第23話 審判のヴァルキリーは後ろ姿も良い
力強く言い放った僕の台詞は、実のところ僕自身に対する鼓舞に過ぎない。
再三になるが、アッシュの強化を妨害するにはカードの資産が不足している。
僕はアッシュとの対戦に際し、主にランクマッチとショップでカードパックをかき集める手段を講じた。
これはノル箱における対戦の経験値を少しでも稼ぐという考えの下だが、最も大きな理由として
【フラワリィ】さえ引かなければ別のデッキを考えたのだが、引いてしまった以上はなるべく活かしてやりたい。軸にするには十分な性能だった。アッシュに対抗できるカードが他になかったこともある。
翻って、アッシュのデッキだ。
アッシュの言葉を信じるならば、やつは最初期の時点でダンジョンへカードハントに数多く通っている。
ダンジョンにはそれぞれ特徴があり、特定のカードを幾分か集めやすくなっている。アッシュの手元には僕よりもはるかに多くのデッキコンセプトに沿ったカードが集まっているはずだ。
強化を一度妨害する程度ではすぐに盛り返してくることが想定される。
そうなると絶対的にカードが不足している僕が先に音を上げる。長期的な我慢比べは現状、僕の方が不利なのだ。
ただし――僕の方が有利な点も、一つある。
「僕のターン、ドロー……っ!」
籠手から引き抜いたカードを見る。
ウルズフェイズ、もしくは最終のスクルドフェイズであれば有用だが、今に限っては違う。ランダムな手札一枚を山札のランダムな一枚と交換する特殊能力を持っているのだが、仮に手札の【山の怒り】を山札に戻されると終わる。
手札は四枚。ごまかしてはいるが、リソースを増やすカードがないので後になればなるほどジリ貧だ。
「……そうだな……、【ワンダリング・ガーデンラビット】は2マス前進して『
左側の中列に寝転んでいた白うさぎに指示を飛ばす。
白うさぎは嫌そうにしながらも、僕の指示に従い、所定の場所へと向かう。
2マス先――そこは敵陣の前列だ。
隣接した白うさぎを威嚇する【バトルホース・イグナイト】。見ぬフリをしてせっせと穴を掘っていく。
「お前が出陣させる余地を削っておこうか。サーヴァントが存在するマスに、プレイヤーが新たにサーヴァントを出陣させることはできない」
「次のターンでオレが倒しに行くとどうなるんだ?」
この質問は白うさぎを倒した後の話だろう。
攻撃を仕掛けた側が
そこに兎穴が空いていて、なおかつ騎乗状態のカードが落ちた場合はどうなるのか。騎乗状態とは二枚のカードを一枚と見做している状態であり、実在のカードは二枚になる。
「僕もその答えは知らない。
そう言うと、遥かなる上天より空を割る光が差す。このゲーム、何かと光る演出が多い。神々の後光が眩しいぞ。
上天から現れたのはノルニルの使い……正確にはスクルドの御使いたる
白い翼と飾り兜からたなびく金髪が印象的だ。何度か呼んでいるが、その度に違う個体が派遣されているようで、揃いのフルプレートメイルの中身は大分誤差が出る。
今回の御使いは豊満な女性の象徴をお持ちになられていたので、思わず拝んでしまった。
「審判を求めたのは貴方ですね。どの判定を迷っていて?」
早速、兎穴の判定について確認をした。
「騎乗状態で設置物のあるマスに侵入した場合、特に記述が無ければ乗り物が優先対象になるのは変わりません。『
「仮にだが、バトルホースを残してライダー……今回の場合はプレイヤーを兎穴に入れることは可能なのか?」
純粋な疑問になるがこれもついでに尋ねておいた。
このゲームはプレイヤーが
兎穴にプレイヤーを落として山札に消せるなら【ワンダリング・ガーデンラビット】の運用が変わる。
「あくまで優先対象であり、また対象を取る――指定する技能ではないので
「なるほど……そう上手くはいかないか」
お手軽な即死コンボも考えられたのだが世知辛い。
また兎穴を消そうと思えば消せるのは理解した。代わりに『騎乗』が解除されることによる行動力の消費を誘発、プレイヤーの位置誘導に使えるかもしれない。
新たな使い途を脳裏に描きながら、
「アッシュ、
「ああ。少なくとも現時点では踏んじゃならないことは理解したぜ!」
「よし。
「迷い悩める時はまたお呼びなさい。公明正大な審判を我が主の名において誓いましょう」
そう言って彼女は大きな翼を羽ばたかせて上天へと帰っていった。
後ろ姿もヴァルキリーはいいよなあ……。僕も変な妖精じゃなくて、下位でいいからヴァルキリーみたいなのが欲しかった。山札がガタガタ震えている気もしたがスルーする。
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