第211話 容赦なき精神口撃
フルナの手番。
カードを引き終えたフルナはまた新たに
「本当はこういうカードで【
「よくよく
「先生はあなたよ、デッキに組み込むのは自然でしょう?
「素晴らしいサーチ機能だな」
それの妖精かうさぎ版があればぜひ導入したい。
フルナの袖口から飛び出した鳴き声に、【オウテイペンギン】が反応する。ペンギンとは生態が違うような気もするが……。
【ペンギン】は身体を縮ませながらフルナの袖口――山札の中に滑り込むと、反対側の袖口からスポン! と突き抜けた。
鋭い嘴の先にはカードが引っ掛かっている。
「山札から引いてきてもらったのは
そのカードは僕も知っている。
どんなデッキにも組み込める汎用性の高い、魔術系器具の神秘だ。
元々はサビ取りとか不純物を分離するための生活道具として開発されたものらしいが、カードゲームの中では優秀な手札補充カードになる。
フルナが使用すると彼女の足元にコンポストのような金属製の箱が設置された。
「この手番を含めて5ターン、手札が直接捨て札になった時、枚数分のドロー権利を得るわ!」
「【飛燕】で使ったカードが減らないのは辛いな」
行動力を使用する【飛燕】は、基本的に1ターンに二回使える計算になり、そうするとフルナの手札は毎ターン一枚ずつ減っていくはずだった。
だが、これから5ターン、手札はむしろ増えていくようだ。アフターフォローも万全ということか。
「
「……本当に攻めて来ないな。このままラスト・ターンまで花いちもんめでも踊るつもりか? その場合、敗けるのは君だぞフルナ」
「私はクイックステップばかりを踊るプレイヤーではないわ。スローフォックストロットも形を真似るくらいならできるの」
「す、……スロファックトロッコ?」
突然聞いたことのない言語で話すのはやめてほしい。全く正しく聴き取れないから。
僕の言葉に嘆息すると、フルナは着物だというのに、緩やかに艶めかしいステップワークを披露した。
なんだか洋風のお城で開かれたパーティーで踊られていそうな動きだ。
「……ええと、……その、そう! ワルツだ!」
「スローフォックストロットだと言ってるでしょうに。ワルツよりも重厚でゆったりとした曲調のダンス……らしいけれど、ごめんなさいね。私も正直、テキストと動画の知識だけだから詳細は知らないの」
「なんで知らないんだ? 自分から持ち出した単語だろうに」
「あなたを見習って、イキるのに使い勝手が良さそうな言葉収集を始めたものの、まだ身に付いてないのよね」
「ぐっ……!」
なんてこった、バレている……!
漫画やゲームから気に入った台詞をメモっていたり、インターネット辞書で良さげな単語を調べるのが時間潰しの趣味になっていることが……っ!
決め台詞はともかく、前菜に舌禍を交える以上、相手をやり込めるだけの語彙は必要だ。なんなら煙に巻くためのややこしい言い回しも。
全てひっくるめたら「イキる」になるのかもしれないが、正面から「そのために努力してます」というのをバラされるのは非常に恥ずかしい。
穴があったら入って埋まりたい。
別方向からの口撃にまたしても精神を乱されている。
プライベートに詳しい相手はこれだから!
「あなたの『踊る』に掛けて、社交ダンスの競技名を引っ張ってきたのよ。……ネタを説明させられるのも恥ずかしいわね」
「教養がなくて申し訳ありませんねえ! 僕のターン、ドロー!」
ごまかすようにして速やかにカードを調達。
【シルキー】に『おかいもの』を依頼し、手札を入れ替える。
「…………っ……」
良いカードを引いた。
が、使いどころは今ではない。もう少し状況が進展したら。
悟られぬよう、平静な表情で手札に奇貨を押し込んだ。
「……何か引いたわね?」
ドキッ! 胸が高鳴る。
フルナは顎に指を当てて指摘した。
「あなた、普通にカードを引いた前後で良いカードを引き当てると、表情が固まるのよね」
「それはそうだろ。ドローしたから何かは引いたさ」
「会話が一回分遅れてるわよ」
「そんなはずない」
僕の表情操作術は達人の域にあり、あらゆる対戦相手を騙しに騙してきたはず……。
まさかバレるはずがない!
「エルスは顔に出そうになると、すぐ表情を固めるからすぐ分かるわ。可愛らしいわね?」
「チッ……行くぞオラァ!」
背後にサーヴァントを出陣させて、すぐさま一歩前に出る。勢いでごまかそう!
「【ラビッツロック】に追加メンバーだっ!
山札がシャッフルされたおかげか、三枚目の【ラビッツロック】が来た。
フルメンバーまで後一枚だが、揃うことはないだろう。
【ラビッツロック】のグループ
だが僕の舞台に上がっているのは
少しばかり、時間稼ぎをさせてもらうとするか。
「さらに一歩、二歩……前進しよう」
今の僕は【ベース】の効果で行動力4を所持している。
1ターンでフルナの真ん前まで詰めることも可能……だけれど、その手前でストップ。
敵陣前列中央に僕は立った。
「君の勝ち筋を明確に掴んではいないが……僕が攻め気に逸ったら実は困ったりしないか?」
「困りはしないわ。あなたが先手を打つのなら、勝ち筋を一つ潰したということだもの」
「それなら良かった。お言葉に甘えて嫌がらせさせてもらおう!」
僕とフルナの間、敵陣中列中央に一枚のカードを設置する。
「
星型をした、見るからに「爆弾です!」と主張する黒色の物体が地面にポトリと落ちた。
そして、その真上に何かをカウントする数字のウィンドウ。
「出来損ないの時限爆弾をプレゼントして、僕のターンは終了だ」
僕が離れる前に起動しないでくれよ。月の果てまでフッ飛ぶぞ。
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