第185話


サムライのモンスターは、カチャリカチャリと鎧の音を立てながらダンジョンの通路を奥へ奥へと進んでいく。


何もせずついてこい。


鎧で覆われた背中はそう物語っていた。


俺はいきなり背中から不意打ちして倒すのも不粋だししらけるかなと思い、とりあえずそのサムライのモンスターについていく。



“なんだこれ…”

”背後から攻撃しようぜw“

”ついてこいってこと…?“

”何が始まるんや…?“

”普通に仲間のところまで誘き寄せる作戦か…?“

”なんにせよすぐに攻撃してこないってことは知能が高そうだよな“

“こいつも特殊能力持ち…?”

”ウォーターゴーレムと違って普通に強そうだな“

“背後からいきなり神拳ぶち込むべ^^”

“普通に不意打ちで神拳で殺すべ^^”

“なんか果し合いみたいなの始まりそうだけど、そんなの無視して不意打ちで殺そうぜ”



チャット欄では視聴者がこの異様な展開にいろんな考察をするようなコメントを打ち込んでいる。


中には「不意打ちで殺そう」「背後からいきなり神拳ぶち込もう」と鬼畜極まりないコメントも目立つ。


もちろん俺はそんな鬼畜なことはするつもりはなかった。


なんのつもりなのかはわからないが、とりあえずこのサムライのモンスターについて行くつもりだった。



「お…?」



カチャリ…カチャリ…と音を立てながら進んでいくサムライについて行くと、やがて前方に丸い岩の影のようなものが複数見え始めた。


大中小、三つの大きさのものがそれぞれ二組ずつ用意されている。


サムライは岩の前で足を止めると、一度こちらを振り返った。


「…?」


俺がサムライの意図を測りかねて首を傾げいていると、不意にサムライが刀を抜き、一瞬で空気を切りさき、そしてすぐに刀を鞘に戻した。


その動きは洗練されていて非常に早く、もしかしたら動体視力が高くない人が見たら、刀を鞘から少しだし、また戻したように見えたかもしれない。


チン、と刀と鞘が当たる高い音が響いた。



斬ッ!!!!



サムライの刀によって真っ二つに切り分けられた小さな岩が、地面に転がる。


サムライは、二つになった岩と俺を交互に見つめ、顎でしゃくった。


その動作はまるで、俺にも同じことをやってみせろと要求しているようだった。



“ファッ!?”

“えっっっっっっぐ!?!?”

”すげぇ!“

”斬れた!!!“

”斬撃!?“

”はっっっっっっっや“

“見えなかった…”

“俺でなきゃ見逃しちゃうね”

“神木でなきゃ見逃しちゃう速さ”

“かっけぇ……つべのショート動画であるやつやんけ……”

“竹を切るってレベルじゃねぇな…”

“斬撃が起こったのすら見えなかったんだが……”

“大将とどっちが早いんや…?”

“やっぱ見た目通り普通に強そうやなこいつ…”



チャット欄では視聴者たちが、そのあまりの速さに驚いている。


俺はこの言葉を喋らないサムライのモンスターが、俺にも同じことをやって見せろと言っているように感じて、サムライの方を見て頷いた。


そして、多分俺用に用意されているのであろうもう一つの小さい岩の前にたった。



(だいたいこのぐらいの速さかな…)



俺は先ほどサムライが見せた動きを若干上回る程度の速さで片手剣を振った。



斬ッ!!!



斬撃が飛んで、小さな岩を切り裂いた。


小さな岩は真ん中から綺麗に二つに分かれて、凹凸のない一直線の断面を晒す。



サムライがちょっと驚いたように俺を見た。



パチパチパチパチ……



「あ、はい。ども……」


と思ったらなかなかやるやんけと言わんばかりに俺に拍手を送ってきた。


そのあまりに人間臭い仕草に、俺は思わず頭を掻いて頷いてしまった。




“よーーーーーーし”

“よーーーーし”

“よーーーーーーーーーし”

”認めさせた“

”勝ち“

“これは勝ち”

“勝ったな”

“大将の勝ち”

”まぁ、この程度のことは大将もできるわけよ“

”見えない速さで腕を振って斬撃で岩を切るぐらいのことは出来なきゃなぁ!?“

”まぁ神木なら出来るわけよ“

”拍手してら^^“

”めっちゃ素直に讃えてて草“

”なんかこいつかわいいな“

”倒すのやめべ^^“

”普通にここのコメ欄にいる大多数の連中よりも礼儀正しくて草“

”こいつは許すべ^^“

”いや、なんだこれ“

”さっさと戦えよお前ら何してんだよw w w“



サムライのモンスターはしばらくパチパチと拍手をした後に、今度は中の大きさの岩の前にたった。


そして先ほどよりもさらにはやく刀を抜き放ち、2度、3度、空気を斬って斬撃を放つ。


チン……



刀と鞘が当たる音がなった直後、中の大きさの岩に二重、三重に切れ込みが入った。


そして幾つにも切り分けられ、地面に転がった。



”うおおおおおおおおおおお“

”きたあああああああああああああ“

”ギア上げてきたぁああああああああ“

”ほなら、これはどうやろか?ってことか“

“これってそういう勝負?”

“大将いけぇええええええ”

”神木に同じことが出来ないはずないよなぁあああああ!?!?“

”まだまだ大将ならついていけるべ“

”速さ比べか“

”見えねぇ…“

”神木大丈夫か…?ついていけるか…?“

”あれ……?こいつ今までのモンスターの中で普通に最速じゃね…?“

”勝てるのか…?神木…“



じゃあ、これは出来るか?


そう言いたげな感じでサムライのモンスターは俺のことを見てくる。


俺はもちろん出来るぞという意味を込めて頷いて、中の大きさの岩の前にたった。


そしてその岩を何重にも切り裂いた。



斬斬斬ッ!!!!



岩にいくつもの切れ込みが入り、十個ぐらいに分かれて地面に転がった。



サムライのモンスターが驚いたようなリアクションで俺の方を振り返った。



マジか……



人間だったらそんな呟きを漏らしていたんじゃないかと思う。



(なんかこいつ愛嬌あるな…)



俺は深層のモンスターと対峙しているのにも関わらずそんな感想を抱いたのだった。

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