第195話 一転攻勢

 途中までは上手くいっていた撹乱&ハイディング作戦だが、しばらく時間を稼いだ後に解除されてしまった。


 やはり歴戦の戦士たちが勢揃い。それぞれが適応し、何事もなかったかのように対戦を続けていく。

 そして、唐突に降ってきた通り雨が土埃を回収して地面へと降り注いだせいで、さほどの時間も稼げずに僕は隠れ家を追われることとなった。

 誰かのサーヴァントが使用した特殊能力か、神秘ミスティックの仕業だろう。天気が急変する箱庭は今のところ実装されていない。


 残り数人……とまではいかないけれども、両チームの人数は激減しており、半数以上が退場している様子を見ると、とりあえず僕の作戦は成功と言っても差し支えなかろう。


「LS……!」


 手の空いているプレイヤーは少ない。


 大規模戦場が中央に変わらず存在し、その周辺で小競り合いが起きている。

 そんな状況で手が空いているというのは、僕と同様に交戦から逃げていたか、小競り合いに勝利して様子を伺っていたか。そのいずれかだ。


 中央を取り巻く形で生き残っているプレイヤーは十中八九、しのぎを削りあった末に生き残ったプレイヤーだ。


 その証拠に、僕の姿を見つけて声を挙げるプレイヤーは居ても、先程のように交戦を仕掛けてくる人がほとんどいない。

 僕が逃げ隠れしている間に、一戦、二戦と戦うことになり、手札を相当削られたに違いなかった。


 そうなると僕の取るべき手段は一つだ。


 サーヴァントを失ったまま補充をしていない敵プレイヤーを見つけると、僕は急いで駆けていく。迅速な行動が肝となる。


「な、なんだ、急に!?」

「削れるところは削っておかないと、後で痛い目に遭いそうだからな! 交戦エンゲージ!」


 接敵した相手に早速交戦を仕掛けていく。


 この予選では対戦方式にダンジョンの仕組みを流用しているが、ダンジョンと明確に違う点がある。

 交戦時の逃走が困難だということだ。


 ダンジョンでは条件を満たせば交戦エンゲージ中でも離脱することが可能だが、予選の中では条件を満たすことが難しく、また離脱したところでメリットがほとんど無い。


 離脱の条件とは、出陣させているサーヴァントを囮にすること。逃げる用のサーヴァントを用意しておかないと、主力を置いていくことになりかねない諸刃の剣だ。


 ダンジョンなら強い敵から一時的に逃れて先に進むため、離脱の一手を選ぶことはある。

 しかし大会では離脱したところで次の対戦相手がそこにいる。まさか離脱用にサーヴァントを準備しているはずもない。


 戦い続けて勝ち残るか、主力を失ってでも離脱するか。

 どちらだとしても残っている予選参加者は必ず疲弊するというものだ。


 疲弊した参加者の内、交戦せずに油揚げを狙っているトンビ共は十人いるか、というところ。


 現時点で僕がやられて一番困るのは、味方チームと敵チームで結託されること。


 終盤まで無傷で残ったことで、味方にすら僕が一番の脅威として見られる可能性が非常に高い。

 味方も結局後で敵になるルールなのだ。最後まで味方なら問題ないが、そうでないのなら結託してでも排除する必要がある、と思い至るプレイヤーが出てくるかもしれない。


 相手チームの手番でないと交戦連携エンゲージコネクトできない仕様となっているが、僕を排除するためだけに両チームで結託されると特定の手順で封殺される。


 簡単な話だ。僕に交戦を仕掛けて、次々に交戦連携エンゲージコネクトで大規模戦場を構築、味方チームは敵チームへの攻撃を控えて手番を回せば、敵チームは僕へ攻撃を集中させられる。

 ルール上、反撃は可能だが、多勢に無勢、切り抜ける代償は少なくなさそうだ。


 それをやられる前に、退場させることで手番を喪失させる!


「【シルフィンド】、敵プレイヤーカードを攻撃だ!」

「ぐっ!」


 すでにサーヴァントが手札に無いのか、迎撃体制も取れずにいる敵から先制を奪う。


 いくら妖精が貧弱と言えど、貧弱オブ貧弱のプレイヤーカード200点にならば勝てるカードも何枚かある。


 戦闘力300の【シルフィンド】が牙を剥き、通り抜ける旋風が相手の触れた肌を切り裂く。傷口から溢れ漏れたポリゴンよりもプシュケーダメージに相手は慄いた。

 撹乱要員ではあるが、プレイヤーカードにダメージを与えられるサーヴァントなのは前提だ。孫の手並みに長い手が、この特殊な戦場の手札には要る。


 【シルフィンド】の行動力は2。都合、2点分のプシュケーを削り、しかし相手はまだ倒れない。


「倒せないか……! 僕の手番は終わりだ!」

「くそ……、ドローしてぇな」


 相手が手札を見ながら呟いた。


「まだ十分な枚数がありそうに思えるが」

「キーカードがねェんだよ! リカバリもできやしない……!」

「じゃあ、その手札はなんなんだ?」

「強化用の神秘ミスティックだったが、強化対象がいなきゃどーしよーもないだろ!」

「ああ……なるほど」


 相手のデッキ事情を把握して、僕は合掌した。


 未だにシェアの高い『プレイヤー育成ビルダー』に近いデッキ構成なのだろう。

 予選のルールではサーヴァントの特殊能力で強化をするのは大変、そもそもプシュケーが5点しかないプレイヤーカードを戦力に仕立てるのが至難と、割と逆風のコンセプトだ。サーヴァントを強化して戦う方にシフトしたはずだ。


 神秘ミスティックによる強化の難点は、神秘力を消費すること。あるいは条件を満たさなければならないこと。


 プシュケーダメージを受けたら神秘力は補給できるが、プシュケーダメージを受けるということはサーヴァントが盤面にいない状況になっていそうだ。つまり、やられて捨て札になってしまっている。


 最大限に強化するために、結構難解な条件の神秘ミスティックを持ち込んだりしたのではなかろうか。

 それを使用するサーヴァントがいなくなってしまって途方に暮れている。


「かわいそうに。僕が戦闘力300で引導を渡してやろう」

「どうせなら戦闘力5000の馬鹿妖精にやられたかった……!」

「悪いな、今出陣させたところであいつは0パワーだ」


 ご用命いただいたお調子者の妖精はゴミ漁りをして力を溜めるタイプなのでね。

 捨て札に神秘が一枚もないのではマスコットにしかなれない。……マスコットにしたら余計にうるさそうだな。

 本人が聞いていたらとんでもない苦情を耳元にエンドレスで唱えられそうな思考はさておいて。


 早々に移った手番で【シルフィンド】に旋風を任せる。


「後は任せてくれ、じゃあな!」

「マッチングが悪いぞ、ちくしょお!!!」


 運営を非難する捨て台詞を遺し、相手プレイヤーはポリゴンに砕けて退場していった。

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