第187話
ガチャガチャガチャッ
『……!?』
サムライのモンスターがわかりやすく動揺する。
鎧をガチャガチャと鳴らし、若干飛び退いて虚な兜の中の瞳を俺に向けてくる。
カタカタカタ……と小刻みに震える音がこちらまで聞こえてくる。
俺が自らの斬撃スピードを凌駕しがことが余程の驚きだったらしい。
「ちょっとやりすぎたな…」
俺は粉になった大岩を見て若干反省する。
流石にここまでやる必要はなかった。
このモンスターに焚き付けられて少し力を出しすぎたような気がする。
“ファーーーーーーーw w w w w”
”うおおおおおおおおおおおおおおおお“
”きたあああああああああああああ“
”どりゃあああああああああああああ“
”すげえええええええええええええ“
”ええええええええ!?!?!?“
”勝ったぁああああああああああああああ“
”神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!!“
”やっぱり俺たちの大将がナンバーワンだよなぁああああ!?“
”うーん、最強w“
”強すぎw w w w w“
”神木拓也は今日も神木拓也だったわw“
心配されていた俺が、サムライのモンスターを上回ったことでチャット欄が一気に盛り上がる。
同接もものすごい勢いで伸びていき、配信が最高潮に盛り上がる。
「さて……結局お前は何がしたかったんだ?」
俺は視聴者たちの盛り上がりには満足しながら、この目的不明の力比べを仕掛けてきたサムライのモンスターの方を見る。
結局こいつは何がしたかったのだろう。
俺の力を試したかったのだろうか。
この岩を斬るのは小手調で今から本気で戦うつもりなのだろうか。
だが、岩斬で俺の方が剣速が上回ってしまったんだが、その辺は大丈夫なのだろうか。
というかさっきまでの殺気のような気迫が今や全然感じられない。
サムライのモンスターは、明らかに狼狽し、戦意を喪失したような感じで俺を見ていた。
ガチャ……
「…?」
サムライのモンスターが突然地面に座り込んだ。
何か攻撃の前段階かと俺は身構えたが、サムライのモンスターはゆっくりと刀を抜き、それを迷わず自らのお腹に突き立てた。
ザクッ!!!
「は…?」
何してんたこいつ。
俺は呆気に取られてサムライのモンスターを見る。
『ボォオオオオオ……』
低い唸り声を上げたサムライのモンスターは、苦しそうにビクビク痙攣しながら、腹に突き立てた刀をそのまま動かして自分の腹を完全に切り裂いた。
まるでそれは、かつての侍たちが自分の命に決着をつける方法……切腹のようだった。
“ファッ!?”
“腹切ったああああああ!?”
”なんで!?”
“切腹きたぁあああああああああ”
“ええええええええ!?!?”
”何してんのこいつ!?“
”馬鹿なのかな!?“
”諦めた!?“
”自滅…?“
”大将が強すぎて戦うことを諦めたのか…?“
”いやマジかよw“
”こんな結末ってあるかw w w“
”深層モンスターに自殺を選ばせたw w w“
”勝てないと判断して自殺しているやんw w w“
”大将強すぎて戦意喪失w w w深層モンスターまさかの自害w w w“
『ボ……』
チャット欄が深層モンスターのまさかの自傷行為に驚いている中、サムライのモンスターは最後に一声泣いて、ガックリと前に体を倒した。
ダンジョンの床が隆起して、その体を飲み込んでいく。
「死んだ……」
ダンジョンに飲み込まれて行ったということは完全に死んだのだろう。
俺は直接戦わずして、自害を選んだサムライのモンスターを呆然と眺める。
「勝てないと思ったから…?潔すぎないか流石に…」
俺的には配信が面白くなるから戦ってみたかったんだけど…
あの岩斬の速さ比べて俺に負けて勝てないと判断し、自害の道を選んだのだろうか。
「こんなモンスターもいるんだな…」
過去類を見ない、あまりにも潔い深層モンスターの存在に、俺は思わず唸り声をあげてしまうのだった。
= = = = = = = = = =
「ちょ、冗談でしょう!?サムライゾンビが自害を選んだ!?」
神木拓也の配信を見ていた西園寺グレース百合亜は自室で叫び声を上げる。
神木拓也は現在、未攻略ダンジョンの深層第二層で新たな深層モンスターとの戦いを終えたところだった。
サムライのような甲冑に身を包み、刀を腰に下げたそのモンスターの名前はサムライ・ゾンビ。
西園寺は、現在所属しているクランの過去の探索記録から、そのモンスターについて知識を持っていた。
サムライゾンビは、文字通りサムライの格好をしたゾンビのモンスターだ。
とても知能が高く、探索者と遭遇してもすぐに襲いかかったりはしない。
サムライゾンビは戦う相手を試す習性がある。
対峙している探索者が自分と戦うに値するのか、岩を斬らせてみて試すのだ。
もしサムライゾンビの意向に従わず、背後から襲いかかったり、岩斬に参加しなかったりすると、たちまち深層モンスターの中でも特に早い動きによって、知らぬ間に首を落とされてしまう。
サムライゾンビと戦う時は最新の注意が必要と、クランの過去の探索記録にはそう記されていた。
そんなサムライゾンビを……神木拓也は自害に追い込んだ。
サムライゾンビが試すために用意した岩斬競争で、サムライゾンビの戦意を砕いて、自害に追い込んだのだ。
「し、深層モンスターの戦意を砕くなんて…冗談でしょう…?」
何があっても勝てない。
サムライゾンビはそう判断し、自害を図ったのだろう。
深層モンスターが戦わずして自殺するなんて話は、未だかつて西園寺は耳にしたことがなかった。
「どんだけなのよ……もはや意味がわからないわ……」
過去に類例のないことを次々に体現してみせる神木拓也に、西園寺はもはや驚きを通り越して呆れてすらいた。
『それじゃあ、なんか自分で腹切って死んじゃったんで、次に行きますねー…」
画面から呑気な神木拓也の声が聞こえてくる。
「ははは……どこまでも想像を超えてくる男ね、本当に…」
西園寺が乾いた笑いを漏らす中、神木拓也は深層の通路を何事もなかったかのように進んでく。
神木拓也はすぐに深層第三層にたどり着くだろう。
なぜなら、サムライゾンビの階層にはそれ以外のモンスターは一切出てこないからだ。
サムライゾンビは、同階層に存在する深層モンスターを試し斬りで殺す習性がある。
ゆえにサムライゾンビが出現した階層には、それ以外のモンスターは滅多に出てこないのだ。
けれど……おそらく神木拓也はそんなこと知らないし、どうでもいいのだろう。
迷わずサムライゾンビの飲み込まれつつある死体を超えてその先に進み神木拓也を、西園寺は画面越しに呆れ笑いを漏らしながら見守った。
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