第205話 恐るべき巨鳥、現る
初手『ノルンの憂い』は僕の戦術としては定番となりつつある。
それは単純に高火力高消費
相も変わらぬ【フラワリィ】の装備用カードというワケ。
どうせ捨て札に送るのであれば、同数のカードを補充できる『ノルンの憂い』を使用した方がお得だろう。
本当はわずかに行使するか悩んだ。
有用なカードの手持ちが増えた今となっては、以前と違い、単独での使用が難しい
捨てる前の手札でも十二分に戦える確信はあったが、それでもあえて『ノルンの憂い』を即時実行した理由は、捨てる前の手札では勝てるという確信を得られなかったからだ。
フルナの動きから醸し出されるきな臭さを打ち消すには至らないカード群。
であればいっそ、空気を入れ替えるためにもカードを全取っ替えしてもよかろう、なんて軽率な思考だった。
対フルナの戦略として、あまり
これまで猛威を振るってきた
僕の考える【星堕ちの詩】が強い部分はおよそ三つある。
ランダムかつ1マスという狭い範囲ではあるが、フィールドのどこにいても攻撃可能な点。
その攻撃が当たれば問答無用で3000ダメージを稼ぎ出し、しかも神秘力の消費量次第で回数が可変である点。
そして、星の落下マスが地形破壊される点。こちらがメインの効果だと思うことすらあるほど強い追加効果だ。
フルナの鳥獣デッキはこの、
【星堕ちの詩】による地形破壊の主な効果は行動の阻害だ。隕石の衝突により破壊された地形のせいで足を取られて行動にデバフが掛かる。
翻って、果たして空を飛ぶ鳥がメインサーヴァントとなっているフルナのデッキに通用するのか。
しない可能性が高く、僕だけ破壊された地形に邪魔されて一方的に嬲り殺しにされる未来が浮かんでくる。……いや、フルナが持ってくる全ての鳥が【シェケナケルス】みたいに地上で活動する怪獣型ならめちゃくちゃ刺さるんだけども。
空を飛ぶところが鳥は強いのだし、【シェケナケルス】はマイノリティだと思おう。
前ほど哀れんでもらっている気のしない『ノルンの憂い』で手札六枚を入れ替え、中身を確認する。
「ふむ……。順当にこいつかな」
僕が選択したのは
何が変わったのかと言えば、『おかいもの』の練度が上がった。
僕の左側後列に出陣した少女姿の【シルキー】はかつての【シルキー】よりもシャンとして、仕草に無駄がない。まるで歴戦の主婦が
「特殊能力の『おかいもの二刀流』は両手を駆使して行われる高速のおかいもの術……そのおかいもの速度は実に二倍だ!」
「それはすごいわね」
ツッコミをちょっと待ったのだが、肯定されたまま流された。
両手を使ったから二倍とか安直な、みたいなさ。
マスターしたのに二倍なのか、とか。
少し寂しい。
「……こほん。【おかいもの達人】にかかれば、手札を一枚捨てて山札から二枚ドロー、の特殊能力を1ターンに二回使うことができる! おかいもの速度が二倍ゆえに!」
「結果的には二枚捨てて、四枚を追加、合計で手札が二枚増になるのね」
「……はい」
ツッコミが入らなかったからか、どことなく【シルキー】も切なそうだ。せっかくキリリと凛々しく出陣してくれたのにすまない。
やるせなくも出陣したばかりの【シルキー】に神秘カードを一枚渡すと、彼女はマスの左右にパタパタと立ち上がったパネルで奥に伸びる商店街へと向かい、お肉屋さんらしきお店でカードを二枚購入してきた。
この間、わずかに五秒である。
帰ってきた【シルキー】がお澄まし顔でカードを渡してくれたので、お返しに頭を撫でておいた。
妖精は愛らしいカードが多くていいぞ、一部を除いて。他の人も妖精を擦れ。
このカードの良いところは、手札を二枚増やせることではなく、最大で四枚の山札を確認できてしかも手札を二枚捨てられることにある。
手札を二枚増やすだけなら、一枚捨てて三枚引くとか、プシュケー1点消費で二枚引くとかもあって、それなりにバリエーションが選べるが……。
僕の場合は捨て札を第二の山札として扱うようなデッキ構成なので、捨て札をも充実させておく必要がある。
『ノルニルの箱庭』というゲームは、戦闘消費だけでは意外と捨て札が増えないので、こういった形で追加していくのが大事なのだ。
「ともかく、さしあたって手札を拡充する手立ては揃えてみた。僕の手番はこれで終わりだ。フルナ、君は手札を増やさなくていいのかい?」
「ご生憎様! 手札を補充するだなんて、そんな遅い手は使っていられないんじゃないかしら!」
ほとんど全てのプレイヤーに牙を剥き、フルナは新たにドローをする。
「私のターン! 続けてサーヴァントを出陣させるわ!」
フルナが手札から右手側に放り投げたカードが実体化するも……、サーヴァントの姿がない。
「……いや、これは影か!」
マスの表面に薄黒く回遊するもの、それは天井間際を周遊する巨大鳥の影だ。
なぜか天井や壁にはぶつからず、謎の光源により逆光となっているのでいまいち詳細が判別できない。どこから差しているのか不明な光により発生した黒い影だけが、地上の僕らに干渉できる対象となる。
「
「なんじゃそら!?」
フルナの宣言に慌てて僕は
「……確かに、ほとんどの、と言っても過言じゃあないな」
【ブレイズコンドル】は天空にいるので、地に足を付けて生きる動物の攻撃はほとんど届かない。
飛行している系統の種族特性や特殊能力を持っているか、あるいは遠距離攻撃を可能とするサーヴァント。そして届きそうな攻撃系の
主流デッキの二大巨頭である『プレイヤー
『プレイヤー育成』はその性質上、地上・近接攻撃を得意とする。
なにせプレイヤーカード、あるいは近似のサーヴァントを超強化して、相手を叩いて殴ってしばきあげることで勝利を得るデッキだ。ノルニルの戦士とは言っても、空を飛ぶことができない人間種でしかないので、プレイヤーは必然的に地を駆けて拳なり剣なりで蛮族よろしく
そういう人たちが集まった場で【ブレイズコンドル】が出てきたら、そら圧勝するわな……。
疑問点は一つ。
「……どこでこんな強いカードを手に入れたんだ?」
僕が『六つ星』に至ってでさえも、【ブレイズコンドル】はおろか、類似のカードすら見たことがない。
フルナが入手できた経路、それが皆目検討もつかなかった。
彼女は「ふっ」と小さく笑って答えた。
「エルスが伝説を手に入れたのと同じ――イベント報酬よ」
「こんな強いカードが手に入るほどの大きなイベントなんてここ最近じゃ……」
「見つからないでしょうね」
僕の言葉を遮り、フルナは立てた指先で唇を押さえた。
「
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