第150話 ピクニックへのお誘い
アインエリアル宅からの帰路。
僕は「うーん……」などと悩みながら、王都を歩いていた。
プリズムカードパックがどれほどの寄与を果たしたのかは不明だが、幸運の女神が言う通り、レアなカードも一枚は入手できた。ゴールドカードパック
悩みのタネはプリズムから排出された
妖精ではなくうさぎを引いてしまったことに不満はない。
傾向を把握したから妖精を絶対に引ける、と思って引いたのにうさぎを引いてきたところに、僕の運の悪さが出ているなと思ったぐらいだ。むしろ
よくよく考えれば森にはうさぎだって住んでいるだろうし、場所的な要素を考えれば出てきてもおかしくない。ゴブリンとかじゃなくて助かった。
でも出てきたカードは絶対森に住んでないうさぎなんだよな。
【星】の要素がうまく働いて、レアなところを引っ張ってきたのだろうか。
数いるうさぎカードの中でも飛び抜けて美しいと言える艶姿に見蕩れたのも一瞬、次の思考は【ルビ】を僕のデッキでどう活かすか、である。
僕のデッキは『フェアビッツ』。確かに妖精とうさぎの二軸で運用してきたが、基本的なエースは【フラワリィ】であって、【フラワリィ】がデッキを牽引する形で構成している。
そこに新たな先導者を追加したところで、頭を多くした船は山を登るのみ。どっちつかずのデッキになることは必至。
可能ならば共存させたいが、なかなか難しい。
【フラワリィ】と【
仮に【ルビ】をメインで考えた時、比率を逆転……とまではいかないかもしれないが、大きくいじる必要がある。
かつては妖精の枚数が足りなかったがゆえに、親和性が高そうなうさぎとの混合デッキを作っていたのだが、今となればもう十分に妖精単体でのデッキも作れる数がある。
だが妖精単体だと、他カードへのサポートに向いているカードが少なすぎる。
妖精の性質からして個人主義というか、単体で完結することが多く、貴重な他カードサポートに使える【
神秘を使いこなせれば強力なデッキ構築になる
うさぎは序盤から手に入るシリーズだけあって、誰がどう使おうと馴染みやすさが目立つ。どんなデッキでも何かしらのカードが活躍できるだろう、そんなカードが揃っている。
個人的には手触りも良いし、手頃に買えるし、非常に気に入っている。
アップデートを受けて市場は変動激しいが、うさぎの価格はさほど変更がない。僕が多用したせいか、【ラビッツオーケストラ】がうさぎの涙ほど値上がりしたぐらいだ。
新たなデッキ構成を考えるには十分な枚数のうさぎが揃えられるだろう。
「最初に【フラワリィ】を引いたから使ってきたけど、せっかくだし【ルビ】をメインにしたデッキでも考えてみる、か……?」
引いてきたレアカードは使ってみたいのがカードゲーマー。
とにかく使ってみて、共存させられそうなら新デッキとして色々組み直してみよう。
そういえば『星灯舞踏会』で入手してきたカードもまだ使った感はしていない。リアルでの活動がかなり増えて、ランクマッチもあまり潜れていなかったな……。
僕はグッと拳を握ってやる気を補充した。
「よし! 最強のうさぎデッキを作ってやるか!」
「その前に」
「ぐえっ」
意気揚々と駆け出した僕の首根っこが釣り上げられる。
振り返ると、口端をひくひくと震わせる女騎士が立っていた。
「げぇっ、アズアズ!」
「誰がアズアズだ!? 訓練をサボった言い訳を聞かせてもらうとしよう。否はないな?」
言葉を繰り出す余裕も与えず、アズライトは片手で僕を引きずり始めた。
締まってる、首が……!
僕の訴えは声にならず、陸に打ち上げられた魚の如く口をパクパクさせて酸素を食べることしか許されなかった。
わずかな酸素を求めて喘ぐ僕が連れてこられたのは、当然と言っては当たり前なのだが、王城の一角である。
ようやっとアズライトの強靭な腕から逃れた僕の前にはお姫様。これはこれで息が詰まる。
「LS、姫様に申開きがあるのならしろ」
「申開き、って言われてもな……」
ゲームをしなかったことで怒られるのは滅多にない経験だ。
理由があってプレイしていなかったのは確かなのだが。試験がなければ、鍛錬には参加していたはず。
しかし、それをNPCにどう説明したものか。
言葉に迷っていると、シャルノワールが訊いた。
「なるほど……早速のストライキというコトですわね? 確かに、就業にあたって賃金等の労働条件について説明が漏れていたのは
「え? そういうわけじゃ」
「皆まで言わずとも構いませんわ。今の貴方に忠誠心を求めたとて無駄だと理解しております。私たちはまだ出会ったばかりで、縁が繋がったばかりなのですから。これから縁を絆に変え、太く育てていかねばならない。私と絆を育てていただくためには、私の良いところを貴方に知っていただき、私もまた貴方のことを知らねばなりません」
なんだか突然難しい話が始まった。
「つまり、どういう……?」
「ピクニックに行きましょう。私とアズライト、そして貴方とで」
「姫様!?」
あまり行ってほしくなさそうなアズライトを制するシャルノワール。
僕もよく知っているとは言い難い人とピクニックなんかには行きたくない。
三人しかいないのなら必然的に僕も会話しなきゃいけないと思うが、軽快で陽気な会話を求められても辛い時間が流れるだけだぞ。
シャルノワールは頬を緩めて言った。
「まずは私から離れたくならぬように手厚い福利厚生の一つについて教えて差し上げます。私の下にいれば、とびきり刺激的なレクリエーションに参加できる……。LSには愉しんでいただけるはずですわ」
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