第191話


「また来ます」


半身の女のモンスターの気配がものすごい勢いでこちらに近づいてくる。


俺は片手剣を構えて眼前の暗闇を見据えた。



テケテケテケテケ……!!



「お?」


それまで真っ直ぐに俺の方へ突っ込んできていた半身の女は、突然ジャンプして壁を移動し始めた。


手が気持ち悪いぐらいに早く動き、まるで地面を走るように難なく壁を移動しながらこちらに突っ込んでくる。



テケテケテケテケ…!!


「おっと」


ギィン!!!


またしても釜のように尖った右手によるなんの捻りもない攻撃だ。


俺は片手剣で難なくガードする。


威力はそれなりだ。


当たれば、なんの訓練もしていない生身の人間の体ぐらいだったらそのまま引き裂けるだろう。


スピードも決して遅くはない。


だが、斬撃が発生するほどの威力ではないし、今の所俺にとって脅威にはならない。



(2回も待ってみたけど……もしかして特殊能力なしか?)



一度目も、そして二度目も攻撃を防いだ後に反撃することはできた。


だが、それで戦いが終わってしまってはつまらないし、何より深層モンスターであるからには何かしらの特殊能力を持っているかもしれないので、

俺は出方を見ていたのだ。


だが、この半身の女のモンスターは一向になんらかの特殊能力を発動する気配もなければ、攻撃もワンパターンだ。



テケテケテケテケ……



俺に攻撃を伏せがれた半身の女は、またしても空中で一瞬驚愕の表情を浮かべた後、そのまま俺の背後へと通り過ぎていってしまった。



「何がしたいんだ?」



俺は半身の女が去っていった方の暗闇を見つめて首を傾げる。



“はっっっっっや”

“こっっっっっっわ”

”テケテケだぁああああああ“

”動き怖すぎw w w“

”マジでよく防いでるな…“

”速すぎて画面止めないと見えないんだが…“

”こんなのもいるのかよ深層…マジで魔境じゃん…“

”防げなかったら体が真っ二つになって自分もテケテケになっちゃう感じ?“

”みんながホラーホラー言うから配信遡って画面止めてみたけどどうみてもテケテケです本当にありがとうございます“

”怖すぎ…“

“動きが完全にホラーなんよな…”

”八十尺様よりこいつのが苦手だわ俺…“

“大将なら勝てるんだろうけど……怖すぎて心配になるな…”

“やっぱ深層のモンスターは化け物じみているなぁ…”

“神木;;俺怖いよ;;”

“大将;;怖くて震えてます;;”

”昼間の配信で良かったー^^“

”夜だったらトイレに行けなくなってたわ^^“



俺がもしもうこれ以上攻撃にレパートリーがないんだったら、配信映えもしないし倒してしまおうかと迷っている一方で、チャット欄では視聴者達が怖い怖いと盛り上がっている。


視聴者的には、この半身の女の手で地面を叩くようにしながら移動する様が、人外極まっていて恐怖を感じるらしい。


八十尺様より苦手。


過去一ホラー。


昼間の配信で良かった。


などといったコメントも目立つ。


また、怖い怖いなんて言いながらも怖いもの見たさなのか、同接の勢も若干加速している。



「今の所なんかすれ違いざまに攻撃してくるだけなんで,次で倒せそうなら倒します」



俺は流石にここまでの雑魚に時間を使っても仕方がないと思ったので、次の攻撃で何も特殊能力の発動がなければこのモンスターを倒してしまおうと思った。



テケテケテケテケ……!!!



やがて半身の女の気配が暗闇の向こうから迫ってくる。


俺は今度こそ何らかの能力が発動するかもしれないと身構えたのだが、結局そんな気配もなく、半身の女は懲りずに前方から突っ込んでいた。



テケテケテケテケ……



「もういいって」



俺は突っ込んでいてジャンプし、鎌の右手で俺の腰のあたりを攻撃しようとしてきた半身の女の左手を掴んだ。



『……!?』



”ファッ!?“

”捕まえたw w w w w“

”キャッチしたったw w w w“

”えぇええええ!?!?“

”すげええええええええええええ!?!?“

”うわ、近くで見るとマジでこわっ!?“

”アップで写さないで;;“

”めっちゃ怖い;;“

”近くで見るとめっちゃホラー;;“

”まさかの捕まえたw w w w w“




完全にキャッチされた半身の女が、明らかに驚いたような表情を見せる。


髪の毛の隙間から、黒く塗りつぶされたような目がチラリと一瞬覗いた。



(なんかマスコットキャラみたいで可愛いな…)


俺がそんな感想を抱く中、完全にキャッチされた半身の女はつんざくような悲鳴をあげて暴れ出した。



『ぎぇええええええええ!?!?』



ビシュシュシュシュシュシュ!!!!



左手を使う俺に対して、半身の女が至近距離から鋭い右手で切り裂こうと振り回してくる。



「ほいほいほいほい」



俺はそんな半身の女の攻撃を、子供をあしらうようにして避ける。


早いけど、俺にとってはこの距離でも避けられないほどの速度じゃない。


それにこっちは左手を掴んでいるため、ちょっと左手の方を引いてやるだけでリーチが変わって簡単に避けられるんだよな。



『ぎぇええええええええ!?!?』



ビシュシュシュシュシュシュ!!!



半身の女はジタバタと暴れ、ついに左手を掴んでくる俺の右手を攻撃しようとしてくる。


「おっと」



俺は寸前で左手を解放してやり攻撃を避けてから、そのまま注意浮いている半身の女を蹴り飛ばした。



『ぎぇえ!?』



半身の女が吹っ飛ばされて地面に転がる。



俺はそんなモンスターを見下ろしながらいった。



「本当に何も能力を持っていないのか?」



『…!?』



「ほら、待ってやるから見せてみろ。お前の真価を」



『…ッ!?』



「さあ、早く。ほら…」



『……ッ』



バッ!!!



「あっ、おい逃げんなや」



せっかく何か秘めているかもしれない特殊能力の発動を待ってやったと言うのに半身の女は次の瞬間踵を返してダンジョンの奥へと逃げ始めた。


俺は慌てて追いかける。



「どこに行くつもりだ?」



『……!?!?』



爆速で距離をとる半身の女に並走する。


半身の女は、まさか追いつかれると思ってなかったのか、口をあんぐりと開けて俺をみている。



「そろそろ時間も無くなってきたから、来ないんだったらこっちから行くが?」



俺は今の所見せ場なしのこの半身の女に最後のチャンスを与える。



『ぎぇえええええ!!!』



半身の女はヤケクソになたのか、咆哮しながら俺に飛びかかってきた。



「やっぱ能力とかないんだ」



がっかりした俺は、半身の女の右手による攻撃を身を逸らして避けて、そのまま回転の力でその首元を切り裂いた。



斬ッ!!!



『ぎ……』



空中で半身の女の首と胴体が別れ、それぞれ時間差で地面に落ちた。

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