第83話
ダンジョン配信者の紹介はまだまだ続いた。
司会に名前を呼ばれ,観覧の女性たちの拍手に包まれながら、ダンジョン配信を少しでも齧ったことのある者なら誰だって見たことがあるような大物のダンジョン配信者がスタジオに入ってくる。
「皆さんこんにちは。義務笑のぶひぃことK5senでーす」
以前はfpsのゲーム実況で人気だったが、現在はダンジョン配信者で成功した配信者K5senさん。
「はいどうも皆さんこんにちは。まこうと申します。本日は対戦よろしくお願いします」
キレながらダンジョンを攻略する様子を配信するスタイルが受けた、まこうさん。
「うほーい!ハロライブ三期生のマリン組長でーす。うふーん。今日はよろしくねー」
大人気コスプレ探索者事務所、ハロライブ所属のマリン組長さん。
「パコパコパコパコ!!!サンジヨジ三期生の宇佐美パコーラだパコ!!!あんたたち今日はよろしく頼むパコ!!」
ハロライブと対立する同じく大人気コスプレ探索者事務所、サンジヨジ所属の宇佐美パコーラさん。
とにかく今をときめくダンジョン配信界隈の錚々たるメンバーが、番組に呼ばれていた。
ダンジョン配信に詳しい者にとってこれだけのメンバーが一堂に会しているのはかなりの垂涎ものではなかろうか。
さらに、この特番にはダンジョン配信者だけではなく、現在第一線で活躍する探索者や、過去に探索者界隈を育てた功労者も呼ばれているようだった。
「今日はダンジョン配信者だけではありません…!今探索者界隈の第一線で活躍する、黒の鉤爪クラン!!そのリーダーの日下部雅之さんです!!!」
「「「「わあああああああああ」」」」
拍手と歓声と共にスタジオに迎え入れられたのは、見覚えのある人物だった。
日下部雅之。
かつて俺にダンジョン内で絡んできた黒の鉤爪クランのリーダーの人だった。
「皆さんこんにちは。黒の鉤爪クランの日下部雅之と言います。配信者ではありませんが、探索者としてここに呼ばれました。よろしくお願いします」
日下部さんはそんな自己紹介をした後にチラリと俺の方を見た。
俺と目が合うと一瞬苦々しそうな表情を浮かべる。
あんなことがあった手前、若干気まずいのだろう。
「他にも!今日は現役の探索者だけではなく、かつて探索者界隈を大いに盛り上げ貢献した人物も呼んでいます!!!鬼頭玄武さんです!!!」
「「「「「わあああああああああ」」」」
そう呼ばれ入ってきた男は、強そうな名前に負けないぐらいの強面の男だった。
歳は40代ほどだろうか。
広い肩幅を左右に振りながらのしのし歩いてくる。
「鬼頭玄武だ。今日はよろしく頼む」
短い挨拶だったが、威厳がこもっていた。
観覧の女性たちも若干気圧されている。
(あれ…?鬼頭玄武?どっかで聞いたことがあったような…)
俺はその聞き覚えのある名前に首を傾げる。
「…!」
そうだ思い出した。
鬼頭玄武ってこの間の深層ソロ攻略配信で、ボス部屋へ入った時にボスの弱点を教えてくれた人だ。
確かあのダンジョンを最初に攻略したクランのリーダーなんだっけ。
今日ここに呼ばれるということは、やはり鬼頭玄武というのは、俺が知らなかっただけでそれなりに名の通った大物なのだろう。
「…」
自己紹介を終えた鬼頭玄武がチラリと俺に目線を送ってきた。
ジィッと観察するような鋭い視線だった。
「…?」
俺が首を傾けていると、鬼頭玄武は自己紹介を終えて椅子に座った。
どうやらこれで番組のゲストの紹介は終わりのようだった。
「はい、今日はこの方々と共にやっていきたいと思います」
「皆さんどうぞよろしくお願いしまーす」
「「「「わぁあああああああ」」」」
観覧の女性たちが拍手する。
俺たち出演者も、パチパチと拍手して、それが終わったらいよいよ番組の本編へと入っていった。
