第197話 スターダスト・アンコール

「呼ばれて飛び出てふらわり~! フェアリィ一番の騒動解決妖精トラブルハンターフラワリィさんの参上でございますよ! ……くぅっ、この台詞もなんだか久しぶりな気がしますねぇ。ああ、なんと素晴らしい登場台詞……惚れ惚れしちゃいますよね、LSさん!」

「自画自賛さえなければツッコミ所は少なかったのにな……」

「なっ、フラワリィさんのどこに不備があると!?」

「存在かな」

「なんですとーっ!?」


 登場するなり漫才に巻き込まれるあたりがカードゲームの登場キャラとしては不備だと思うんだよな。

 長台詞で気分良く登場した【フラワリィ】だが、機嫌はプンプンと急滑降していく。


 唐突のハイテンションに面食らっているのは初めて【フラワリィ】を目の当たりにした相手たちだ。


「そいつが噂の【フラワリィ】か……! アーカイブで確認はしていたけどよ、実物は五倍騒がしく感じるな!?」

「おかげさまで僕が静かにしてても問題ばかり起きてるよ」

「十から百までフラワリィさんが悪いみたいに言っておりますけど、ほとんどはLSさんが起因の問題なのでは?」

「君の言論で相手を怒らせたことが何度あったか覚えてないのか?」

「おい、こんなところで責任の所在を押し付け合うのはやめろ!」


 いつものノリで殴り合っていたら対戦相手に怒られてしまった。

 僕と【フラワリィ】は顔を見合わせて、ハァ、とこれみよがしに溜め息を吐いた。


 癪なことだが、相手の怒りのツボを押すための息はピッタリだ。


「何を余裕ぶっこいてやがる! 消費神秘1500で出陣させた以上、オレの【一つ目巨人】はおろか、そこの【暴れ牛】も――」

「出陣させていないぞ」

「――倒せな、い……。……え、ハァ?」


 僕の言葉が信じられなかったのか、相手は【フラワリィ】と僕の顔を交互に見た。


 【フラワリィ】はサービスのつもりでか、花弁のエフェクトを散らしながらくるりと回転し、ウインクまで送っている。


「こんだけ自由な動きムーブをされたら勘違いしてもしょうがないかもしれんが――こいつには手札から発動可能な特殊能力がある」

「……そんなに自由に踊ってるのにか?」


 興が乗ったのか、アイドルのライブさながらに知らないダンスを披露し始めた【フラワリィ】を指しながら問われる。


「残念ながら。さてさて……我が『フェアビッツ』が誇るエースの舞台を堪能いただいたところで、お代を頂戴しようか!」

「いや、それはそいつが勝手に」

「お代の支払いはプシュケーでいいぞ! フラワリィ! 特殊能力『熾天踊りし花車リコール:ミスティック』を使え!」

「はいなぁ!」


 【フラワリィ】が持つ特殊能力の一つ。


「端的に言えば、【フラワリィ】を代償に全ての捨て札に含まれる神秘ミスティックをランダムでもう一度使用できる特殊能力だ!」

「全ての……この会場にいる参加者全ての捨て札ってことか!? それならもう一度アレが選択される可能性は少ない……っ!」

「ところがどっこい!」


 ダンジョンの仕様では諸々の扱いに少しばかり変更がある。


 基本的に捨て札を持つのはプレイヤーだけとなるのがダンジョンだ。敵として出現する魔物はその身ひとつで襲ってくる。カードを使う敵が出てきた場合は別とする。


 またダンジョンでは複数人で同時に攻略を始めることがありながらも、内部で分かれて探索したり、はぐれてしまうこともある。

 その時に自分以外の所持フィールドをデフォルトで含める効果を持つカードはどういう判定になるのか。


 鍛錬の最中でダンジョンに連れて行かれて否応無しにダンジョン攻略せざるを得なくなった時に得た知見だが、ダンジョンでは行動コマンドを実行しない限り、他者とカード・フィールドを共有することはない。


 言ってみれば交戦エンゲージはお互いのバトルフィールドを共有するシステムであり、その状態に入ることで初めてお互いに干渉できるようになるのだ。交戦連携エンゲージコネクトも同様で、干渉領域を追加するコマンドだと考えられる。


 つまり――、


「ダンジョン仕様の予選会場では、僕が参照可能な捨て札は自分の捨て札だけなんだよなあ!」

「捨て札に神秘ミスティックが一枚しかないと選びがいがありませんよ~! もっとたくさんのカードの中からコレという一枚を選びたいのですけどねぇ。この枚数ですと絵図もすっごい地味ですし……」


 亜空間のゴミ箱に手を突っ込んでカードを摘まんでくる【フラワリィ】が嘆いている。

 そんなにたくさんカードがあったら要らないカードを引っ張ってくるに決まってんだろうが。


 『熾天踊りし花車リコール:ミスティック』は神秘ミスティックをほとんど捨てていない状態でなければ相当使いにくいくせに、出陣させて使うにはたくさん神秘ミスティックを捨てておかなきゃならないのが天邪鬼なカードだよ。


「『熾天踊りし花車リコール:ミスティック』で再利用するに当たって、消費神秘力が変動するカードについては過去使用時の神秘力を参照する!」


 ピッ、と【フラワリィ】が引き戻したカードを掲げると、先程と同じくプリズムを撒いて空に解けた。


「二度目の流星による歌謡祭、楽しんでくれよな!」


 ちなみに特殊能力や神秘ミスティックが共有しているかどうかなんてのを貫通する理由は不明だ。そこまで解析が進んでいるワケでもなく……やってみたらそうなったから知っているだけで。


 【フラワリィ】が再発動させた【星堕ちの詩】が再び虹色の尾を引く星を十五発ほど落としていく。


 僕のマスをさらに一つ潰していったのは小粋な挨拶だと言えよう。ふざけんな、くそ。

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