第201話 騎士の試し、本選へ
六十四名の本選進出者、決まる――。
参加者はおよそ三千名と説明があったけれども過少申告だったようだ。予選の内容から考えると二百人くらいイメージよりも多い。
僕はその報告を受けて、本選に出る人数の多さよりも、ピクピクと時折痙攣する死にかけの魚みたいな物体との同室から逃れられることに安堵していた。
あの状態で爺さんは対戦なんかできるのか?
ちなみにシャルノワールは「LS、しっかり頑張ってくるのですよ」と僕に激励をして、解説席へと戻っていった。解説を放棄してまで爺さんを殴りに来たのか……。今後は控室だろうと下手なことは言えないな。
『選手のみなさま、ただいまより本選会場にお呼びし、本選についてアナウンスをいたします。ご説明の後に各自対戦へと進みますのでご承知おきください』
この案内だと全参加者が同時に対戦をすることになるが……。
「六十四人もいたら、一戦ずつなんてまどろっこしいことはしないか」
大会自体が二日のスケジュールを取っているならともかく、ノル箱においては対戦場所の制限がないので、同時進行で巻いていくのが諸々楽なのだろう。
大変なのは観る側だけだ。
『スリーカウントでお呼びいたします。足元にご注意ください……スリー、ツー、ワン』
暗転。
――目も眩む、一瞬だけ奔った灯りが光跡を残していく。
そしてふと気付くと、僕らは見知らぬ舞台の上に立っていた。
『レディース・アンド・ジェントルメン、それから老若男女、あらゆる種族のみなさん、おはようこんにちこんばんは! 『騎士の試し』、本選会場へようこそ!』
相変わらずのバカデカアナウンスに振り返ると、いつぞやのコスプレイヤーが歓声を受けていた。
石畳の舞台を囲うように観客席が段々になって設置されている様子は、まるで古代のコロセウム様式を模しているかのようだ。席はプレイヤーと王都の住民、あるいは遠くからやってきた観光客で満員御礼、立ち見もそこら中に出ていた。
その中央、奥に観覧しやすそうな席が設けられている。VIP向けの席か。
それより一段下がる、手前のところに『実況』紅めのうと『解説』シャルノワールが座っている。
『予選の様子は会場のスクリーン、各カード協会等でもお伝えしておりましたが、いかがでしたか!?』
めのうの煽りに、会場が唸るような大声で答える。
『大盛り上がり、ですね! これから激闘の予選を生き残り、本選への進出を決めた六十四名の戦いが始まりますっ! 果たしてここにどのようなドラマがあるのか、歴史に残る名対戦が生まれるのか……今から楽しみでなりません!』
『めのうさん、そろそろ先に進まれてはいかが? 観客の方々も待ち切れないようですわ』
『なるほど、失礼いたしました姫様。試しの儀を超え、真に騎士として認められるのは誰なのか――『
宣言と同時に、コロセウムの縁から号砲が上がり、景気を付けた。
『さて、予選から引き続き司会実況を私、紅めのうが。解説はスタブライト王国王女、シャルノワール様となっております。姫様、引き続きよろしくお願いいたします』
『よろしくお願いしますわね』
『本選を開始するあたって、大会方式をご案内いたします。まず……本選は二部制となっております!』
参加者の間にどよめきが奔る。
「二部制……?」
「いい加減、ちゃんと対戦させてほしいもんだが」
『ご安心ください、対戦自体は予選と違って通常の規則によるものでございます! 違うのは、一部が四名一組とした総当たり戦、そこを勝ち抜いた選手が二部へと進み、計十六名によるトーナメント戦を執り行う形になりますっ』
「……となると、一試合増えるのか?」
六十四名が普通にトーナメントをしたら、六戦で優勝者が決まる。
序盤に総当たりを組み込むと、七戦になる計算のはずだ。
シャルノワールがそこで口を挟んだ。
『トーナメントですと、せっかく本選まで出てこられた方々の実力が一試合しか観られない、ということもございますから。三試合もあれば実力を発揮し切るには十分な時間ですわね?』
『騎士を目指してやってこられた方は、最後まで諦めずに実力を王国に魅せつけてください、とのことでございます! 本選に出場される方々は頑張ってくださいね!』
言い訳は許さねぇからな、アァン? とでも副音声で流れそうなシャルノワールの台詞をめのうが汗をかきながら意訳して伝えている。
なんだか大変そうな仕事で広報にはなりたくないな、と将来の進路に一つペケを付けた。まあ、なれるとも思っちゃいないが。
『本選まで残られた、という時点で大変な実力者ではございますので、お一人ずつご紹介……といきたいところですが、如何せん時間という不可逆の資源が不足しております。よって、第一部はこのまま同時進行で進めさせていただきます! 王都のみなさんにお名前を広く知らしめたいという方は、ぜひとも本選第二部に勝ち残っていただくようにお願いいたしますっ!』
『第二部からは貴方たちが立っている舞台で一試合ずつゆっくり観戦させていただけるそうですわ。私もいきなりそうたくさんのお名前は覚えるのが大変ですから、そうしていただいた方が助かるのですけれども』
第二部にも上がってこないやつの名前など覚える価値なし、そう言ってのけるシャルノワールに、隣でめのうが口元を引きつらせた。
余計なことを他に喋らせてなるものかと、めのうが仕草でシャルノワールのターンを切る。
『説明は以上となります! 早速、総当たりの会場へと移動していただきましょう! ランダムに選出された同室の四名が総当たりのグループとなり、早く勝ち抜いた方からトーナメントの左側から名前を追加していくことをご留意ください!』
……さて。
どんな相手と総当りになるのか。
せめて、みんなとはトーナメントで当たりたいものだ。
周囲を見回すが、さすがに六十人も人がいると見知った人がどこにいるかも分かりにくい。
――チリッ。
強い視線を首筋に感じて、僕は振り返った。
視線の先に、ここ数ヶ月で見慣れてしまった長い顎、ミラーボールのように激しい服装の男が立っている。
冗談みたいな格好ではあるが、中身は本物だと知っている。
アッシュは拳を頭上に掲げ、そして人差し指を天に立てた。
僕も、同様に空を指で示す。
――先にトーナメントで待っている。
直後、僕らは転移した。
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