「それではまず皆さんに改めて一人一人自己紹介をしてもらいたいと思います!!!」
リハーサルをやったので、この後の流れもおおよそは把握している。
全員がスタジオに入った後は、改めて一人一人がピックアップされて、自己紹介をしながら司会の二人が色々突っ込んでいくという構成になっている。
司会の二人がまず最初に声をかけたのが、俺だ。
「それでは神木拓也さんからお願いします」
「神木拓也頼むでー」
「は、はい……えっと、神木拓也です。現在高校生で、ネット上でダンジョン配信者として活動してします。今日はよろしくお願いします」
俺は搭乗時の自己紹介をもう一度繰り返す。
「まずダンジョン配信者ってなんなの?」
「おいそっからかい!!!」
松田さんが首を傾げ、浜本さんが頭を叩いて突っ込んでいる。
「番組の冒頭でVTRで説明されてたやろがい。聞いてなかったんか」
「聞いてたんやがようわからんかった。こういうのは実際にやってる人に聞いてみな」
「面倒臭いやつやのー。それじゃあ、ごめんけど、神木拓也くん、ダンジョン配信ってどんなことするのか説明してもらえる?」
「あ、はい…ええと…」
予定にないことを聞かれて若干焦りつつも、俺はなんとか答える。
「ダンジョン配信は、ダンジョン探索の様子をインターネット上で配信することを言います。モンスターと戦ったり、ダンジョンを探索する様子をリアルタイムでネットで放送するんです」
「へえええ。そうなんか」
「なんやそれ楽しそうやの。モンスターと戦ってるところを配信で流すんか」
「そうです」
「つまり神木くんが実際にダンジョンへいって探索して、モンスターと戦うところをカメラで撮りながらネットで流すわけやな?」
「そういうことになります」
「え、でもそれ危なくない?モンスターって、めっちゃ強いって聞くで?拳銃で撃ってもよう死なんモンスターとかいるって聞くで?怪我したところとか、放送で流れてしまったらどうするん?」
「おっしゃる通り、ダンジョン配信は危険の伴う配信ジャンルです。過去には配信中に配信主がモンスターに殺されてしまうという悲しい事件も起こったりしてます」
「「「「えええええええええ」」」」
「「「「こわーーーーーーい」」」」
観覧の女性たちが悲鳴をあげる。
司会二人も結構大袈裟に驚いていた。
「はあああああ、すごいやっちゃな、ダンジョン配信って」
「配信中に人が死ぬって……もうそれ命懸けやん。命をかけた配信やん」
「そうですね、危険ではあると思います」
「すごいなぁ…高校生やのに、視聴者楽しませるために体張ってんのか」
「逆に危ないからこそ面白いんやろな?ハラハラドキドキするというか……でもやっぱ危険やで」
何やら感心している様子の司会二人。
俺はなんか自分がダンジョン配信者の代表みたいに語っていることに照れくささを覚えて、周りを見た。
桐谷は理想的な出演者よろしく、俺や司会の反応にうんうんと頷いている。
カロ藤さんはニヤニヤとニヤついていて、コリコリさんは小馬鹿にしたようにせせら笑っている。
命をかけたダンジョン配信よりも暴露配信の方が理にかなっていると思っているのだろうか。
また、まこうさんは口を開けてボケーっとしていて、探索者の日下部雅之や鬼頭玄武はグ
ッと口を引き結んでいる。
「なるほどなぁ…ダンジョン配信者ってすごいんやなぁ」
「拓也くんはどうしてそんな危険な配信やろうと思ったの?」
「えーっとそれは…」
「だって普通そんな危険なこと高校生でしぃひんやろ」
「探索者で儲けるため?配信はついで?探索者は危険だけど儲かるいうのは聞いたことあるで」
