第167話 確率の神を信じますか?
――
襲いくる時空嵐が僕らをバラバラのバラに千切ろうと暴れ狂う。
歪みだした地面に腕を立てて、ふらつく身体をなんとか起こす。
「もうしばし、カードの奥深さ……勉強させてもらおうか……!」
手札の上からテキトウな二枚を嵐の中に投げ込む。
瞬間、台風の目に入ったかの如く、世界の狂乱が凪いだ。
<3rd phase:Skuld's turn>
正直に言おう。
スクルドフェイズまでやってきたのは初めてだ。
というのも、ウルズフェイズで全力準備をして、開始の数ターンで本命行動が発生しているパターンがほとんどだからである。
演出やゲームシステムの関係で時間は掛かっているように感じるが、実際のターンを数えると二桁にも届いていない対戦は数多いだろう。
それに加えて、ヴェルザンディフェイズは20ターンもある。
マスの概念があるから最初は短いんじゃないかと思ったが、意外と
それでも決着がつかない均衡を崩すのが、スクルド以降のフェイズになる。
『ノルニルの箱庭』に引き分けはない。
勝敗を確定させるためのゲームでぐだぐだとぐだってんじゃないとばかりに、ノルニルの三女神はさらなる苦難を与える。
スクルドフェイズでは、山札から手札を増やす行為に制限が付与される。
僕らプレイヤーが勝ち負けを決める義務を怠った罰として、ドローをする権利が奪われるのだ……と攻略サイトには書いてあった。
また使用した
前の手番で出番があった【花の妖精境:ティルナノーグ】なんかはもろにそれだ。だからさっきのターンで多少の無理をしてでも使わなければならなかったのだ。
通常であればスクルドフェイズは5ターンだが、短縮決闘においては2ターンに減らされている。
もうちょっとまけてもらって、スクルドフェイズは0ターンにならないだろうか。一刻も早く
手札の枚数は先程の
スクルドフェイズを終えると、時間内に勝敗を定められない愚か者たちを見放した神々により、プレイヤーたちは時空嵐の中に放流される。
以降は手番が来る度に、都度カードを手札から二枚支払わなければならない。
この対戦では僕が先手なので、一足先に判定がやってくる。スクルドフェイズを終える時に同数の手札だと、先に僕の手札が尽きて時空嵐に呑み込まれてしまうということだ。
それを鑑みると二枚を差し引いて、十五枚。エドアルドとの間に六枚の枚数差がある。
【精鋭ピッカリン騎士団】からプシュケーダメージを一度受けるごとに僕は一枚の手札を失い、エドアルドは一枚の手札を奪うから、都合二枚の差が一度のダメージごとに詰められていく。三回までが許容できる範囲になるが……。
立地が悪い。
「どうした少年、急くのではなかったかな?」
手番の開始と同時に考え込んでしまった僕へ、対戦者からの心温まるメッセージが届いた。
「急がば回れとも言うからな。僕はかなり急いでいるよ」
「私はすっかり待ちくたびれてしまったがね。言葉通りに急いでくれるとありがたい」
言われる側になるとすげぇ腹が立つ。
好きで考え込んでるんじゃないのだが。
【
しかしながら、時として使用者にも牙を剥く、御しきれない暴れ馬が【
彼らに惹かれて捨て札から這い出してきたサーヴァントは、手番の開始と同時に特殊能力を自動で発動する。
僕が移動を終える前に新たな
敵陣左と中央の前列……僕の移動経路に【クラウン】が二枚も並んでいた。【クラウン】は今回四枚もいるので、それはありがたいのだが処分しなければ移動できない……!
仮に【精鋭ピッカリン騎士団】が【クラウン】を突破してきた場合、僕は敵三枚に囲まれて、絶体絶命に陥る。
移動すべきだ。が、しかし、もしも防ぎきってくれたのなら、プシュケーは削られるが手札を生かせる。
【クラウン】が本体なら五割の確率でなんとかしてくれる。トークンだと確率がその半分にまで下がってしまう。僕は四分の一を信じられるのか?
前のマスにいるうさぎに視線で問いかける。
お前は僕をこの窮地から救えるか。
道化師は大仰な動作でよそを向いて口笛を吹き始めた。音が出てないぞ、ピエロ。
「移動するっ! しょうがないからこの邪魔な二枚は泉に沈めて、神秘力の足しにしてやるわ!」
本物ではないことを
よくよく考えたら、僕みたいな貧運の者が何をトチ狂って確率に身を委ねようとしていたんだ。大事なところで確率の神は僕を嘲笑うに決まっている。
そうと決まれば長居は無用、僕は敵陣中央前列まで移動して手番を終えた。
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