第158話 道化師がやられた!?
「【クラウン】ッ!?」
「本来、あるべき光景がこれだ!」
ポーンと高く跳ねたうさぎの生首が、エドアルドの掲げた直剣の先端に落ちてきて突き刺さる。
「食用ウサギなど、このように串焼きにされるべき存在なのだよ! ハハハッ!」
「可愛いうさぎさんに酷いことをしやがる……、……ん?」
苦々しくエドアルドを睨みつけた僕は、とあることに気付いた。
「……情緒不安定な騎士サマよ、先端に刺さったお団子頭を見てみるといい。驚くぜ」
「なんだと? ……こ、これは!?」
僕の進言に顔をしかめて、エドアルドが【クラウン】の正面へと目を向ける。
彼の表情が驚きに染まったのも当然で……その【クラウン】は口元をギザギザに太い糸で縫われ、目が大きくバッテンで表現された作り物だったからだ。
エドアルドが真実に気付くと同時、クラッカーのような破裂音を響かせて、その偽頭が爆発し紙吹雪を振る舞った。
唖然としているうちに、しれっと服の中から首を生やした【クラウン】がマスの枠を引っ張って、自身のマスから【ピッカリン】を追い出していた。
「どうやら、確率の神様はあんたを嫌っているようだ」
【ラビッツサーカス:クラウン】による50%の攻撃無効化。
「二分の一を二回も外すなんて随分と運が悪い。二回に一回は当たるはずなんだがな」
――さらに言ってしまうと【ラビッツサーカス:イリュージョニスト】による
雰囲気に圧されていた気分を盛り立てるために、ちょっとしたきっかけを活かして口を回す。
眼前で紙吹雪を撒き散らされて鼻白んだエドアルドに対し、僕も気圧された心持ちを立て直し、気概はイーブンに戻した。そんなつもりでいく。
戦意を奮う僕を真顔で睨み、エドアルドは不意に敵陣右側中列で囲みに参加している【クラウン】に襲いかかった。
エドアルドが直剣を振るって砕いた空間の向こうに、トリックの仕込みをしている【クラウン】がいた。
「……確率がどうかしたかね?」
手札からカードを選びながら、エドアルドが言った。
「無事に四分の三を引けたことをお祝いしましょうか?」
「結構だ」
一枚の【クラウン】を撃破し……、だが他の【クラウン】は健在だ。
フィールドの枚数有利は変わらない。
変わったのは位置的有利。囲みを破壊して抜け出してきたエドアルドが、さらに一歩前へ進む。
敵陣の右側前列まで進出してきたエドアルドが、選んだカードを放った。
「我らが【黄金騎士:ピッカリン】は後年、若者の指導に精を出した。ドラゴンの襲来がなかったゆえ、彼らの名が轟くことはなかったが、鍛え上げられたその業は【ピッカリン】に劣るものではないぞ!」
銀色の出陣光。
【精鋭ピッカリン
「あー、……その本命、やたらと数が多いな?」
「嵐竜とも真っ向から戦う誇り高き我が騎士団が、数に劣る貧相な様相では話にもならんのでな」
【ピッカリン騎士団】は一糸乱れぬ隊列を何列も組み、マスの中を埋め尽くしていた。
うさぎたちとはまた違った種類の数の多さだった。
「我が【精鋭ピッカリン騎士団】はプシュケーダメージを与えたプレイヤーから手札を一枚、収奪する。私が少年にダメージを与えるごとに、少年の手札は一枚減り、私の手札が一枚増えるということだ」
「貴族のくせに、手癖とお行儀が悪いな。人の物を取るのはダメだって教わらなかったのか?」
「敵が持つ資産を奪うのが戦争の意義であり、習いだ。それが嫌だと言うのなら、大人しく町の酒場で乾いたパンでも囓っているがいい」
行動力は2。大軍は鈍足だというのが軍隊モノのお約束のはずだが、人並みの機動力を持って走ってきやがる。精鋭だからか、1マスに収まる程度の人数なら遅滞もさほどしないらしい。
出陣の後に余った行動力を使って、自陣の右側中列まで歩みを進める【精鋭ピッカリン騎士団】。
「さて、目障りなうさぎ共がご自慢のようだが……こうなってはモノの役にも立たん。覚悟は決めたのだろうな?」
「さて、何の覚悟を決める必要があるのか……。ご教授いただけるかな?」
「決まっている」
エドアルドは直剣をシュッと切り払い、その尖った先端を僕に向ける。
「そのように人をおちょくる少年の気質は、軟弱な身体に宿る思想そのもの。私が少年に勝利したらば、死んだ方が苦痛は少ないとも言われる我がピッカリン騎士団方式の鍛錬で少年を鍛え上げる。通常の団員に行う鍛錬の倍強度でな。これで少年も実直な思想を手に入れられるだろう!」
「……さっきは僕のことを刻むとか言っていなかったか?」
「両方を体験させておけば、どちらが楽だったか比較できて嬉しいのではないか?」
こいつも大概、頭おかしいわ。
そんなの嬉しい人間はいない。……いや、もしかしたらアッシュみたいな人種は嬉しいのかもしれないが、僕は嬉しくない。
「僕はお断りだね。人を剣で指すような礼儀のなっていない人に教わることはない」
まったく、僕が先端恐怖症だったら腰を抜かして泣き叫んでいるぞ。
「軽口を叩くのはここまでにしろ。私のターンはここで終わるが、次のターンで少年のプシュケーに手をかける。いかに確率の壁を持っているとしても、ここまで来たのなら視線を遮る暗幕にもならんぞ!」
僕は指を立てて、チッチッと左右に振ってみせた。
「まだ【ラビッツサーカス】は開演したばかりだ。もう少し愉しんでいけ」
サーカスの演目が、奇術師と道化師だけでは終わらないのは、誰でも知っていることだ。
「次なる演目は世紀の空中ブランコ。成功いたしましたら、拍手喝采にて讃えてくださいませ」
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