第190話


“うぉおおおおおおおおおお”

“きたああああああああああああ”

“新技でたぁああああああああああ”

“どりゃああああああああああああ”

”神斬りきたぁあああああああああああ“

”神斬最強!神斬最強!神斬最強!“

”ざまあああああああああああああ“

”みたかあああああああああああああ“

”よーーーーーーーーーし“

”やっぱ世界を切っているようにしか見えないなw“

”縦横神斬りは逃げ場ねぇってw“

”まーた、新技生み出してら^^“

”うーん……これは最強w“



意図せず生み出されることになった新技にチャット欄で視聴者たちが沸いている。


最強クラスの巨体を持つ八十尺様の、群れでの登場に、俺はやむをえず神斬りを2回連続で使用した。


同じ太刀筋で斬っても意味がないので、縦と横に十字になるようにして斬った。


結果的に、世界が四つに分かれ、ダンジョンの通路をほとんど埋めるようにして存在していた八十尺様が、四つに切り裂かれる。


『『『『ぽげぇえええええええええええええええええええ』』』』



ダンジョン全体から、耳を塞ぎたくなるような悲鳴が聞こえてきた。


その層全てのモンスターを一度に切り裂いてしまうほどに威力がある神斬りによる十字斬り。


おそらく奥にいた八十尺様たちにも逃げ場はなかっただろう。


『ぽごぉおおお…』


『ぽぉおおお…』


一番手前にいた八十尺様2体が、バラバラになって地面に転がった。


グロテスクな体の内部が顕になり、おそらく特質を得るために食べたのであろうモンスターの残骸が外気にさらされる。



「う…」



そのあまりにグロい死体に、コメント欄がまたしても阿鼻叫喚となる中、俺は漂ってくる腐臭に顔を顰めた。


やがてダンジョンの地面が大きく隆起して、八十

尺様の死体を回収する。



「しばらくここで待ちます」


俺はおそらくずっと奥まで続いているであろうダ

ンジョンの床による八十尺様の死体の回収が終わるまで、その場で待機することにした。


神斬りの十字斬りを生き残った八十尺様はどうやらいなさそうであり、あれだけ大量発生したカエルみたいに至る所から聞こえていた声は、もう全く聞こえなくなっていた。



”強すぎw w w w w“

”また新たな最強技がw w w“

”こんなに巨大なモンスターが大挙して押し寄せてくるなんて初めてだからどうなるかと思ったけどやっぱり神木は神木だったわ“

”ま、一度倒したことあるモンスターだから多少はね…?“

”神・十字斬りカッコ良すぎるだろ……眠っていた厨二心がくすぐられるんだが…“

”切り抜き師しっかり切り抜いとけよ“

”ここめっちゃ切り抜かれそう“

“切り抜き4”

“神・十字斬りクリップして拡散しとくわw w w”

“やっぱ八十尺様の死体めっちゃグロいな。画面越しじゃわからないけどめっちゃ臭そう”



「なんかいっぱいいたんで、神斬りの合わせ技で倒してみました……一応新技ってことになるんですか?」



俺としては新技っていうよりも、ただ単に神斬りを2回連続して使っただけなのだが……まぁ視聴者が完全に新技発明されたw w wみたいな流れなの

で乗っかっておくことにした。


同接が鰻登りに増えていくのを横目に、適当にコメントを拾いながら視聴者と会話をしていたら、いつの間にかダンジョンによる死体回収作業が終わっていた。



「それじゃあ先に進みます」



同接は今現在、250万人を突破して256万人となっている。


これまでの深層配信とは比べ物にならないペースで同接が増えていっていた。


やはり未攻略ダンジョンをソロで攻略するというインパクトは世間的に相当大きなものだったらしい。


ここまでこれば、通信障害などで配信が落ちたりしない限り、300万人の大台を突破出来るだろう。


過去最高の配信になることは今の時点で確定したも同然だった。



(なんか強いモンスター出てこないかなー…)



これまでの傾向から、強いモンスターとの戦闘時に同接が一気に伸びることが明らかになっている。


俺はこのままさらに勢いに拍車をかけるために、新種の深層モンスターが出てきてくれることを願いながらダンジョン探索を再開させるのだった。



= = = = = = = = = =


「おっとと…」


未攻略ダンジョン深層第三層を、俺は慎重に進んでく。


階層の壁、天井と地面には、先ほど俺が放った神斬りの十字斬りの影響で、大きく亀裂が走っている。


ダンジョンには修復機能があるが、神斬りの威力が強すぎてすぐには亀裂は修復されない。


俺は何度も足元にできた深い裂け目に落ちそうになりながら、ダンジョンの通路を進んでいく。



テケテケテケテケ……



「ん?」



それは唐突だった。


前方からものすごいスピードでこちらに迫ってくる気配を感じた。


あまりにも軽く感じる不気味な足音と主に、そいつはどんどん距離を詰めてくる。



「何かきます…!多分1匹です!!」



俺に対して向けられた殺気を感じ取り、俺は敵のモンスターだと認識し、片手剣を抜いた。



テケテケテケテケ……!



「…!」


暗闇の向こうから、何かがこちらに向かって近づいてきた。


そいつは、地面を這うようにしてものすごいスピードで接近してきて、俺に飛びかかってくる。


俺はグッと集中して遅い時間の中で、そのモンスターの正体を確認する。



「半身の……女?」



そいつは、髪に覆われて顔が見えない半身の女だった。


どういうわけか上半身だけで動いており、2本の手を足のように使って動き回っている。


その右手の爪は、まるで釜のように鋭く長く伸びており、まさに俺の腰の部分……上半身と下半身の境目を狙って、攻撃を繰り出そうとしていた。



「おっと」


咄嗟に俺は片手剣で、半身の女の攻撃をガードした。



ギィン!!!!


凄まじい金属音と共に火花が飛び散る。



テケテケテケテケ……



半身の女は、俺に攻撃を防がれると、一瞬空中で驚愕の形のその口もをと歪めたが、すぐに俺を通り過ぎてそのまま背後の暗闇へと消えていった。



“ファッ!?”

“何!?”

“今なんか通った!?”

“何がおこった!?”

“なんか映ったぞ!?”

“なんか通り過ぎていった!?”

“見えない攻撃!?”

“なんかいたぞ今”

“一瞬なんかやばいものを見たきが…”

”やばいやばいやばい……今配信巻き戻して映像確認したんだけど…“

”やべぇ…俺も配信巻き戻しちまった…“

”見なければよかった…“

”過去一ホラーなんだが…“

”おいお前ら絶対に配信巻き戻して確認するなよ?絶対だぞ?“

”配信巻き戻してめっちゃ後悔してます“

”え…何?みんなどうしたの?“

”そんなん言われたら配信遡りたくなっちゃうじゃん…“

“怖い……けど好奇心に勝てない…”



視聴者は、その半身の女のあまりのスピードに一回の映像じゃ視認できなかったようだ。


配信を遡り、映像を止めてしっかりと確認した視聴者たちが、やめておけばよかったとチャット欄に書き込んでいる。


そんなコメントが視聴者の好奇心をくすぐり、どんどんみんなが配信を遡って何が通り過ぎていったのか映像を確認し、恐怖して「怖い怖い」と書き込んでいる。



「この階層はひょっとしてそういう感じか…?」



この階層に足を踏み入れた時点で不気味な雰囲気は漂っていた。


俺は、半身の女が通り過ぎていった背後を振り返る。



テケテケテケテケ……



「来るな」



どうやら諦めて逃げていったわけじゃないらしい。


あの足音……いや、手音がまたものすごい勢いで俺の元へ近づいてきつつあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る