第112話 神秘破壊のこわいところ
古来、『未知』とは怖れられるものであった。
経験や科学によって解き明かされてきた『未知』。
身近に畏怖の対称となりうる『未知』は現代にほとんど残っていない。
遥か大気圏の外、銀河の向こう。あるいは都市伝説、想像の産物に眠るのみ。
現代において、近いところに身の危険をひしひしと感じる未知なる事象はそうそう起こりえない。
だが『ノルニルの箱庭』においては、その『未知』が跋扈している。
人智では推し量れぬ、神々の秘事。
常識では語れぬ、超常の出来事。
カードというシステムには押し込められぬ、本物の神秘。
一等星の名を奉じるその槍は、人には鍛えられず詳細不明、まさしく神秘の逸物であった。
「こんな急に見えるようになった理由は不明だが……見破ったぞ!」
「防衛反応ですねえ。過剰な神秘力の供給で驚いた身体が、LSさんの使われていなかった機能を活性化させて無理に消費している状態かと。消費しきったら立てなくなるくらい消耗しますよー」
サポートAIだった頃を思い出すような【フラワリィ】の解説に、僕はごほんと咳をついた。
仕掛けとしては【
口に神秘力を集約するのと、目で神秘力を使う違いだろうか。
神秘力によるまやかし、ごまかしといった偽装、隠蔽、秘匿を見抜くにはどうやら必須のようだな……。
他のプレイヤーたちはこんな必須技能をどうして放置していたんだ。攻略サイトには一言も書いていなかったぞ。
……普通のカードゲームなら必要がないから、だな。
お互いにカードのテキストを理解しないと進まないのが普通だが、ノルニルの箱庭において全ての判定はシステムが行う。
プレイヤーがカードの効果を理解しておらずとも、システムとしては正しい効果を出力されていれば問題無しと判断する。
それは自身、あるいは相手がカードの中身を必ず判別できている必要はない……今後、カード
全プレイヤーが特殊行動で秘匿を扱える時点でおかしいな、使い所が難しいな、とは思っていたが、デフォルトで行われる隠蔽や偽装の中に交える使用方法が想定されていたのかもしれない。
分からん殺しにも気を払わなければならないのか……。学びの多いダンジョン攻略だ。
「とはいえ、プシュケーを1点失うだけでこんなリターンがあるのなら僕が受けて正解だったな」
「何を言ってるんですかあ! フラワリィさんが相棒LSさんの危機に介入しなかったら、本当に重篤な後遺症が残ってたかもしれませんよ!?」
「デスペナルティがカードゲームにある違和感。MMOだからかもしれんが……でも、たかがデスペナだろ? 二度と受けたくはないという点では痛みの観点からして同意するけど」
僕がそう言うと、【フラワリィ】は跳び上がってペシンと僕の頭を叩いた。
「たかが、で済ませられるならフラワリィさんも心配しませんよ! 済まないからお怒りなのに!」
「……僕の理解が及んでいないみたいだ」
「いいですか!? プレイヤーのLSさんがどんな欠損を受けても対戦が終わったら元通りになるのは、システムの保護があるからです。システム的な機能として本体や心魂の保護、擬似的な再現で心身を守っているワケです」
詳細を全く省き、とにかく実際に起きていることの根幹について話し始める。
ゲームの仕様だというのはよく分かるが、何か?
「そのシステムの根本は、神秘を用いてこの世界で実現されているもの……。今、LSさんはシステムの保護よりも強い神秘による破壊攻撃を受けたんです。いかな神々が実用化したシステムといえど、単純に上回るパワーで破壊されたものを元通りになんて直せませんから!」
「どこも怪我とかないけど……」
胸に空いた背中まで貫通するどデカい穴はすでに塞がっている。もう痛みはないが……。
僕は身体を捻って全身をチェックするが、特に異常も感じられない。
「奇跡と言うべきか、驚きの資質を喜ぶべきか迷いますねえ……。もしくは全世界が注目するほどの鈍感さかもしれませんが」
「おい」
「あんなのをまともに受けたら、ふつーは立って歩けなくなるんですけどねー。心魂が消滅して廃人化までありえるコースだったのに」
「ええ……そんなまさか……」
デスペナを飛び越えた表現を疑って、僕はそんな攻撃を放ったパスタリオンに視線を向けた。
彼は一つ頷いて、
「我が妹に近づいた不埒な輩、不能にしてやろうと思った程度の威力しか込めておらん。うまく肚で受けたな、股に刺さればなお良かったのだが」
僕のタマはヒュンとなった。
いや、そんな抜け道を使って、妹と接点のある男を去勢しようとする兄なんている?
「
「そんな
「物語が進めば実装されるはずなので、もし心魂を破壊されていたら治るまで介護生活でしたねえ」
介護とか以前にゲーム引退事案なんだわ、それは。
つまり総合的に考えると……パスタリオンという敵は、現時点では戦えるけれど戦ってはいけない相手という結論。
オープンワールドゲームで色んなところに歩いていけるけど、メーカーの想定した攻略ルートから外れると見・即・死の敵キャラが出てくるのと同じだと認識した。
確かに――
「RPGで言ったら主人公かライバル、終盤のめちゃくちゃ目立つボスが持ってるような武器だもんな……」
謎に包まれていた【星槍:ペテルギウス】の秘密を、僕の眼がその一端を紐解く。
バグっているようにしか思えなかった乱高下する
それはバグではなく。
「『数値不定』……。そんなカードがあるんだな」
「『
ならば『
ここに至って、正確な数値が算出された。
パスタリオン・クリムゾン・スタブライトの戦闘力は10000!
【星槍:ペテルギウス】の戦闘力はパスタリオンと同値のため、10000!
『
それがパスタリオンの必殺技たる『
戦闘力3桁しかないプレイヤーの睾丸を破壊するためだけに、6桁ダメージの攻撃を出すんじゃない……!
しかし、わずかながら勝機が見えた。
『
僕に手番さえ返ってくれば、ワンチャンあるぞ!
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