものだな」
「誰が羽虫ですかあ! 失礼千万、フラワリィさんを舐めると酷い目に遭いますからね! 具体的には夜な夜な耳に水を垂らします!」
シャンッ!
いつの間にか正眼に構えた【星槍】の根本で、【フラワリィ】のレバー粉砕ブローを軽く受け止めるパスタリオン。
臨界を迎える『星奏陣』。鈴の音がリフレインし、視界の中で【星槍:ペテルギウス】が赤熱していく。
だが僕が注目すべきはそこではなく――目も眩む光熱の中に浮かぶスクリーン……
第三の特殊能力に、隠されたテキストがないか。完全に読み取ったと思い込んだ僕を欺く情報が隠蔽されていないか。
「こちらの羽虫に使用しても意味はないが……溜まってしまったからな、撃っておくか」
「むぐっ」
左手で【フラワリィ】の顔を押しのけると、パスタリオンは一歩で大きく飛び退る。
弓を引くように右手に保持した【星槍】を地面と水平に引き絞った。どんな筋力してやがる。
【星槍】の全体を覆っていた紅光が穂先へと収束していき――
「――『
次の瞬間、真っ直ぐ突き出した【星槍】の先端から飛び出たレーザーが【フラワリィ】を突き刺す。そして爆発。パンケーキが膨れ上がるような緩やかさで紅色が盛り上がったかと思ったら、突如破裂して衝撃、熱、風を撒き散らした。
僕は吹っ飛ばされ、後ろに五回転くらいしてようやく止まった。
「ってぇ……! いや痛くはないが……」
プシュケーダメージが無いから痛みもないが、受けた衝撃から反射的に痛みが口からこぼれた。
一緒に吹っ飛んできた【
「っ、【フラワリィ】は……!?」
大丈夫なはずだ。特殊能力に新たな追記はなかった。
噴き上がった煙がきのこの形を取る。
忌避すべき形の雲に固まる心を感じながらも、その中に自称相棒の姿を探した。
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