「いえ、探索者をやるためではなく自分はあくまで配信のために探索をやってます。配信が好きなので。昔からダンジョン配信を見てきて、自分でもやってみたいという憧れがあって……それでダンジョン配信を始めたっていう感じです」
「せなんや」
「それで人気になったわけやから、やっぱすごいんやろなー?」
「いえ、それほどでも…」
「なんで人気になったん?やっぱ高校生でそんな危険なことにチャレンジするのが珍しいから?」
「なんか日本記録保持者なんやろ?どういうことなんそれ?めっちゃすごいやんな?」
「あー、えっと、実は自分、最初っから人気があったわけではなくて……その、隣にいる桐谷奏さんにきっかけをもらったというか、そのおかげで一目について伸びたというか…」
「え、桐谷ちゃんが?」
「何があったん?めっちゃ興味あるで」
司会の二人が桐谷に水を向ける。
桐谷がちょっとあせあせしながら答えた。
「あ、あのえーっと…その、私と神木くんは同じ学校の同じクラスで……そのたまたま、ダンジョンで危ない目に遭っているところを助けてもらって……それで神木くんが注目を浴びたんです」
「え、危ない目って?」
「どゆことどゆこと?それだけじゃわからんで」
俺と桐谷は協力して何があったのかを二人に説明した。
「そういうわけで、俺が桐谷を助けるところが桐谷の配信に映ってそれでずっと人気のなかった俺が日の目を浴びられたと言いますか…大体そんな感じです」
「「「「「へぇえええええええ」」」」」
「はえぇえええ。そんなことがあったんか」
「それはドラマやなぁ」
司会二人が俺と桐谷を交互に見て感心している。
「なるほどなぁ。元々人気の桐谷ちゃんを神木くんが助けたことで、神木くんは伸びたわけや」
「同じクラスの男子がたまたま居合わせて助けてくれたってすごい偶然やなぁ…桐谷ちゃんは大丈夫だったん?モンスターに怪我とかさせられんかった?うん?」
「お前はいちいち言い方がいやらしいんや」
わざとらしく猫撫で声で桐谷にそう聞いた松田に対して浜本が突っ込んだ。
「わ、私は大丈夫でした…その、神木くんのおかげで。神木くんがきてくれなかったら……多分死んでたと思います」
「え!?マジで!?」
「そんな危険やったの!?」
「はい……イレギュラーっと呼ばれる突発的に起こる事故みたいなのに見舞われて……それで私一人では倒せないような強いモンスターに遭遇しちゃったんです」
「うわっ、こわっ…一歩間違えたら、桐谷ちゃんは今ここにいなかったわけか!」
「はい」
「すごいなダンジョン配信って。そんな身近に危険が潜んどるわけか」
「でも、桐谷ちゃん、あれやないの?もう少しで死んでまう!っていうピンチの時に神木くんが助けに来てくれて、正直ちょっと心動いたんちゃうの?ときめいたんちゃうの?」
「ふえぇえ!?」
「お前は何を言ってんねん」
「だって気になるやん!!」
「わ、私はその、そんなっ…えっと…」
「ほら、桐谷ちゃん困ってるやろが」
「だって気になるやん、桐谷ちゃん。こんな可愛いんやで?実際どうなん?二人はもう出来上がってるんちゃうの?」
ニヤニヤしながら松田さんが俺たちを交互に見てくる。
「はぅううう…」
桐谷は顔を真っ赤にして、助けを求めるよう
に俺を見てきた。
俺は任せろというように頷いて、二人にキッパリといった。
「そういう関係はないです。その後配信上でコラボとかさせてもらったんですが、男女の関係ではないです。今後もその予定はありません」
「テレビの前のみんな聞いたか!!桐谷ちゃんはフリーやで!!!今がチャンスや!!」
「お前は何をいうてんねん」
「「「「ははははははははは」」」」
カメラに向かってそんなことを言う松田に浜本が突っ込んだ。
スタジオ全体が笑いに包まれる。
「そう言うことだったのかぁ。神木くんが人気になった経緯は分かったで」
