第196話 星花大盤振る舞い

 サーヴァントを失いながらも生き残っている参加者がいるカラクリは、交戦連携エンゲージコネクトにある。


 予選の特別ルールで、プシュケーダメージを受けた者の手番が順番を無視して次に割り込むのだが、これの肝はプシュケーダメージが無ければ発動しないところにある。

 最高効率を考えられるなら同一チームが三人いれば、無傷で一人退場させることも可能だ。サーヴァントは各自二枚用意する必要があるけども。


 交戦連携エンゲージコネクトで拡大した戦場は途中で一抜けされても、そこから縮小することはなく対戦が終わるまで続いていく。

 相手の人数を減らせば減らすほど余剰戦力が生まれて、余裕を持ってトドメを刺せるワケだ。


 最悪プレイヤーカードしか盤面に残っていなかったとしても、数が多ければ行動力を削ってから味方に手番を渡して2点ずついじめていける。数は力だと改めて感じるな。


 削り合いというよりはもはや相打ちに近い状態ながらも、そういった数的優位でかろうじて生き残った参加者を倒していく。


「LS! 好き勝手にやるのはそこまでだ!」

「うん? オ、わ……っ!?」


 突如背後から仕掛けられた交戦に後手を取る。


 振り回された巨大な鉄球が【シルフィンド】を薙ぎ倒し、二周目の公転を経て、プレイヤーカードの僕にもダメージを与えてくる。縦回転ならぐちゃりと潰れていた。横回転だったから、腕がひしゃげるだけで済んだ。


 【シルフィンド】は捨て札に直行、僕の生命力は全損。次からプシュケーダメージを頂戴することになるだろう。


 相手のサーヴァントを確認する。

 一つ目の巨人、サイクロプス。鎖に繋がれた鉄球をいともたやすく振り回す怪力。


「こんなカードを隠し持っているなら、あっちの大規模戦闘に混ざってくればいいじゃないか。なんでまた、僕みたいにひ弱なプレイヤーに鉄球をブチ当てるなんて可哀想なことができるのか……」

「お前のどこがひ弱なんだ! お前の妖精だけパワーが違うだろうが!」

「僕の見た目はガリッガリの貧弱そのものだろ!」

「見た目ガリでも中身は狂人だからいいんだよォ!」

「誰が狂人だ!?」


 叙事詩エピック級のパワーだけを指して言えばそうだが、他の妖精はほとんど貧弱なんだから間違ってはいないはずだ。

 しかし同意を得られず、僕の内面にまで言及してくる始末。


 仲良くなれそうにないので、この場からはぜひともご退場いただきたい。


「僕の手番……!」

「おおっと、させねぇぞ! 交戦連携エンゲージコネクトッ!」


 【豪腕の一つ目巨人】の威容に勇気付けられたのか、尻込みしていた敵チームの一人が参戦。

 戦闘力1500の闘牛みたいなサーヴァントと一緒に突撃してきた。

 鋭い角が僕の腹に突き刺さる。


「ぐっ!」


 戦闘力差の貫通ダメージが痛みとなって、僕のプシュケーをざりざりと削りとる。

 通常のプシュケーダメージによる痛みはだいぶ慣れたが、痛いものは痛い。額にシワが寄る。


 交戦連携エンゲージコネクトの強いところを味わうのはかなり辛い。何が辛いかって、回ってきたと思った手番を奪われるのが物理的にも心理的にも辛い。


 おまけのプレイヤーアタックは残しておいた行動力で弾いた。残りプシュケーは3点。


 プシュケーに痛打をもらったことで、僕の手番が確定する。誰かが交戦連携エンゲージコネクトを仕掛けてきたとしても、この手番の後に割り込む形だ。


「僕のターン……」

「お前の切り札【フラワリィ】はどうあがこうと、現状与えられた神秘力2000以上の戦闘力は得られない! それでこの叙事詩エピックサーヴァントたる【一つ目巨人】が倒せるか!?」


 プシュケーに2点ダメージをもらったことで、神秘力が2000に増えている。2000消費の神秘を使用すれば、【フラワリィ】はその分の戦闘力を得て出陣できる。


 しかしながら相手が漲らせる自信の大元、【豪腕の一つ目巨人】さんは戦闘力2400のパワータイプだ。このフィールドでは活きないが、常に1マスリーチ延長の特殊能力は羨ましい。


 闘牛のサーヴァントも侮れないし、何なら僕が行動力を使い切るのを待って連携を仕掛けてこようとしているヤツもいる。


 ――それならそれで、やりようはある。


「選り取り見取り、ってことか」

「……なんだと?」

「的と弾は多ければ多いほど良いってのは常識だよなあ!?」


 僕は一枚のカードを手札から抜き取った。


 特殊能力や神秘ミスティックの中にはフィールドの状況によって性能に変化するものがある。


 例えば貫通攻撃の特殊能力。


 通常の対戦ならフィールドの端から端まで攻撃が届くとして、翻ってダンジョンではどうなるか。

 敵は貫通して当然としても、遮蔽物、壁なども貫通するのか?

