第51話 揺さぶり
「さて……どうするか」
警告など初めて出てきた。やはりテキスト外の制限があったか、という面持ち。
階級とやらが何を指すのかは謎だ。
順当に推測するならば級管理をされているレアリティ基準だろう。もしかしたら僕の知らないマスクデータに振り回されている可能性もあるが、それは現時点で知り得ない内容なので捨て置く。
これまで機会がなかったから知らずにいたが、能力を模倣するような真似はそうそう許されていない模様。そりゃそうか。
【粗悪な星剣】を手にしてはみたが、『黒』がそうしてみせた時と同様には輝かない。
品質が粗悪ゆえか、はたまた僕が【星剣】を理解していないからかも分からない。
何もかもが分からんパーティーだが、それでもこの場を切り抜けなければいけないのが辛いところだ。
「まったく……いやになる」
どうして初心者ばかりが集まるはずの大会で、こんな得体の知れないカードを相手どらなければならんのか。
「そんな謎のカードがどれほど強いのか……気になって仕方がない自分が一番困るな!」
羨ましすぎるだろ、情報を秘匿できるカードなんて。
強者のオーラを出しまくりながらもその正体は謎に包まれている……それに興味を惹かれないゲーマーは存在しない!
アレと比べて、僕の切り札はゴシップに口が付いているも同然の妖精ときた。
どちらが欲しいかと問われれば、当然【星剣】であろう。
山札の奥深くから聴こえる苦情らしき音は念仏のように両耳を擦り抜けていく。文句を言うならせめて手札に来い。
ほぼ同時にタイムカウントが残り一分を知らせるべく、視界に大きく映りこんだ。
各手番で全く動きがない時、タイムカウントが減算されていく。最大で五分の時間制限はターンを終えるとリセットされるが、それゆえにカウントが零となった瞬間には容赦なく敗北の烙印を捺し付ける。
残り少ない時間で、僕は最後の一手を選ぶ。
「本来考えていた用途とは違うが四の五の言ってられない。来い……!
銅色の出陣光から飛び出した青いうさぎは僕の後ろ、中央中列に陣取り、器用に後ろ足で立つと前足で抱えたトランペットを「パッパー!」と吹き鳴らす。
「【ラビッツオーケストラ】の特殊能力『
僕の指示に合わせて、トランペッターが調律を終えた楽器に生命を吹き込む。
冷たい石造りのフィールドに勇壮な独奏が流れ出した。
「トランペッターは隣接マスに居る味方の戦闘力を倍にする……!」
加えて、僕はここで一回の対戦で一度きりしか使えない秘策……プレイヤー
『
文字通り、該当の行動についてその全てを秘密にできるというバカ強いムーブだ。情報秘匿が相手をてんやわんやにするのは、これまでの僕を考えれば簡単に理解できるはず。
もっとも相手にも「行動が秘匿された」旨は伝わる。秘匿行動を指摘する特殊行動『ノルンの眼』を使用すれば看破は可能だが、そのためには正しく「秘匿された行動」を見抜く必要がある。
見抜かれた時、僕の起こした行動は筒抜けとなり、失敗あるいは効果消滅の判定を受けてしまう。
「まあ、見抜けるのなら、の話だ。使わないのか? 『ノルンの眼』を!」
「…………」
僕の煽りをやはり無言で受け流す『黒』。
くそ、それも正解だ。
秘匿するまでもなく、僕の行使できる行動自体が少なすぎた。
手札から消費神秘力が0の神秘を使用するか、あるいは残された特殊能力を使用するかのどちらか。
『
そこまで完璧に見抜かれた。
『黒』は微動だにせず、ターンエンドを待っている。
ちなみに僕の『
しかし『ノルンの眼』を使用していない『黒』にその成否は伝わっていない。
であれば、僕は万事快調、何もかもが思い通りに進んでいるように見せなければならない。
数少ない顔面の筋肉を総動員して不敵な表情を浮かべてみせる。
「僕はターンエンドだ」
「…………」
僕が宣言するや、『黒』はカードを一枚ドローし、それから流れるように端から二枚捨てた。
――
あまりにも速やかなターン終了に思わず唖然とする。
僕と戦うのに、もう準備はいらないというのか。
「……確かにこれ以上準備されても対抗できん。そのままのお前でいてくれ」
三枚目の【星】が出てきたらもうどうしようもないもんな。その場合は潔く負けを認めよう。
何せ、『黒』はもはや手札をどこかへと仕舞いこんでしまっている。
右手に【星剣】を左手に【星盾】を構える姿は堂に入り、下手すれば僕の立つマスを小便器にしかねないほどの
そんな恐ろしい相手に僕が立ち向かえているのは、ここがカードゲームの戦場であるから。
へっぴり腰で構えている剣がいくら震えていようとも、カードゲームの対戦であるならば、僕はけして引けないし、引かない。
それが僕の矜持、そして僕が勝ってきた相手に対する礼儀だ。
【星】がまだ二枚しか出ていない現状なら……ワンチャンス……。
「あると思っていくしかないんだよなあ……」
時空が歪み、轢き潰される直前で僕は二枚のカードを供出し、
問題のヴェルザンディフェイズがやってきた。
剣だけあってアタックアクションの許可される今フェイズでは【星剣】が思う存分に暴れまわるはず。
その真価を間近で、何ならこの身を以って体験できるのが待ち遠しいような、ずっと来てほしくないような。できれば僕が手に持って体験したかった。
「僕のターン、ドロー!」
籠手に装着したデッキから狙いをつけてカードに指をかける。
勝敗を決定づけるであろうここに至り、ようやく僕は自分の賭けるべきカードを決めた。
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