第188話
サムライのモンスターを倒した(と言えるのかどうかはわからないが)俺は、そのまま深層第二層を踏破して第三層の入り口に辿り着いていた。
深層第二層にはあのサムライのモンスター以外のモンスターが一切存在しなかった。
たまにダンジョンに回収されかけのモンスターの死体などが道端に転がっていたりはしたのだが、等しく二つか三つに切り裂かれて絶命していた。
まさかあのサムライのモンスターに殺されたのだろうか。
これまで同士討ちをする深層モンスターには何度か出会って来ているので、あのサムライのモンスターが他のモンスターを斬って殺していたとしても不思議はなかった。
もしかしたらここの階層に訪れた探索者とは自分が真っ先に戦いたいなんて矜持があるのかもしれない。
まぁすでに自害したモンスターに関してあれこれ考えていても仕方がないので、俺はそのまま第三層に進むことにした。
「ここから第三層ですね…早速進んでいきます」
“きたああああああああああ”
“うおおおおおおおおおおおおお”
“もう第三層か”
“同接えっっっっっっっぐ”
“第二層のモンスターはあいつだけか…”
”配信の盛り上がり方が過去1だな…まぁ未攻略ダンジョのソロ探索配信なんだし当然っちゃ当然か“
”神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!“
”負ける気がしないわ“
”最強生物神木拓也“
”ここまでまだ神斬も神拳も使ってないからな。この先も余裕やろ“
”どんどん行け“
”また伝説の生き証人になっちまうよ;;“
”毎度のことだが、こいつの深層配信になるとマジでネットがこいつ一色になるな“
”トレンドもお前関連のワードが占拠してて笑うわw“
配信画面に目を移すと、同接は240万人となっていた。
どうやらあのサムライのモンスターと戦っている間に200万人を突破して、それからも順調に増加を続けていたらしい。
(過去最高記録更新は間違いないな…)
まだ深層の第二層だが、すでにこの数字。
俺はこの配信で過去最高同接記録を更新することを確信する。
ここまでこれば、後はどこまでいけるかの勝負だ。
もしかしたら俺はこの配信で、もう2度と超えることのない同接記録を打ち立てられるかもしれない。
(気合いを入れねば)
配信の行く末がどうなるかはわからないが、俺の名前を一気に広める千載一遇のチャンスだ。
俺は気合いを入れ直して深層第三層の攻略をスタートさせる。
「それでは深層第三層に潜っていきたいと思います」
視聴者の前でそう宣言し、俺は未攻略ダンジョン深層第三層に足を踏み入れた。
= = = = = = = = = =
深層第三層は、一層や二層と明らかに違う不気味な雰囲気を醸し出していた。
ヒィイイイイイイイ!!!
ヒィイイイイイイイイイイ!!!
ヒィイイイイイイイ!!!
足を踏み入れてまず最初に大挙して押し寄せて来たのは、レイスの群れだった。
あちこちから女の泣くような声が聞こえてきて、近くで一気に存在感を放ち、俺に対して攻撃を仕掛けてくる。
ギィン!!
ギギギギィイイン!!!
俺はそれらのレイスの攻撃を防ぎながら前に進んでいく。
斬ッ!
斬斬ッ!!!
『ヒッ……』
隙を見せたレイスを切り刻むことも忘れない。
「このまま進みます」
もはやレイスはたとえ何体になって群れっところで、足を止める必要性を感じるモンスターではなくなっていた。
こいつらの攻撃はいつもワンパターンで、霊体の状態で上空を飛び回り、接近して実体化し、攻撃してくる。
俺は近くで実体化した順番にレイスを切り伏せながら進んでいった。
遠距離攻撃手段などがあれば厄介なのだが、レイスの攻撃手段は、至近距離で実体化し、首や腹など、一撃で致命傷となるような弱点部位をひたすら狙ってくるというワンパターンなものだった。
深層攻略配信では、必ずと言っていいほどレイスとは戦ってきたため、俺はもう完璧に対応に慣れてしまった。
”レイス多いな“
”足を止める必要すらないやんw“
”もはや止まって戦うことすらしないとw“
”深層モンスターをまるで羽虫の如くw w w“
”毎度のことながら反射神経えぐいなw“
“なんか不穏な階層だな”
“もちろんこのレイスの群れ自体がこの階層のボスじゃないやろな。ここまでの流れやとなんかこの後に新種が出てくるやろ”
“なんか強いモンスターが絶対に出てきそうな雰囲気だから体力温存しとこうぜ”
“コメント欄見るなw w w”
“こっち見てるわw”
“どんだけ余裕あるんだよw”
“大将、やあ^^”
“こんにちは、神木^^“
”戦いに集中しろやw w w“
”コメントを見る余裕もあります“
レイスに対応しながら俺はコメント欄を見る。
視聴者はコメント欄で、このレイスは前哨戦のようなもので、本番はこれからだと考察していた。
俺もそう思う。
きっとこの後に何か強い深層モンスターが出てくるのだろう。
もしかしたらレイストの戦闘中に襲ってくるかもしれないので、俺はいつどこからどんな攻撃が来てもいいように心構えをしながらレイスを屠っていく。
俺がチャット欄をチラチラ見ていると、「コメチラ」「こっちみんな」「戦いに集中しろ」と視聴者が反応する。
まぁ新種のモンスターとの戦闘になれば、コメント欄を見ている余裕はないし、今のうちに視聴者とコミュニケーションをとっておくのもいいだろう。
俺はレイスを倒しながらチャット欄を見てコメントを拾い上げ、このごにどんなモンスターが出てくるのか視聴者と考察しながら進んでいく。
『ポ……』
「おん?」
気づけばレイスからの攻撃が止まっていた。
どうやらあれだけいたレイスを、視聴者と会話している間に倒してしまったらしい。
俺がまだ残っているレイスはいないかと周りを見渡していると、通路の奥から聞き覚えのある音が聞こえてきた。
『ぽぽぽ…』
「これは…」
”あ“
”あ…“
”きた…“
”くるぞ…“
”あいつか…“
”あ“
”これは…“
”まさか…“
“くるか…?”
“くるぞ…”
“マジかよ”
“ここでか”
“あいつかよ”
通路の奥からの鳴き声に視聴者も反応する。
俺も、視聴者も、きっと頭の中に浮かんだ光景は一つだったはずだ。
『ぽぽぽぽぽぽぽ!!!』
鳴き声が一際大きくなった。
ゴォオオオオオオ!!!!
「おっと」
斬ッ!!!
それと同時に、前方から巨大な人間の青白い手が伸びてきて俺を掴もうとした。
俺は咄嗟に片手剣を抜いて斬撃を繰り出した。
ボト……
『ぽゴォオオオオオオ!!!』
巨大な手が地面に落ち、暗闇の向こうから悲痛な悲鳴が聞こえてくる。
ズン、ズンとダンジョン全体を揺らすような巨大な足音が立て続けに響いた。
『ぽゴォオオオオオオ……』
「やっぱお前か」
ダンジョンの壁を蹴り、這いずるような格好で姿を現したのは、信じられないほどに巨大な女型の深層モンスター。
八十尺様だった。
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