第186話
(しかしこいつは一体何がしたいのだろう。俺と力比べがしたいのだろうか。それならさっさと戦ったほうが早いと思うんだが…)
俺は今更ながらこのサムライのモンスターの目的について考えだした。
どうやらこのサムライのモンスターは、俺が自分の力にどこまでついて来れるのかを判断したいようなのだが、それならば実際に戦った方が早いのではないだろうか。
“こいつ可愛いな”
“殺すのはやめべ^^”
“仲間にしよう”
“一緒にダンジョン攻略しないか…?”
“大将。そいつなんか愛苦しんで殺さずに生かしておきましょう”
“つかこいつ速すぎだろ。普通に今までの深層モンスターの中で最速の部類じゃね…?”
“大将じゃなかったら気付かぬうちに首落とされてたとかありそうやな”
“強いけど可愛いわ”
“で、こいつ何がしたいの?モンスターの分際で大将を試すとか烏滸がましいにも程があるだろ”
”可愛いけど面倒だからさっさと殺すべ“
”不意打ちして殺すべ^^“
その人間らしい仕草からコメント欄には、殺さずに仲間にしよう、などと言い出す視聴者まで現れる始末だ。
俺としてはさっさと戦って白黒つけたい気持ちはあったのだが、しかしこのサムライのモンスターとの戦闘が始まってから同接は順調に伸び続けているため、焦る必要もないと思った。
視聴者は、このモンスターとの謎の駆け引きを楽しんでいるらしい。
カチャリ……
俺が中の大きさの岩を、よりたくさん斬ったことに驚いていたサムライのモンスターが動きを見せた。
今度こそ俺に直接攻撃をしてくるのかと身構えたが、そういうわけじゃなさそうだ。
サムライのモンスターは、最後の試練だと言わんばかりに一番大きい岩の前に立つと、突如として全身から爆発的な殺気を放ち始めた。
(本気出すのかな?)
俺はサムライのモンスターから感じる覇気を受けてそんなことを思った。
『ボォオオオオオオ!!!!』
今までずっと無言だったサムライのモンスターが突如として吠えた。
と思ったら、今までで一番早いスピードで剣を引き抜き、縦横無尽に大岩を切り刻む。
キィイン!!!!
鋭く高い音が鳴った。
サムライが刀を鞘に収める。
しん…とした一瞬の静寂があった。
次の瞬間…
ガラガラガラガラ……
”ファーーーーーw w w w w“
”えっっっっっっっぐ“
“うおおおおおおおおおおおおお”
“きたああああああああああああ”
“すげええええええええええええ”
”はっっっっっっっっや“
”つっっっっっっっよ“
”本気モードきたああああああああああ“
”わお“
”すげー……“
”大将以外にこんなのできるやついるんだ…“
”なんかちょっと前の神木見ているような感じだわ…“
直径数メートルはありそうな大岩が、数センチ四方の大きさにまで切り刻まれてバラバラと崩れた。
サムライのモンスターが刀を振り回していた時間は1秒にも満たなかったが、その時間でどうやらこんなに小さくなるまで大岩を切り刻んだようだった。
間違いなく、今までで最大のスピードだ。
これがおそらくこのサムライのモンスターの本気なのだろう。
今までのはほんのお遊びに過ぎなかったということだ。
チャット欄では視聴者たちも、このサムライのモンスターのスピードに驚いている。
おそらく速さだけに関しては、このサムライのモンスターが過去相対してきたモンスターの中で間違いなく一番だろう。
『……』
カチャリ…
サムライのモンスターが、俺を見て大岩の方へ顎をしゃくった。
さあ、お前の本気を見せてみろ。
そう言わんばかりの仕草だ。
“いけえええええええええ”
”やれえええええええええええ“
”うおおおおおおおおおおお“
”次はこっちのターーーーーーン”
”やっちゃってください大将“
”切り刻めぇええええええ“
”本気だせぇええええええええええ“
”見せつけろぉおおおおおおおお“
“格付けの時間だぁあああああああ”
”大丈夫だよな!?超えられるよな!?“
”流石に負けないよな大将!?“
”神木なら大丈夫。きっとやってくれる“
“流石に神木なら負けないと信じたい”
“これで負けたら実際の戦闘になっても危なくね…?”
“大丈夫……神木ならパワーだけじゃなくて速さでも上回るはずだ…”
チャット欄の視聴者たちも、完全にやる気になっている。
見せつけろ、本気出せというコメントや、流石に負けないよな?速さでは負けている可能性が、と俺を心配する声もある。
「ま、やるか」
力を見せつけるのにこれほど絶好な機会もない。
これでこのサムライの勝負を受けなかったら白けるだろうし……イメージも駄々下がりだ。
このサムライのやり方に乗っかって、正面から完全に打ち砕くとしよう。
「見てろよ」
俺は一度チラリとサムライのモンスターを見て、確認してから、大岩の前にたち……これぐらいならサムライの速さを上回れるだろうという程度の速さで大岩を斬った。
「……ッ!!!」
音はなかった。
ただ一瞬、強風がダンジョンの通路を吹き抜けていった。
岩を確実にサムライのモンスターよりも短い時間で、細かく切り刻んだ俺は、片手剣を鞘に収めた。
そして不意打ちをすることもなく律儀に背後で待っていたサムライのモンスターを顎でしゃくった。
「確認してみろよ」
『……』
サムライのモンスターが首を縦に振り、そして俺が切り刻んだ大岩に触れた。
サラサラサラサラサラサラ……
『……!?!?』
俺が砂のように細かくなるまで切り刻んだ大岩が、サラサラと流れて地面に落ちていった。
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