「桐谷ちゃんがフリーなのはよう分かったで。おじさんも後で桐谷ちゃんの配信見に行ってもいい?」
「こ、光栄です」
「おい、変態オヤジ!あんま若い子困らせんな」
「ははは、分かった分かった。せやけど、それよりも何よりも俺が気になってんのは、この神木くんの日本記録保持者ってところや。これ、どう言うことなん?」
おそらくそれぞれの出演者の個人情報が記載されているのであろう台本を見ながら、松田さんが俺にそう聞いてくる。
「えーっと……その、ちょっと長くなるんですけど」
「ええで」
「気になるわ。詳しく説明してくれい」
「あの……ダンジョンって上層、中層、下層の三つの階層に通常は分かれてるんですけど、数は少ないですけど、その三つの階層とは別に深層っていう階層を持っている珍しいダンジョンがあるんです」
「ふむふむ」
「ほうほう」
司会の二人が相槌を打ち、先を促してくる。
俺は自分の、高校生探索者としての日本記録保持についてできるだけわかりやすく説明する。
「その深層って場所はすごく危険で、魔境って呼ばれたりしてて、強いモンスターがいっぱいいるんです。成人の探索者でも簡単には入れないんです」
「はいはい」
「うんうん、それで?」
「そこに高校生で踏み入って、一階層を攻略しきった探索者が今までいなかったんです。けど俺が初めてソロでその深層に潜って一階層を攻略しました。それが、結果的に高校生探索者としての日本記録更新になったんです」
「はえええええええ、すっごいなぁ」
「なんじゃそりゃ。あんたそのめっちゃ危険な深層って場所に一人で行ったんか?」
二人は演技なのか本気なのか、目を剥いて驚いていた。
「はい、一応一人で潜りました。危険を承知で、配信のために」
「すっごいなぁ。とんでもない度胸やな」
「魔境って、めっちゃ怖い名前やん。そら、高校生でそんなところに一人で入ろうとはならんわなぁ。そらすごいわぁ」
「「「「すごおおおおおおい」」」」
観覧の女性たちも感心したような声をあげている。
司会の二人が興味津々と言った感じでさらに俺に質問を重ねてくる。
「てことはだよ?神木くんはその深層というか魔境に一人で潜ったわけやんな?そこでたくさん強いモンスターとも遭遇したわけや」
「はい」
「そいつらどうしたの?倒したの?それともうまいこと回避する方法があるの?」
「もちろん倒しました。その階層にいるモンスター全てを全滅させたかどうかはわからないですけど、単に逃げたわけではなくしっかりとモンスターを倒して一階層ずつ攻略しました」
「えっ!?それ本当なん!?」
「待て待て。ちょっと話がちゃうで」
二人がちょっと訝しむような目で俺を見てくる。
「だって、おかしいで。その深層って場所は大人の強い探索者でもよう入らん危険なところなんやろ?そんなところに出てくるモンスター、あんた一人で倒せんの?」
「正直神木くん、そこまで強そうには見えんで?腕も細いし…」
「せやせや。失礼かもしれんけど、神木くんどこにでもいる高校生に見えるで。そんなに強いん?」
「一応……強くない、というと嘘になります」
「へええええ」
「すごい自信やな」
二人は感心する。
だが心の底から信じてはいないような反応だった。
実際に俺の配信を見てもらえればわかると思うのだが、それを言って喧嘩腰みたいになったら失礼だし…
俺がどうしたものかと困っていると。
「その男の実力は本物だぞ」
「お?」
「ん?」
少し離れた場所から声が聞こえた。
「神木拓也の実力は本物だ。この俺が保証する」
鬼頭玄武さんが、二人の司会を睨みながら威厳のこもった声でそんなことを言った。
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