第142話 新バージョンを遊びたい気持ちは高い

 Ver1.0『暁の六等星』が実装された。


 今までのバージョンは0.なんとかだったのか。基本的にバージョン始まりは1からだと思っていた。

 ストーリーの始動に合わせて進行していくものならそういう表現が正なのかもしれんが。


 プリズムカードパック……ではなくストーリーの開始が一番の目玉となった今回の大型アップデートでは、もちろん他にも色々と更新や追加要素がある。

 いくつかのカテゴリにまとめると、大きく分けて四つの更新が入った。


 まず一つ目は、ワールドクエスト関連。ストーリー『アルマ・ハーシェルの冒険譚』はこれに含まれる。

 ストーリーの進行はプレイヤー個人ではなくゲーム全体で共有する形になる。


 世界観やプレイヤーの環境に関わるクエストを進めると……例えば、アルマの行く場所によって新たなダンジョンが開放されたりするらしい。

 実のところはアルマが向かわない場所にも当然ダンジョンや新たな街は存在していて、プレイヤーが自由に向かうことは可能だ。その違いは単純に難易度とのことだが、どの程度の差が発生するのかは現状不明。


 二つ目はカード関連。プリズムカードパックの実装が注目度高かったが、他にも細かく調整が入った。

 とはいっても、カード制限や弱体化ナーフは皆無と昨今のカードゲームにしては珍しい調整だ。


 いや、何百万分の一って確率を超えて個人でしか所持していないカードに調整が入ったりしたらキレ散らかすのは確かなのでありがたい話である。強力なカードは単純に手に入り辛いから制限かける意味がないというのもありそうだ。


 カードリストは公開されていないけれども、追加されたカードの内容が関心を集めている。


 三つ目、プレイヤー関連の修正が行われた。具体的には就職が可能になった。

 これまで職業とは剣士ソードマン戦士ウォリアーなど、役割ロールや技術の習得方針を示すモノだった。

 今回のアップデートで、今までの職業は『副職サブジョブ』と名前を変え、『主職メインジョブ』では所属団体を表すようになったようだ。


 無職の大量発生である。世知辛い。


 どうやら無職だと社会的信用を著しく損なうらしく、NPCから冷たい目で見られるようになっていくので、何はなくとも職には付いておくべきだとの見解が早々に出された。

 最も簡単な救済ジョブは『派遣カード協会員』である。他の作品で言う『冒険者』的ポジションで、社会の何でも屋、鼻つまみ者とみなすNPCもいる。信用が欲しいなら『兵士』がいいらしい。


 四つ目はこれらの修正に付随する、システム関係の修正だ。

 ユーザーインターフェイスが微妙に使いやすく変わっていたり、メニューの項目が地味に増えていたり。


 ひっそりと追加されていた『ヒストリー:アルマ・ハーシェル』はすでに面白い。

 主人公のアルマに起きた事件などを自動で追記していってくれる機能なのだが、アルマはすでに三回ほど詐欺に引っ掛かり全財産を失ったらしい。借金をしていないことだけが救いだ。


 5月8日 スタブライト王国、王都に到着する。

 5月8日 詐欺に遭う。

 5月8日 二回目の詐欺に遭う。

 5月9日 三回目の詐欺に遭う。所持金が無くなる。


 淡々と詐欺に遭った報告だけが追加されていくの、面白すぎるだろ。絶対に並ぶべき項目は、運営が想定していたヒストリーはこれじゃなかっただろう。


 このように、僕はアップデートが入ってからしばし、更新内容の確認を行っていた。

 そして内容の確認は終わりつつある。……終わってしまう。


「貴様の用事とやらは終わったようだな?」


 目敏く僕の手が止まったことを察し、傍に待機していた女が言った。

 彼女は、アップデートを終えて完全没入ホロダイブした僕のところへやってくるなり、“星騎士団:瑠璃アズール・ステラ”所属の女騎士、アズライトだと名乗った。


「では、行くぞ」

「本日はもう時間もないし、また後日というわけには?」


 アズライトは腰の剣を抜いた。

 僕は立ち上がって出掛ける準備をした。

 アズライトは剣を鞘に収めた。


「さっさとしろ。何時間も待たせておいて、次、今日は行かんとか言ったら首だけ持っていくからな」

「はい……」


 だらだらと引き伸ばしてきたが、ここが年貢の納め時。

 観念して、僕も向かうことにした。


 行き先はスタブライト王都の最重要区域、白亜の王城。そちらにおわす、第一王女のところ。

 いつの間にか主職に設定されていた“星騎士団:瑠璃アズール・ステラ”の件で、改めてお話をいただけるとのことであった。






「全く……姫様から直接お話いただくことの名誉を貴様は分かっていない。なぜ先延ばしにしようとするのか私には理解できん」

「根が小市民だから、立派な場所とか人のところに行くのは気後れするんだ……です」

「私には構わんが、姫様には敬意を払えよ。ふざけた言葉を使うようなら締め上げる」


 くどくどと小言を言われながら僕はアズライトと登城していた。

 フォトスポットにもなっている巨大な城門は開かず、その脇にひっそりと佇む通用門から普段は出入りをするらしい。通常なら門番に門前払いされるが、今日はアズライトがいるから顔パスで通り抜けられた。


「いつ来ても、感動するわねえ」


 そして僕らの後に付いてくる女が一人。

 我が師匠、アインシャント・アインエリアル女史である。お城を見上げて、のんびりと呟いた。


 門番の人はめちゃくちゃビビって腰が引けていた。ある意味、顔パスだ。一応、アズライトの一行という判断で通すことになったようだが、止めようとしたところで止められない要素の方が強そうだ。


「ほら、あそこに一本だけ伸びてる塔があるでしょう。あれがお姫様の部屋なのよ」

「そうなのか」

「こないだ壁をブッ壊したのだけど、もう修理が終わってるみたい。いつ見ても感動的な早さと練度よねぇ」

「せめて僕が関係している間は国家と敵対しないでもらっていいか、頼むから」

「大丈夫、大丈夫。お姫様とはだもの。人的損害さえ出さなければ笑って許してくれるわ」

「姫様が許しても私が許さんからな……」


 ぼそりとアズライトが言う。

 恨みは深そうだ。度々、色々なものを壊していそうなので、今後は本当にやめてほしい。


 口笛をふかすアインエリアルはどこ吹く風といった感じ。


 相手にもされていないことを理解していて、アズライトはじとりと昏い瞳で僕を睨んだ。


「貴様の師匠だろうが、なんとかしろよ」

「僕の手に負えないから師匠なんだろうが」


 手のひらの上でコロコロされている人間にあまり難しいことを言うな。そんな目で見られてもできないことはできない。


 しかし、それはそれとして。今まで迷いの森の小屋から出てこなかったのに、急に僕らと同行を決めた理由は気になるところだ。


「そういや、これまで僕の動向なんて気にしてなかったよな。どうして今回は付いてきたんだ?」


 僕が尋ねると、アインエリアルは翠色の虹彩を瞬かせて、


「ああ、いえ、ね。――あの女に、はっきりと示しておく必要があるから」


 にっこりと不穏な答えを口にした。


 再三思うが、敵対する行為はやめてくれよ……?

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