第46話 カードオークション解禁!

 僕も伊玖に激励を飛ばすばかりではない。

 大会に向けて、デッキを仕上げなければ。


 ランクマッチではやはり勝負は時の綾、手札が死んでおり五連敗を喰らうようなこともあったが、なんとか『三つ星』まで辿り着いた。


 攻略サイトでは『三つ星』からがランクマッチ本番とも書いており、実際、レーティングを上げるのがさらにキツくなっていくとか。


 カード対戦大会でも参加条件に『三つ星』以上の足切りを設定されていることが多い。ゲーム的には初心者を脱して中級者に至った診断なのだろう。

 初心者と中級者を一緒にしても良いことはあまり無いから設定としては妥当だ。


 『三つ星』に上がると色々な機能等も開放される。初心者には早えぜ、ってやつらが主だ。


 その中の一つがカードトレード機能になる。


 今更かよ感を覚えるのも無理はないが、トレードにも種類がある。

 実際に会って、手渡しで交換する『ダイレクトトレード』とフレンド同士でデータ交換が可能な『フレンドトレード』は初期から開放済。


 今回新たに使えるようになったのは『ランダムトレーディング』と『ワールドトレード』だ。


 ワールドトレードではそれこそ世界中のプレイヤーたちとカード交換が可能となっている。

 とは言っても直接交渉する工程はないので外国語ができなくても安心だ。翻訳ソフトを噛ませられても、日本人相手すら難しいコミュニケーションを種類の違う人間に行うのは辛い。


 交換に使うカードを提示し、条件を設定する。それだけでワールドトレードボードに掲載され、そのカードを欲しい相手から希望が集まる。複数集まったら、その中から都合の良い相手を選べばトレードは自動的に進む。


 欲しいカードをピンポイントで狙うなら最も効率の良い手段になるだろう。


 ランダムトレーディングは狙いのカードを探すには向かないが、運試しをするにはちょうど良い機能になっている。


 これまでに登場したトレードは、主にプレイヤーが相手の機能だ。

 しかしランダムトレーディングだけは毛色が違って、交換相手がプレイヤーではなくカード協会……引いてはシステムになる。


 簡単に言えば、不要なカードのリサイクル機能というのがしっくりくるだろうか。


 僕らプレイヤーは欲しいカードを集める手段として、カードパックを大量購入したりダンジョンでサーヴァントを乱獲するわけだが、そうすると当然ながら同一名称のカードが複数手元に集まってくる。いわゆるダブり。

 ハイレアがダブることは珍しいので、ほとんどが低レアのダブりになる。


 それが三枚までならスタックとして自分で使える、六枚くらいなら交換用として確保しといてもいい。

 プレイヤーのそういう都合は考えられておらず、無限に出現するのが低レアだ。僕もカードパックから集まったグラスラビットはすでに二桁を超えて久しい。

 そこまでいくと無駄、倉庫の肥やしとして見向きもしないカードが無数に出てくる。


 ランダムトレーディングは任意のカード三枚と、一枚入りのランダムカードパックを交換してくれる機能だ。

 中身はみんなの供出したカードがプールされている可能性もあるが、一応ブロンズカードパックと同等と言われている。

 不要なカードをロンダリングできるので溜まったら運試しにやるが吉とのこと。グラスラビット三枚とグラスラビット一枚を交換する結果になるかもしれないが、笑って許せ。どうせ今後も無数に集まるカードだから痛くも痒くもない。


 『ワールドトレード』『ランダムトレーディング』は共に、カード協会を経由しなければならないため、必然的にカード協会でしかサービスを受けられない。

 ワールドトレードはともかく、不要なカード資産をロンダリングしたいとは思っているので、僕は早速カード協会に赴いていた。


 ランダムトレーディングは壁際にカプセルトイコーナーみたいに排出機がズラリと並んでいる。コインの代わりにカードをせっせと押入れ、その枚数に応じてカードパックが排出される。せっかちな人向けには機械の近くでスクリーン操作も可能だ。


 僕はそこを横目に、片隅にある階段を登っていく。

 ロンダリングはするけれども、先にもう一つの解放されたサービスを利用したい。


 『三つ星』から利用可能になる二階カウンターを尋ねる。


 一階よりも飾りの多いハイセンスな制服を着た女性が受付対応をしてくれる。変わったのは服装だけで、どちらの階も美人しかいないらしい。


「何か御用ですか?」

「ああ、初めてなんだが『オークション』を利用したくて。ここで良いか?」


 そう……ついにカードオークションに参加できるようになったのだ!


 現実でもトレーディングカードのオークションは数多く行われている。

 カジュアルにネット参加できて数千円のものから、世界で何枚しか存在しない超希少なカードを競い合う学生の身では参加し得ないものまで、ピンキリだ。


 大会の優勝賞金でカードを揃えていた僕は、次の大会でも優勝しなければ続く資金を補充できない。

 そのため限りある資金をオークションで散財することはできなかった。どんなに喉から手が出るほど欲しいカードがあったとしても、喉から出た指を咥えて眺めているしかなかった。


 だが『ノルニルの箱庭』でならばそんな制限もない!

 金はカード協会のクエストや住人の依頼、ダンジョン攻略で手に入れられる。いくら散財しても現実に影響はないのだ、バンザイ!


 かくして待望のオークションへとやってきたワケである。


「オークションのご利用ですね。初回のご案内はいかがされますか?」

「頼んでもいいだろうか」

「かしこまりました」


 ゲーム内のオプションメニューにて操作説明は確認できる。オークションについても同様だ。

 わざわざ説明を受けるより、それとか外部の攻略サイトに掲載されているおすすめの見方を確認しながらやった方が効率は良かろう。


 僕が案内をお願いしたのは、よりオークションの気分を味わえる、それだけの理由だ。まともで仕事のできそうな美人の女性に案内されるなんて、まさしくそれっぽい。


 受付嬢に先導されて、奥にある個室へと向かう。

 個室は手頃な高さの事務机と、キャスター付きの椅子が二脚。あと隅に小型の自動販売機があった。嗜好品の飲み物とお菓子が買える。


「こちらが一般のオークションルームになります。扉を閉めた時点で外界と隔離されるので、情報の取り扱いを気にされるのであればこの部屋の使用を推奨しております。初回は使用料金をいただきませんが、次回以降は時間貸しとなるのでご注意ください」

「オークションルームは借りないとマズいのか?」

「カード協会の二階フロアであれば一般オークションには参加可能ですが、二階でスクリーン操作をされていると……」

「……ああ、なるほど。オークションに参加してるやつ、ってことが丸分かりなのか」

「ええ。すぐに大会が控えておりますから、そういう場合はお部屋を借りていただいた方がよろしいかと」


 僕はまだ新人だからチェックなどされないだろうが、名が売れてきたら仔細を重箱の隅を突くように洗われるはずだ。

 NPCの受付嬢がこんなことを言うくらいだから、例えば『七つ星』の面子なんかはカード協会に現れた時点でチェックされているのかもしれない。


 僕のように大会前に新しいカードを入手しておこうと考えるプレイヤーは少なくない。得てして切り札として持ち込みがちなそれを事前に知っていたら。

 大会でかち合った時、重大なアドバンテージとなる。


 事前の情報収集も重要な戦略なのだ。

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