第136話 ノル箱ちゃんねる FAF閉会式

 ステージのど真ん中で、すっかりお馴染みとなった紅めのうが口を開く。


「はーい、お待たせしました! 会場にご来場の、あるいはノル箱ちゃんねるをご覧のみなさま、一週間以上も続いた数々の激闘、イベント、ミニゲームなど諸々はお楽しみいただけたでしょうか!? 名残惜しくはございますが、これよりノルニルの箱庭一周年記念イベント『ファーストアニバーサリー・フェスティバル』閉会式を行います! 今後のアップデート情報も発信される……かもしれませんから、ちゃんねるはそのままにしておいてくださいね!」


 つい先の先までオールプレイヤー・バトルフェスの実況をしていたというのに、ちょっとの休憩でここまで喋れるその元気さには頭が下がる。

 現実の身体を動かしているわけではないから、どれほど喋っても喉をやられることがないのは実況者、解説者にとってはありがたい仕様だ。元気とやる気さえあれば、無限に話し続けられる。


 イベント会場のステージは、もう大会が終わったからか通常運行だ。空に観客を飛ばすような真似はしない。

 どことなくこじんまりとした印象を受ける。


「まずはですね、今回のイベントに全面的協力をいただいたスタブライト王国より、パスタリオン王子、シャルノワール王女からお言葉をいただきます。ご傾聴ください」


 めのうが式事を進めると、ステージの端から二名の男女が登場した。


 右手からはめのうのお株を奪う紅いスポットライトを引き連れて、パスタリオン・クリムゾン・スタブライト。

 左手からは瑠璃色のスポットライトを踊らせた王国三大美女たるシャルノワール・アズール・スタブライトが。


「皆の者、我がスタブライト王国の第一王子、パスタリオンである」

「同じく第一王女、シャルノワールでございます。此度の催しで、改めてお話の場をいただけるとのことで、楽しみにしておりました。少しだけ」


 パスタリオンはともかく、シャルノワールはエンタメに理解がある。語り口と表情に華があった。

 続けてシャルノワールが話をした。


「ご存じない方がおられるかもしれませんが、我が王国からは、こうしたまとまった場所を提供する以外にも、ミニゲームの賞品供与や人員の融通などもさせていただきました。イベント期間中の特別ダンジョンなどは我が国が誇る精鋭、星騎士団ステラナイツが運営させてもらったところもあったのですよ。もちろん遊んでいたのではなく、訓練を兼ねてですけれども。星騎士ステラナイツと戦った方はおりますでしょうか?」

 シャルノワールが観客に向かって問いかけると、唸るような大声で是が返ってきた。



>あれは王国の騎士団だったのか……

>新種のサーヴァントかと思ったけどカード入手できなくて舌打ちしたわ

>強すぎて草

>装備してくる【複製レプリカ星剣】、レプリカであの強さならオリジナルはどうなのって感じ



「たくさんの方が星騎士ステラナイツと戦ってくださったみたいですね。お礼を申し上げますわ。実は、私とお兄様もいくつかの催しにはこっそり参加いたしまして、楽しく遊ばせていただきました。ね、お兄様?」

「うむ」

 会場にどよめきが走る。いつの間にか王族と対戦していたかもしれない驚き。

 そして何人かには確かに心当たりがあったからだ。

「我は妹ほどに意欲的に参加はしておらぬがな。シャルは初日から随分と楽しんだようだ」

「ええ。スプリンガー・バトルフェスでしたか、そちらに参加いたしまして、新しい風というものを感じてまいりましたわ」



>やっぱりか!

>マジだったのか……

>なにが?

>スプリンガーでオリジナルの【星剣】を持ってるやつがいた、って話題になったんだよ

星騎士ステラナイツがレプリカなのにスプリンガーが持ってるはずねぇだろ、って笑い話だったのにな

>話が変わった

>敗けイベのせいで本戦に出れなかったってコト!?

>おっぺけぺーがよォ……!!!



「私とて仮にもスタブライト王家の一員、まさか敗けるとは考えてもおりませんでしたが……私から勝利を奪う者がいることに思わず胸が奮えましたわ」

「その話を聞いた時は我も耳を疑ったぞ。地力を制限されるとはいえ、【星剣】はおろか【星盾】まで出したシャルが敗けることなどあるのかと。我でも守りに徹した妹を抜くのは少々手こずるのでな」



>悲報 敗けイベではなかった

>敗けイベであれよ……!

>【星盾】 is なに?

>星の盾です

>クソコメやめろ



「お兄様の方はいかがでしたか? 今日の大会に出場された方のほとんどは挑戦してくださらなかったようですが、お兄様もイベントダンジョン『星灯舞踏会スターライト・オリンピア』の最奥で挑戦者を待たれていたのですよ」

「実力者の挑戦がなかったのは残念だ。ぬるいダンジョンでポイントを稼ぐ必要があったのだから仕方ないのかもしれぬがな。挑戦に来た者も大半は半ばで諦めてしまいおった。骨のない者たちだと我が直属の星騎士ステラナイツと嘆いてしまったわ」

「あら。私が伺った話では、お兄様の元に唯一辿り着いたチームがそのままお兄様を撃破して豪華賞品を入手した、ということのようでしたけれど?」

「ぐっ……。制限さえかかっていなければ遅れを取るなどありえんのだが、な……」



>あのクソダンジョン、クリアされてたんか

>知らないところに知らない人が待ち構えてたらしいな

>どんなダンジョンだったんだ

>補給無しでボス五十連戦。なお、数と強化値が段々増えていく模様。

>そんなダルいとこ、時間あっても行くはずねーだろw

>賞品はマジで豪華だったぞオレが行った時には軒並み取られてたけど



 世間話のように二人で会話をしていたが、そこで間を取ると、シャルノワールが観客に向けて微笑みを放った。


「このように私たちも楽しませていただきましたが、皆さまも楽しんでいただけていれば幸いですわ。いずれまた、こういった催しは行われるでしょうから、その時にまた遊びましょうね? 御意見があれば運営の方へお送りくだされば、拝見いたします」

「我々が面白いと思える意見があれば採用するかもしれぬ。もっとも、今回のような有り様であると我も暇を持て余すのでな、次回までに地力を鍛え上げるがよい」


 パスタリオンは言って視線を切ると、その流れで舞台を降りていく。

 めのうが後を継いだ。


「パスタリオン王子、シャルノワール王女のお言葉でした! 退場されるパスタリオン王子を拍手でお送りください! ――シャルノワール王女は進行の都合もありますが、ステージに残ってくださるとのことです」

「よろしくお願いいたしますわね」

「はい、よろしくお願いします! 続きましては総合表彰に移ります……!」


 めのうとシャルノワールは並んでステージの脇に避ける。

 いつかを思い出す並びに、めのうは「平和であれ」と内心怯えながら先へ進める。


「総合表彰……ファーストアニバーサリー・フェスティバル・アワードは、今回のイベントで活躍された方を改めて称えるものになります。今回は初回ということでかなり厳選させていただいております。あまり実力を発揮できなかった方も、次回またアワード目指して頑張ってくださいね。セカンドアニバーサリーも予定はあるので!」


 ごほん、と咳をして息を整える。


「では早速、該当の八名を一気にお呼びしましょう! ファーストアニバーサリー・フェスティバル・アワードで表彰されるのはこちらの方々です!」


 ステージの照明が落ち、ブラックアウト。

 にわかに大きくなるBGM、派手なエフェクトと同時に眩しすぎる照明が点灯する。


 そしてステージには、掴み合いの乱闘をしている四名と、それを遠巻きに眺めている四名が現れていた。

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