 遮蔽がなくともどこまで攻撃は伸びるのか?


 答え、遮蔽物――破壊不可オブジェクトを貫通はしない。射程はテキストに記載がなければ、視界の通る先を限界とする。


 この『視界』という判定が、激烈にファジーではちゃめちゃにヤバいという認識をどれほどのプレイヤーが認識しているか。


「分からせてやるか……! 全領域攻撃神秘の恐ろしさ!」


 強化と防御の神秘ミスティックばかり積んでいるやつらに、攻撃全振りの破壊力を魅せてやろう。


「神秘力を1500消費し――」

「1500……?」

伝説レジェンダリー級神秘【星堕ちの詩】を使用する! 当たるも八卦、当たらぬも八卦ってなあ!」


 【星堕ちの詩】の初お披露目だ。

 僕の手元からカードが解けて消える。


 エドアルドにぶっ放したカードだが、あれはほとんどプライベートマッチに近いし。

 公の大会では初と言ってもいいだろう。


「さあさあ、空より来たる災厄の火、天にまします星たちが命を燃やしながら堕ちてくるぞ! 神秘力100ごとに一発ずつ増えていく流星群は防御を貫いて3000ダメージを与える……! 果たして耐えられるかな!?」

「な、なんだその馬鹿げた性能は!? あまりにも強すぎるだろ!」

「もちろん相応のデメリットはあるさ」

「多少のデメリットがどうし」


 相手の口上を遮って、僕の所持する中央のマスに流星が落下した。


「落下する場所を選択できないってのは、かなり嫌なデメリットじゃないかと僕は思うけど、どうかな?」


 僕のマスを潰した一投目を皮切りに、飛来してくる流星で空がプリズムに染まる。

 虹色に燃える星々の襲来。


 それらは僕と交戦している二名……だけでなく、僕の視界に映る全ての参加者を対象に、平等な確率で降り注ぐ!


「うわああああああああっっっ!!!????」

「な、なんだァ!? これはッ!!!」

「オレ、オレの【ヘラクレス】がぁ……」


 阿鼻叫喚の地獄絵図、再び。


 各参加者が所持するマスはプレイヤーカードの固定マスを含めて4マス。僕の視界に映る人数はおよそ十人弱。


 合計で約40マスもあれば、さすがの僕にもそう当たらんだろ!

 一発目に降ってきたのは挨拶みたいなものだからノーカウントとする。残りの十四発が他のトコに行けばセーフだ。


 天から降り注いだ全てを破壊する虹色隕石が、連携タイミングを窺っていた参加者のサーヴァントを打ち砕き、大規模戦闘中の味方の頭をかち割り、あるいは誰かのマスをぐしゃぐしゃにしていく。

 しかしながらやっぱり僕は“持って”いないようで、交戦中の二人には一発も星が降らなかった。僕のとこには堕ちたのにな。


「てっ、敵と味方の区別もつかねえのか、バカヤロー!!!」

「え? 全員敵だろ?」


 集団の方から飛んできた罵声にそう返すと、非難轟々、ブーイングが重ねで返ってきた。

 うるさいな。


「静かにしてろ、こいつはきっちり処分しておくからよ!」


 意外にもブーイングを止めたのは対面のプレイヤーであった。


 そういえば【一つ目巨人】だけに注意していて、プレイヤーの情報は頭に入れていなかったな。情報を活かす前に退場させる急戦で臨んでいたからだが。

 情報プロパティを開いて見たが、名前は……なんかこう難しすぎて読めない漢字の名前だった。知らない人だ。


「僕を塵芥同然に処分する、と?」

「そうだ! 【フラワリィ】が無力な今、新入りのくせに切り札でまたしても伝説級を用意してきたのは褒めてやるが、そいつは不発だった! あとは神秘力のために殴られ待ちするしかないんじゃねえのか!?」

「なんだ、勉強不足だな」

「……なに?」

「お忘れなのかもしれないが、妖精は神秘と親和性の高い種族だ」


 僕がこともなげに言うと、対面の男はギョッと目を見開いた。


「ほら、あんたが待望の妖精だぞ! こいつの手で、神秘は二度咲く!」


 手札の内で出番を今か今かとわきわきしていた花の妖精が咲き乱れながらその姿を現した。

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