第184話
結局ウォーターゴーレムを倒した後、深層第一層では新種のモンスターに出会うことはなかった。
その後は、レイスやリザードマンや、キングスライムといったお馴染みのメンツばかりが出現し、それらを倒していたら気づいたら深層第一層の最奥に辿り着いていた。
「とりあえず第一層は攻略完了です。これから第二層に潜っていきたいと思います」
チラリとコメント欄に目を映しながら、俺はそう言った。
現在の配信の同接は180万人。
もうすぐ200万人を突破しそうな勢いである。
先ほどのウォーターゴーレムの討伐から完全に火がついたらしく、チャット欄では視聴者たちが盛り上がり、コメントが怒涛の如く投下されている。
”もう第二層か“
”うおおおおおおおおおお行けええええええええええええ“
”同接えっっっっっっっぐ“
”同接180万人はやばいわw w w“
”あと一時間もしないうちに200万人超えそうな勢いだな“
”これ最高同接記録更新は確定したっしょ“
“ウォーターゴーレムのクリップから来ました”
“トレンドから来ました”
”神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!“
”今までで一番の伝説の回が来る予感“
”未攻略ダンジョンソロ踏破は流石の大将でも無理だろと思ったけど、さっきの戦い見て考え方変わりました。これ、踏破あります“
”伝説を見せてくれ神木ぃいいいいいい“
”大将はいつも俺たちに出来ないことを平然とやってのける。そこに痺れる憧れる“
トレンドから来た、クリップを見てきた、という人も多い。
どうやら先ほどのウォーターゴーレムの攻略方法が視聴者的にだいぶ好評だったらしく、切り抜きなどがSNSなどで拡散されているらしい。
いろんな場所から新規視聴者が大量に入ってきているのを俺は実感していた。
このまま第二層でもいいところを見せて、ここで一気に新規視聴者を取り込みたい。
そう思い、俺は早速第二層に足を踏み入れる。
「初見さんの方、いらっしゃい。ゆっくりして行ってください。それじゃあ、今から深層第二層に潜っていきたいともいます」
”この配信にゆっくりするために来るやついるのかw w w“
”神木拓也の配信でゆっくりできるわけないだろw w w“
“初見は3ヶ月はロムれなー?^^”
“初見がいっぱいいるねぇ^^”
”初見に注意しとくと、一回神木の深層配信見ると、もうこいつしか見れなくなるぞ“
”第二層か!今度はどんなモンスターが出てくるんだ?“
”注意していけよ神木“
”怖いのはやっぱ新種だよな。即出のモンスターじゃ神木に勝てないことは確定してるし“
深層配信でゆっくりできるか、などとツッコミが入るが、今は拾ってられない。
いち早く視聴者に見どころを提供するために、俺は深層第二層に踏み込み、前に進む足を早める。
「なかなかモンスターがいませんね…」
深層第二層に足を踏み入れた俺は、なかなかエンカウントがないことに首を傾げる。
新種の深層モンスターどころか,いつものお馴染みのメンツである、レイス、リザードマン、キングスライムなどといったモンスターも1匹も出てこない。
何やら不穏な空気の漂う階層に俺は違和感を覚えつつも、足を止めるわけにもいかずどんどん進んでいく。
「ん…?何かいるな……1匹か?」
あまりにもモンスターのエンカウントがなく、俺はすんなりと階層の中ほどまで進んでしまった。
もしかしてこの階層にはモンスターがいないのか、いや、深層まで来てそんなことがあり得るのかと疑問に思っていた矢先、前方に1匹のモンスターの気配を感じとった。
”お?“
”ついにきた?“
”なんか強いのがくる予感…“
”このパターンは……新種か?“
“ここまでいてリザードマンでしたとかやめろよ”
“ここまできて1匹の気配とか……これ確定やろ”
“さあ、今回は大将がどんなふうに攻略するのか……楽しみや”
“くるぞ……”
“ざわ…ざわざわ……”
”くるか…?“
”くるぞ……備えろ……“
視聴者がチャット欄で「くるぞ…」「身構えろ……」などとコメントする中、暗闇の向こう側にぼんやりとモンスターのシルエットが浮かび上がる。
「え……サムライ?」
暗闇の向こうからぼんやりと浮かび上がったそのモンスターは、日本人ならば誰もが馴染みのあるあの格好をしていた。
兜。
鎧。
腰に刺した刀。
その場に直立して、不気味な雰囲気を醸し出しているそのモンスターは、どこからどう見てもサムライの格好をしていた。
”サムライきたぁああああああ“
”ファッ!?サムライ!?“
”侍やんけ“
”お侍さま!?“
”侍おって草“
“え、モンスター…?“
”これモンスター…?“
’模型かな?”
”動くの……?“
”他の探索者じゃなくて…?“
”物好きの探索者……なわけないよな“
コメント欄には模型や、サムライの格好をした他の探索者の可能性を疑う視聴者もいたが、しかしそのサムライの格好をした存在は間違いなくモンスターだった。
暗い兜の向こう側に、黒ずんだ骨格が見える。
ほとんど朽ち果てた死体のような何かが、サムライの格好をしている。
簡単にいうとそんな感じのモンスターだった。
「探索者じゃないです。模型でもないです。確かに気配を感じます。これはモンスターです」
俺は新種のモンスターと遭遇していることをしっかり視聴者に意識させるためにそういった。
そして片手剣を抜き、いつどこからどんな攻撃が来てもいいように身構える。
『……』
俺が随分至近距離まで近づいても、このサムライの格好をしたモンスターは無言だった。
直立不動のまま、体だけ俺の方を向いている。
カチャリ……
「お…?」
サムライのモンスターが、いきなり動き出した。
攻撃かと思ったが、踵を返し、俺に背を向けて歩き出す。
逃げるのか。
そう思ったが違うらしい。
少し歩いて俺から距離をとったサムライのモンスターは、こちらを振り返り、じっと俺を見てきた。
まるでついてこいと言っているようだった。
「知能は高そうだな…」
その背中にはまるで攻撃せず、黙ってついてこいと書いてあるようだった。
俺は一連の所作を見て、とりあえずこのモンスターは人間を見ると何も考えずに襲ってくるようなやつじゃなく、ある程度知識を有したモンスターなのだろうと判断した。
「とりあえずついて行ってみます…」
視聴者がこの謎のモンスターの出現にコメント欄でざわつき、考察などを書き込んだりする中、俺はこのサムライのモンスターに一旦攻撃をやめてついて行ってみることにした。
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