第134話 連休最終日も盛り上がっていこう!
――ゴールデンウィーク最終日。
連休が終わるということはすなわちノル箱一周年企画『ファーストアニバーサリー・フェスティバル』の最終日ということでもある。
一週間以上にも渡るお祭りの総決算、スプリンガーとは桁違いの参加者がいる『オールプレイヤー・バトルフェス』は二日をかけて、その頂点が決まろうとしている。
僕らはスタジアムの一角に陣取って、結末を見届けていた。
「クソ……オレに勝ったんだから、そのまま優勝しろよな……!」
アッシュがそう溢しながら応援しているのは『七つ星』の
しかしながら現状は劣勢に追い込まれている。
ゆえに、
「ちょっとデッキの相性が悪かったかもな」
対戦相手は『プレイヤー
恋々と同様に
戦術といったようにデッキスタイルは大まかに分けられるが、厳密に同じカードを揃えるのが大変なこのゲームにおいて、同じ名称の戦術を用いていても全くの同じデッキであることは起こりにくい。
キーカードの特性において、決め手やそこに至るまでの経路が違う。
恋々も弱くないことは理解しているが、ジンの
じわじわと相手のゾーンを侵食していき、気が付いた時には相手を負けに追い込むタイプの恋々。
対して、天衣無縫の強さを持ち地上の出来事を無視してしまうサーヴァントで場を荒らしまくるジン。
ジンがキーカードを引いてくるまでに準備が整えば恋々の勝ち、早々にキーカードを引き込んだのならジンの勝ち。
そういう勝負だったように見受けられる。
「あ、終わった」
リッカがぽつりと言う。
恋々が悪あがきにサーヴァントを一枚出したが、もう打つ手はないだろう。
あくびを漏らしながら、フルナが受ける。
「それにしても……つまらない対戦だったわね」
「現状では最高峰の対戦なんだが?」
「淡々と進んで、淡々と終わるじゃない。勝負の内容はどうあれ、エンタメとしては初心者の私たちにはとっつきにくい。実況と解説を聞いてないと辛いわ」
「私もロウくんたちの対戦の方が面白かったかなー」
イクハまでそんなことを言う。
結果的に恋々はあっさり負けてしまったように見えるが、お互いに高等テクを張り巡らせた対戦だったというのに。
玄人の技術は素人には難しい。……いや、偉そうなことを言ったが、僕も解説を聴かないと知らない技術が結構あった。
「彼らの名誉のために言っておくけど、僕の口プレイが多い対戦は割と邪道だって見方をされてもおかしくないからな」
細かな規則が制定され、カードゲームの公共性が増していくにつれて、プレイヤーのマナーは切に求められるようになっている。
度を過ぎた言動はノル箱でも
必要に応じた結果が、今の口数少ない対戦環境なのだ。
僕のプレイスタイルが時代に逆行しているだけで、彼らは至って真っ当なプレイをしているわけだ。
「カオティックムーンじゃ、エルスがそのプレイスタイルを流行らせちまっただろ。おかげで一番治安の悪いTCG扱いされてんだからな」
「それは僕のせいじゃないだろ!?」
「店舗大会は盛り上がりすぎて、デパートとかは場所を貸してくれなくなったって聞く」
「すごいね……」
風説の流布だ。うるさすぎるとかじゃなくて、場所代が見合わなくなったとかそういう話に違いない。
「それなら、ノル箱でも流行らせてほしいところね。プレイヤーの熱が間近に感じられない対戦は退屈だもの」
「オレが勝ち上がれてりゃ、エルス式をお披露目できたんだがな」
「エルスくんが出ていたら、ねぇ……」
「無茶を言うなよ。ダンジョン攻略がキツいのもあるけど、カード資産をもうちょいなんとかしないとな」
もし僕が出場するとしたら、通常サーヴァントと
大会を通して見た感じ、キーカードは劣っていない……どころか一歩抜きん出ている可能性もある。万全に出陣させられたら勝てる目もあるが、それは出陣させられたらの話だ。
「やっぱり出ても敗けてたんじゃないか。カオティックムーンは最初から最新のカードを揃えられたけど、ノル箱は順番に進めていかないとカードは手に入らないしな。一年前からプレイしている人たちにはまだ勝てないと思うよ」
そう締めると、四人は不意に魚の肝を噛み潰したように苦い顔をした。そんな顔をせんでも。
今はまだ挑むには準備が整っていないだけだと言っとろうに。
『五つ星』に上がってカード資産を強化したら、挑戦したいと思っている。
準備不足で強い人に挑むのは失礼千万だからな。
「どうでもいいけどよぉー……」
後列に座る鈴木がどうでもよくなさそうな声で口を挟んだ。
「LS、お前、それ、どうなってるワケ?」
「それ?」
佐藤も指差して、大きな声を上げた。
「なんでイクハたんを膝の上に乗せて、フルナたんを脇に侍らせ、挙句の果てには敵だったリッカたんを背中に纏っているのかってコトだよォォォーッ!!!」
「たんは辞めろ!」
「あぐっ」
フルナの裏拳が佐藤の顎を直撃し、佐藤はその場に崩れ落ちた。
あれはてこの原理……!
顎の先端を激しくヒットすることで頭が揺れ、脳みそが頭蓋骨の中をあたかもピンボールの如く跳ね回り、脳震盪を起こす……!
か、どうかはこのゲームが再現しているのか不明だが、佐藤は椅子と椅子の隙間に沈んでいく。
鈴木はその様子に怯えながら、しかし詰問を止めない。
「つい一週間前とよぉ、なんか……距離感が違いすぎねぇか? つーか、セクシャルタッチの制限は?」
「鈴木くん。セクハラだと思ってなければセクハラじゃないんだよ?」
「な、なんだって……!?」
イクハの説明に鈴木は驚愕の表情を浮かべた。
もちろんそんな思い込みみたいなファジーなものではなく、セクシャルタッチの度合いを緩和する恋人契約なるものを結んだからである。
プレイヤーオプションではなく、カード協会から案内を受けた、国立の契約管理所で受けなきゃいけないのが面倒だった。なお、恋人契約をしてもあくまで緩和されるだけでえっちなことはできない。疑っているが一応セクシャルレイティングは全年齢対象です。
鈴木は何を勘違いしたのか、キリリとキメ顔をして言った。
「オレの膝の上も空いてますよ」
「結構です」
「誰でもいいわけじゃない」
「私たち、エルスくんと付き合ってるから」
血走った目で鈴木に睨みつけられた。僕を睨まれても……。
「なんでこんなやつに三人も……!?」
「それはそう。僕も不思議だよ」
「――あら、当たり前のことではなくて? 王者には何かと寄ってくるものですわ」
張りのある美声が突然割り込み、僕らは一斉に振り向いた。
聞き慣れぬが聞いたことのある声……。
その持ち主は視線を集めたことにも動じず、微笑みを浮かべる。
「
唐突に現れたシャルノワール・アズール・スタブライトは、僕に手を差し伸べて言った。
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