第58話 スプリンガー・バトルフェス(Finals-2) VS リョーマ・ザ・ゴッズ
【miniature garden Set...】
【プレイヤー:リョーマ・ザ・ゴッズ と マッチングしました】
【Springer BATTLE FES】
【...Finals 2...】
【Take care】【of】
【Psyche!!!!!!!】
瞬きをすると、僕は
夕焼けに沈みつつある王都近くの草原。夜を囁く風が地を埋め尽くす草花をざわざわと泣かせる。
対面にはいけすかない男、リョーマ・ザ・ゴッズが首をコキッと鳴らして待ち構えている。
僕らは本戦二試合目……予選は同時進行だったが、本戦は順番に対戦が行われる。
一試合目の結果は未だ知らない。僕らは控え室に隔離されていたので。
それは一試合目の勝者もそうであり、互いに決勝で顔を合わせて初めて分かる。
リョーマはデッキホルダーをデフォルトから変更していないようで、虚空の異次元空間に隠した山札から手札を揃える。
「さぁて、そんじゃあ……噂の王サマとやらのお手並み拝見っつーとこだな。
「僕は自分でそう名乗った覚えは一度もないが……お前を叩きのめす予定は変わらない。
オードブル代わりの挨拶でコースの出来が推し量れる。
盤外戦術……というよりも口撃、トラッシュトークが存分に味わえる対戦になる。直近では最も印象に残る『黒』とは全く逆の戦いになりそうだ。
初手から煽りをかましてくるリョーマを流し受け、僕もデッキからカードを引く。
両手に持った
今回、僕はデッキホルダーを籠手から別のものに変更していた。
それが創作やタロットなどの絵柄で死神がよく持っているような、身の丈ほどもある大鎌である。
ステージイベントが始まる前に知った、リョーマがしたことに対する怒りのメッセージ。お前の魂を刈ってやろう、そういう悪意の下に選択した、威圧的なデカい舞台装置だ。
イクハを負かしたことに怒っているのではない。
単純に大会で舐めプをするような心根が嫌いだ。
せっかく引き入れた新規プレイヤーなのに、もしこれを苦にプレイを辞めてしまったらどうしてくれる。
お前みたいな直結厨が業界の印象を悪くして、結果、僕らの住環境も悪くなっていくんだ。お前はそうじゃないかもしれんが、僕らはここの水でないと生きていけないのだから、水を汚す行為はやめろ。
あれやこれやと付随して湧き出てきた色々な怒りもついでに添付しておくが、大まかには「よくも僕の教え子をいじめてくれたな」という気持ちが先に立つ。
自称ライバルは雨後の筍みたいにぽこじゃか生えてきた、けれど一から教えるなんて相手はイクハが初めてだ。可愛くないはずがない。
「覚悟してもらおう」
わざわざいたぶろうと思わなくても、性格の悪さってのはプレイングに出るものなんだと思い知らせてやろうじゃないか。
システムによるオートコイントス。
表が出て、リョーマ・ザ・ゴッズの先手。
<1st phase:Urd's turn>
「おれの先手か、勝っちまったなぁー」
「せん妄か? 早く病院に行った方がいいぞ」
「正常だっつの! 先手有利のこのゲームで、おれが先手を取った以上、オメーに勝ち目はねぇってことだ! 文脈を読めッ」
理不尽に怒鳴りながらリョーマは山札から一枚カードを引いてくる。
それからプレイヤー:リョーマ・ザ・ゴッズが一歩前進、中央中列、敵陣のド真ん中に移動する。
観客に優しくない配信者だな。
リョーマが出陣させたサーヴァントは
「
相手の【ハイコボルト・グラップラー】について
セオリーとしてはやはりいくら能力値が高くとも、特殊能力持ちで組めるようにしておきたいところだ。
そこであえてノースキルを組み込んでいるのであれば、ノースキルを活かす何らかの仕掛けがあるはず。この対戦のキモはそこか。
「僕のターン! 山札から一枚ドローする!」
およそ一秒で簡単に考察を終え、僕はウルズフェイズ最初のカードを引いた。くるりと片手で大鎌を回すと、空中からカードが落ちてくる。めちゃくちゃドローしにくいな。
宙に並ぶカード列に新たに加わった一枚が、僕にいくつかの選択肢を提示する。
「こう来たか……。ならば僕はノルニルに助けを請うこととしよう。
僕の伝説級を含む手札六枚が捨て札へと奪われ、異空間から舞い降りる手札に入れ替わる。
「あんだけ大口を叩いた挙げ句に手札、事故ってんのかよ!? こりゃもう、さっさと
「焦るなよ、ゴッズ。それに僕が叩いたのは半分以下だと思うが……」
【花の妖精境】を捨てたのは当然意味がある。
そもそも初手に来ても使えないカードだ。
序盤のサーヴァントを全て注ぎ込むという手がなくもないが、かなりリスキーな手段だ。
【花の妖精境】は強力なカードだが、ギャンブル性の高さがネックだ。ギャンブルしなきゃならないから、神秘力が1000で済んでいる側面がある。
基本的に序盤ではウルズフェイズで用意された盤面を処理する必要がある。
3ターンもの間、お互いに準備を重ねて作った万全の態勢を崩さなければならないわけだ。
それをギャンブル一点突破に託すのはギャンブルが過ぎる。ただでさえ僕は貧運なのだから、運任せな部分については極力排除していくべき。
ということで今後を見据えて手札交換、そのついでに捨て札で待機してもらうのが丸い選択となる。おそらくは。
新たな手札六枚を一瞥し、次の行動を決める。
右から二枚目のカードを大鎌の頭で叩く。
「サーヴァント出陣ッ! 左側後列に【買い物上手の
「……ンだぁ? 妖精だと……?」
麦わらのバスケットを持つ家政婦姿の
子供のようにも見えるが、彼女たちの基準では十分以上に大人らしい。
「【買い物上手の
僕が捨てる手札を選択すると、
これで手札は六枚になった。
かつてのフレンドバトルとは違い、僕にもドロー
リョーマのハイコボルトと戦うにはマックススタックしても足りないが、そういうサーヴァントじゃないから構わない。
1ターン目としては良質なスタートを切れた。
「ターンエンドだ、ドローをしてくれ」
僕がターンを回すも、リョーマはドローせずに僕の顔を見ていた。
訝しんでリョーマの顔を睨み返すと、
「おい……もしかして、おれに妖精なんかで挑むつもりかよ?」
「正しくは
「……おれもずいぶん馬鹿にされたもんだな」
リョーマが低い声で唸る。
ダンッ! と地面を踏み鳴らした。
「『ノルニルの箱庭』最弱のシリーズ『妖精』でよくもまーよぉッ! おれを叩きのめすだなんて吠えたなアァ゛ッ!? 舐めんのもいい加減にしやがれクソカスがッッッ!!!」
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