第33話 五つ星の観戦者 下
LSと†ブラッディアッシュ†の対戦は、ぽこぽんの経験則に全く反していた。
ゲーム開始からわずか六日で両者がきっちりとコンセプトデッキを組み上げている。
デッキのコンセプトなんて、普通はプレイを始めて二ヶ月、三ヶ月ぐらいかけて概念を知り、カードを集め始めるのが初心者の道のりだ。他のTCGで経験があるからコンセプトデッキを組む、という思考に至るのは理解できるとしても、そんなにぽんぽんと都合よく集まるものじゃない。
『プレイヤー
しかし
LSも大概だ。
運用の難しさとカードのパワー不足、現在の主流である『プレイヤー
新デッキというのはそう一朝一夕で組み上がるものではないのだ。一日中、頭から煙が出るほど悩んだデッキだとしても、実際に使ってみると全然想定通りの運用にならなかったりする。机上の空論がこれほど似合う徒労もそう無い。
だが、これらの驚きはただの前座だ。
『五つ星』のぽこぽんですら持っていない
この時点で並の『六つ星』対戦よりも撮れ高がある。
想像以上に配信で観る攻防の迫力が凄く、プレイヤー防御の場面は特に臨場感がヤバい。この頃には語彙力を失うほどに白熱してしまい、ぽこぽんとリスナーは揃って「うおおおおおおおおおっっっ!?」「マジ!?」と歓声を上げることしか出来なくなっていた。
アッシュの見せ場に盛り上がり――そしてぽこぽんも、ほとんどのリスナーもが対戦の終了を感じた。
様々な対戦を観てきたぽこぽんたちの知識は肥えている。
『プレイヤー
けれどまだLSの逆襲を信じている者たちが、ぽこぽんの度肝に触れる。
ひなげし>そろそろ来る……!
それは古参リスナーのひなげしであり、
『貴様が引いてくる運を持っているか! オレの運が貴様に引かせないか! 勝負しようじゃないか、ターンエンドッ! 引いてみろエルス――!』
煽り倒す対戦相手のアッシュであった。
アッシュの口は殊勝な台詞を紡いでいるが、アッシュの眼は次の未来を想定しているように細かく泳いでいた。こんなところでLSが終わるなどとは思ってもいない。
「ひなげしさん、何が来るの……?」
語尾を付けるのも忘れて、ぽこぽんは尋ねた。
ひなげし>王の決め台詞
ひなげし>その台詞を聞いた対戦者は全員が敗北を喫した
ひなげし>“楡の死神”による死の宣告
「どんだけ二つ名を持ってるポコか! カッコ良すぎるし、ハハっ!」
ぽこぽんはひなげしの返事に思わず笑うと、再び配信に集中をした。
普段であれば睨みつけるように観るのはフィールド俯瞰だが、ここに至っては二人の画面こそがメインだと認識している。
こんなに熱い高品質な
事務的でシステマチックに効率を求めた対戦では得られない栄養がぽこぽんやリスナーたちの欲望を満たしていく。
そうだ。
作業のように対戦をこなしていくのであれば『ノルニルの箱庭』でなくて構わない。この外野を巻き込むほどの熱い臨場感が『ノルニルの箱庭』で一番おもしろいところじゃなかったか?
>こんだけ溜めて引けねーのかよ!?
>ナイツじゃダメだ!
>敗け、か……?
「……アッツいバトル、すっかり忘れてたポコね。勝つのが大事になって、楽しむことを忘れてた。この人たちみたいに、本気でカードを遊ぶことを忘れてた……」
ひなげし>あるさこの手に!
>あるさこの手にッ!!!
>あるのかよ!?
>ドヤ顔で出すのが最下級妖精なのかwww
「……貧運、貧運と言っておきながら、最後の命運は引けるか引けないかの
>出たな、ガバガバ確率論!
ひなげし>エルスはまだ諦めてない!
>引け引け引け引け引け引け引け引け!!!!!
>何を引いたらひっくり返せるっつーんだ
そして、次の瞬間、配信を観ていた全員が間違いなく息を呑んだ。
LSのとっておきすぎるとっておきが明らかになったからだ。
【花の妖精境:ティルナノーグ】。
ひなげし>ビリッと来た!
>れれれれれれレジェンダリー!?!?!?
>使用カードの落差で風邪ひきそう
>初心者同士の対戦を観る価値あるのか(キリッ
>これ観ないで何観るんだ???? 焚き火の映像か?
「こここここんなレアカードが出てくるとは思わないポコよっ!?」
少し前の発言をあげつらわれて、ぽこぽんは顔を真っ赤にして反論した。
それはそう。未だ三桁枚しか存在しないハイレアリティカードが、こんな初心者同士のフレンドバトルで飛び出してくるとは誰もが夢にも思っていなかった。
一気にプシュケーを全損する可能性すらあるリスキーな神秘。逆転の一手を見事に引いてきた。
「始めて六日のプレイヤーが1000点クラスの
などと解説を述べる内に、次の衝撃が訪れる。
「えええええッ!
【トラブルハンター・フラワリィ】の登場で言葉を失った。
初心者が持っていて良いカード群ではないだろう。全体的なカード資産のレベルは劣るかもしれないが、この二人、今すぐにトップオブトップを争える強いカードを所持している。
つまり、ゲームを続けて資産が増えていけば『六つ星』はおろか『七つ星』すら狙える。
特にLSは神秘の運用に向いているカードがほとんど手に入らない序盤のカード群だけで戦っている。その上で癖の強いハイレアを十分に使いこなしていると言っていい。
LSが今後、本当に神秘と親和性の高いシリーズを手に入れたならば――。
劇的な逆転を『ヴェルザンディの木片』で締め、非常に動画映えするエンディングを迎えた新人たちの姿に、予感せずにはいられない。
「……ううっ! ついに『七つ星』を……“桜華七星”をブチ壊す新しい風が来た……っ!」
不落の七星を堕とす、その光景を想像して、ぽこぽんは背筋をぶるりと震わせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます