第210話 劇的な勝利に必要なもの
手に汗を握っているだけでは状況はなんら改善しない。
まずはこの枚数不利から抜け出さなければ。使用した結果の手札一枚と、敵の策略で何もせぬまま手札を圧搾されるのとは意味合いが全然違う。
「僕のターン、ドロー……!」
指先でねじるようにして引いてきたカードは
「それから【シルキー】でさらに追加ドローをする!」
「どうぞ」
指先をこじるようにして引いてきたカードは毒にも薬にもならないもの。うーん……ここじゃない……。
先までの手札とは比べ物にならないほど運気が落ちている。いや、さっきの手札が良いかと言われると別にそうでもないのだが。
長期戦に持ち込まれた時に困るのが、やはりサーヴァントを処理する手立てだ。
僕が【フラワリィ】を出陣させたところで、次のターンには【飛燕】でフィールドから排除されている可能性が高い。
プレイヤーカードが遠距離から敵サーヴァントを倒して、味方サーヴァントが後を詰める……単純に手数が倍になるのが強ければ、プレイヤーが確殺を狙えるのも強すぎる。
相手の長所をはっきりさせたところで、我が身を顧みる。
……フルナは明確に僕の弱点だと言ったが、確かに僕はあえての後手を選びがちだ。もちろん後手にならざるを得ない場合もある。
先手を取りたい気持ちはある。当然だ。このゲームはおおよそ先手有利にできている。
それを理解していて、なぜ僕は後手に回るのか。
少ない手番の時間をフルに使って自問自答をする。
悔しいが、性格診断ではフルナに勝てそうにない。
僕よりも僕のことについて分かっていそうな女を前に、弱点だと指摘されたポイントを放置できるほど精神的な強さを備えてはいなかった。
まず、相手の手管を全て開示してほしいから、というのはある。
カードゲームをする上で相手が何もできずに勝手に沈んでいく勝利ほど虚しいものはない。何もさせずに勝つのとはやはりこれも意味合いが違う。
十分に練られて思い通りに展開した、その有頂天な足元に穴を空けて真っ逆さまに落としてやるのが一番気持ち良い勝利だろう。
それから……エンターテイメント的要素は外せない。
カッコいい台詞を気持ちよくブッ放すためには、それ相応の相手が要る。
相手の強さもまた明確に判らなければ、ここ一番の台詞も全く映えないというものだ。ゆえに相手にも見せ場を与える必要がある。
本当に強い相手は僕がどうこうせずとも、勝手に見せ場を奪っていくのだが。
――最後に。
後手を踏まざるを得ない最たる理由は『フェアビッツ』の貧弱さにある、と僕は結論を出した。
主要種族のうさぎと妖精は、数あるシリーズの中でもワンツーフィニッシュを競える貧弱さ……戦闘力に欠けるカードが集まったシリーズだ。
必然的にこれらのカードで勝利するには搦手や
何しろ
一部の例外を除いて、殴り合いで勝とうとするのは無謀としか言いようがない。
そして頭脳戦で勝利を導くには何よりも情報が必要。
相手の全力、最高、絶対戦力を見抜ければ、あとは何が何でもそれに勝てるカードを用意すればいい。
『フェアビッツ』の長所は
引いては他のカードとの連動が得意であることと同義。
長期的、恒常的なパワー、タフネスは無いが、
限られた条件下でのみ、あらゆる敵を上回る可能性を秘めているのがこのデッキ『フェアビッツ』だ。
全力に全力をぶつけられるのなら勝ち目を見い出せるが、全力のぶつけどころを間違えれば、奈落に落ちるのは相手ではなく僕となる一点突破型。
今の『フェアビッツ』は初期と違って柔軟性を備えてはいるが、残念なことにエースカードは変わらず【フラワリィ】のまま。
決定機を見極めて運用しなければ、勝ちの目は遠のいていく。
ゆえに――僕は少しばかりのダメージを許容してでも、後手を取るのだ。
『
それは僕の好む展開に導いた上で、デッキ構成に適した戦術である。
「ふう……」
試合展開などにも左右されるが、偶然にも僕はデッキ内容に適した戦術を用いていた。
いや、カードの持ち味を活かそうとすればそこに辿り着くのは必然であり、単純に僕が言語化して頭の中に持っていなかっただけだ。感覚と感情だけでカードをめくっていたのが悪い。
今、明確に定義した。
「後手を踏むのは弱点ではなく、戦術上、必ず発生する
改めて言葉にすると、一連の流れで澱のように滞ってもやもやした胸の内がスッとする。
「どう言い換えをしようと、突かれる点であることには違いないわ」
すかさず曇らせようとしてくるフルナに対し、僕はあえて言う。
「なら、好きなだけ突けばいい」
「……開き直りかしら?」
「いいや――誘い、だよ」
僕がダメージを受けるのはわざとであり、その報いは必ず受けさせる。
いかなる苦境をも、そう定義し、覚悟を決めた。
「いくら君が弱点だと言い張る点を突いて僕を苦しめたとしても、必ず逆撃を喰らわせて、まいりましたと言わせてあげるよ」
偶然の産物でも、場の流れによるものでもなく、僕の危地は訪れるべくして訪れる勝利への途上に過ぎないのだと定義した。
道半ばで現れるピンチは勝利を盛り上げるためのスパイス程度の演出なのだ。
急速に精神の安定を取り戻す僕とは反対に、フルナはメガネを直す回数が増えているようだ。
「……その誘いには乗らないわ。一気呵成に決着を付けようと焦るのは悪手、エルスを倒すにはじわじわと身体の先端から傷を付けていくような忍耐と繊細さが必要……」
「選択肢に挙げるってことは、焦りがすぐそこにまで寄ってきているんじゃないか?」
僕の指摘に、フルナは唇を噛んだ。
気付かれぬようにホッと息を吐く。
ひとまず舌戦では優位に立った模様。
次は盤面でも優位に立たなければ。
四枚に増えた手札のカードを眺める。近くで、あるいは遠目に。ひっくり返してみたりして。
「…………僕のターンは終わりだ!」
なんともならんので、次の手番に期待!
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