第189話
「久しぶりだな……」
『ぽぽぽぽぽぉおおおお』
そのあまりのデカさゆえにダンジョンにおいて横になった状態でしか存在できない怪物、八十尺様。
切られた腕からだらだらと血を流しながら、地面に歯を立てて這いずるようにしながら暗闇から姿を現した。
そのどこか懐かしい見た目に、俺は思わずそんな呟きを漏らしていた。
『ぽぽぽぽぽごぉおおおお…』
「う……相変わらず臭いな…」
口元から漂う腐臭に俺は顔を顰める。
八十尺様はその大きすぎる巨体以外にも、モンスターを食べてその特質を自分のものにすることができる力を持っている。
おそらく俺がここに辿り着く前に、すでに回復能力を持つモンスターをその腹に入れていたのだろう。
俺が切り落とした腕は、もうすでに再生を始めていた。
“きたあああああああああああああああ”
“でたあああああああああああああ”
“うおおおおおおおおおおおおおお”
“でっっっっっっっっか”
“うわ、出たわ“
“こいつ嫌い”
”八十尺様きたぁあああああああああ“
“グロイグロイグロイグロイグロイ…”
”こいつマジで苦手“
”きもいきもいきもいきもい…“
”マジで不快“
”モンスター食べるやつだっけ“
”早く倒しちゃったください、大将”
八十尺様の登場で、コメント欄は阿鼻叫喚している。
初めて配信に映った時も、こいつはグロテスクな見た目から、視聴者にめちゃくちゃ怖がられていた。
今回は2度目とはいえ、視聴者はまだ耐性がついていないらしく、「グロい」「不快」「きもい」とコメントしている。
「なんだこいつ!?」
「でっっっか!?」
「トロールの一種!?デカすぎない!?」
などとコメントしているのはおそらく初見組か、最近俺を見始めた視聴者たちだろう。
『ぽぽぽぽぽぉおおおおおお!!!』
八十尺様は腕を切り落とされて相当お怒りなのか、頭をブンブンと揺らして咆哮しながら、もう片方の腕も伸ばしてきた。
斬ッ!!!
『ぽごぉおおおおおおおお!!!』
俺は当然その腕も自分に到達する前に切り落とす。
両腕を失った八十尺様は、いたそうに悲鳴を上げながらジタバタと暴れる。
地鳴りと共に、ダンジョン全体がぐらぐらと揺れる中、俺は片手剣を引いて構えた。
「神斬で仕留めます」
初見でこいつと出会った時は、神斬を使って仕留めたと記憶している。
このような巨体のモンスターには、神拳よりも神斬りの方が通用しやすい。
というわけで俺は神斬りで殺して、さっさと先に進もうと思った。
『ぽぽぽ…』
「お…?マジ…?」
思わずそんな呟きを漏らしてしまった。
負傷して、両腕を回復中の八十尺様の後ろから、またしても同じ鳴き声が聞こえてきた。
『ぽぽぽ…ぽぽぽ…』
ズル、ズル…と地面を這いながら、もう一体の八十尺様が姿を現す。
“もう一体きたぁあああああああ!?!?”
“まじかぁあああああああ!?”
“ファッ!?2体同時に!?”
“またきたぁあああああああああ”
“ええええええええまじかぁあああああ”
“2体同時にか…”
“もう一日奥にいたのか”
“だっっっっっる”
“うえええええええええええ”
”きもいきもいきもいきもいきもい“
”群れてグロさも倍増“
”きっっっっっっしょ。早く倒して大将お願い“
“こいつまじで生理的に無理”
まさかの2体目の八十尺様の登場に、チャット欄の勢いが速くなる。
皆、グロい、速く倒して、生理的に無理、などとコメントしている割には、同接はどんどん伸びている。
やはりこれだけでかいモンスターが2体並んでいるのは、画面映えするよなぁ。
俺は漂ってくる腐臭に不快感を覚えながらも、配信的には美味しいので2体の八十尺様を同時に映す。
『ぽぽぽぽぼごぉおおお』
『ぽぽぽ…ぽぽぽ…』
2体の八十尺様は、割れ先にと俺の方へ這いずってこようとしていたが、あまりにもデカすぎるため通路に入り切らず、結果として二人で詰まって固まってしまう。
『ぽぽぽ…』
『ぽぉおおお…ぽぉおおお』
ダンジョンの通路に二つ並んだ顔がぐるぐるまわり、ぎょろぎょろとした虚な目が俺に向けられている。
「さて…そろそろ反撃を…」
いつまでもこのグロ映像を撮っていても仕方がないので、俺はさっさと神斬りで2匹まとめて仕留めようとする。
次の瞬間…
『ぽぽぽぽぽ…』
『ぽ…』
『ぽぽぽぽ…』
『ぽぉおおおおおお』
『ぽぉぽぽぽぽぽぉおおぽぽぽぽ』
『ぽっ…ぽっ…ぽっ…』
『ぽぽぽ…ぽぽぽ…ぽぽぽ…』
2体の八十尺様のさらに奥、ダンジョンの通路の向こう側から、まるで共鳴するようにしてたくさんの八十尺様の鳴き声が聞こえてきた。
まるで大量発生したカエルのように、あちこちから「ぽぽぽ」という鳴き声がこだまして聞こえてくる。
“ファーーーーーーw w w w w”
“めっちゃいるw w w w w”
“八十尺様大量発生中”
“えっっっっっっっっぐ”
”いや多すぎw w w w“
”どんだけいんねん“
”もうええてw“
”ひえええええええええええ!?“
”奥にめっちゃおるやんw“
”多すぎてハモってるやん“
”きもいきもいきもいきもいきもいきもい“
”神木の配信史上一番ホラーだろこれ“
”まさかこの階層全部八十尺様で埋め尽くされてんの…?“
”きしょすぎるよぉ;;“
チャット欄ではほとんど悲鳴に近いコメントが書かれていた。
まさかの八十尺様の群れでのご登場に、コメント欄がものすごい勢いで流れ、「グロい」「きしょい」と言ったコメントが連投される。
「1匹1匹倒してても面倒だなぁ…」
俺はこの数の八十尺様に1匹ずつ神斬りを打っていては時間がかかるため、少し新しい技にチャレンジしてみることにした。
『ぽぽぽぽぽ…』
『ぽぉおおおおおお』
『ぽぽぽっ…ぽぽぽっ』
『ぽぉおおおおおおおお』
『ぽ?ぽぽぽ…ぽ?ぽぽぽ…』
『ぽ……ぽ…ぽ……ぽ…』
『ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ』
たくさんの鳴き声が重なり合いながら、少しずつ近づいてくる。
ズル、ズルと這いずる音がダンジョンを満たしていた。
「まとめて死んでくれ……神・十字斬り」
俺は階層全てのモンスターを切り裂くほどの威力がある神斬りを、二連続で、10時の形にして放った。
次の瞬間、世界が縦と横で切り分けられ、全部で四つに分かれたように錯覚した。
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