第192話
「何だったんだこいつ…」
俺はダンジョンの地面に飲み込まれていく半身の女のモンスターの死体を眺める。
スピードはあった。
深層モンスターに見劣りしないほどの機動力を有していた。
だが、それだけだ。
多少見た目が怖いため、視聴者達は盛り上がっていたが、蓋を開けてみれば、武器は速さだけであり、何らかの特殊能力があるわけでもなかった。
ここまで出てきた新種の深層モンスターと比べてみるとどうしても見劣りしてしまう。
「なんか…はい。倒しました」
俺は若干拍子抜けしながらも、視聴者に討伐報告を行う。
“ファーーーーーw w w w w”
“まさかの追いついて倒したw w w”
“並んで走っててわろたw w w”
“いやお前強すぎわろたw w w”
“シンプルに神木がつよいw”
“足早すぎだろw w w”
“やっぱスピードでも神木の方が上だったなw”
“お前の足が早すぎて全然何が起きているのかわからなかったけど、倒したことだけはわかったよ^^”
“神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!”
“めっちゃ怖かった;;倒してくれて良かった;;”
“見た目だけだったな”
“神木が強すぎただけで一般人とか、生半可な探索者がこいつに出会ったら、何もできずに胴体真っ二つにされて終わりだろうな”
“大将が殺されて仲間になっちゃわなくて良かった;;”
“よーーーーーーーし”
“怖かったけど倒せて良かったわ”
“正直動きとかキモくて過去一本能的な恐怖を感じた”
“神木、お前ってお化けとか怖くないの?”
“大将は怖い系、平気な感じなんだ”
なんだかんだこのモンスターに恐怖を感じていたらしい視聴者は、俺の討伐を祝ってくれた。
俺としてはこいつの強さは、深層領域の常連……キングスライムやリザードマン、レイスなどと言ったモンスターと対して強さは変わらなかったのだが、視聴者はその見た目の不気味さと動きの変則さから勝手に強敵だと錯覚して盛り上がってくれたようだ。
(実際の強さだけじゃなくて、モンスターの見た目とかも大事ってことか…)
俺はただ単に強いモンスターと戦うだけじゃなくて、見た目が派手だったり怖かったりするモンスターでも視聴者は喜んでくれることを学んだ。
“相手にとってはむしろ神木はホラーだっただろうな”
“並走してる時テケテケめっちゃビビり散らかしてたな”
“配信遡ってみたらめっちゃ「何だこいつ!?」みたいな顔してたわ”
“そろそろモンスターにとって神木が恐怖の象徴とかになってもいい頃だわ”
“深層探索だとこういうホラー系のモンスターに出会えていいね”
”なんかB級ホラー映画でもみているような気分になってきたわw神木もモンスターも人外すぎてw“
¥10,000
大将討伐ナイスです。ご祝儀置いときます。
¥30,000
ちょっと早いけど先にスパチャしておくぜ大将。この後の攻略も頑張ってくれや。
¥20,000
約束された神枠こと神木の深層配信。
もうすでに名場面生まれまくってめちゃくちゃ満たされてるけど、ダンジョン踏破目指して頑張ってくれ。
¥40,000
大将、今日も神木拓也最強お疲れ様です。質問なんですが、大将はホラー系とか得意な方ですか。今のモンスター、大将的には簡単だったかもしれないけど自分はめちゃくちゃ怖かったです。とりあえず四万円ここに置いときます
「あ、スパチャもたくさんありがとうございます」
今回の深層ソロ配信も未知半ばというところまできた。
ちょうど間が空いたのを見計らって視聴者たがたくさんスパチャを投げてくれる。
最近、俺の配信ではスパチャが飛ぶ時は必ずと言っていいほど一万円以上の赤スパ限定になる。
俺は別にお金はいくらでも嬉しいのだが、視聴者の間の暗黙の了解で、神木拓也の配信にスパチャをする時は必ず赤スパにしろ、みたいな空気が流れている。
スパチャは120円程度の少額からすることができるのだが、小さい額を投げすぎると、俺の視聴者が「神木の配信の価値がその程度だと言いたいのか」「120円は草」「そんな少額今の神木に投げる意味もないよ」とその視聴者を叩き始めるのだ。
その結果、少額のスパチャがほとんど飛ばなくなり、投げられるスパチャのほとんどが赤スパになってしまった。
今まで毎日500円ずつ投げてくれていた視聴者たちも、その暗黙のルールが形成され始めてから1ヶ月分をまとめて一万円以上で投げる、などの工夫をするようになってしまった。
別に俺からしたらまとめて投げようが、毎日少額を投げてくれようが、あまり変わらないので気にしていないのだが、俺の視聴者は何かと理由をつけて視聴者同士ですぐに喧嘩し始めるのだ。
まぁその喧嘩自体もこのコミュニティのノリみたいになりつつある。
しかし、このままだと少ないお小遣いからスパチャしてくれる学生とかが萎縮しかねないため、俺は近々少額スパチャを叩く視聴者向けに「240円を舐めんじゃねぇよ」という動画を投稿するつもりだ。
現代日本において240でどれだけの贅沢ができるのか、業務用スーパーなどで食材をなどを買って視聴者に知らしめ、少額のスパチャでも価値があることを啓蒙しようと思っている。
…まぁ、それはさておき。
「ホラー系は苦手ではないですね…得意でもないと思うんですけど…」
たくさんいただいた赤スパの中に、大将はホラー系は得意なのか、という質問があった。
おそらく俺が、見た目が不気味なモンスターと相対してもあまり怖がらないからだろう。
「別に全く怖くないわけじゃないんですよ?ただ……なんていうか、ホラー映画に出てくるお化けとかそんなに強くないっていうか……みてて普通に勝てそうだなって思っちゃうんですよね……」
”w w w w w“
”草“
”いや草“
“確かにw”
”確かにお前なら勝てそうw“
”そりゃそうだわw“
”神木ならではの理由だったわw“
”やっぱこいつイカれてんなw”
“わろたw w w”
“納得の理由だったw”
「ホラーだけじゃなくてサスペンス系のドラマとか推理ドラマとかにも言えることだと思うんですけど……イカれた殺人鬼が襲ってくるシーンとか、連続殺人犯が次の犠牲者を不意打ちするシーンとか……あー、俺なら多分簡単に反応できるな、とか、俺なら寝ている時に襲われても死なないだろうな、とか考えちゃうんですよね…そうするともうその映画とかドラマを楽しめなくなるというか……これって探索者あるあるですよね?」
“ねーよ”
“お前だけだわ”
“それお前だけです”
“大将だけです^^”
“えー、あなただけです”
“神木あるあるです”
“一般人ないない、神木あるあるです”
“それあなただけです、神木さん”
”確かに、こいつに勝てそうな創作上の人物ってなかなか思いつかないわ“
”大抵のバトル漫画のキャラも正直こいつより弱いからな“
”最近とある将棋棋士が創作場のキャラに現実で勝ってたけど……マジでお前も大概だよ神木“
”探索者ですが、そんなこと考えたこと一度もあり
ません^^“
「うーん、だめか…」
共感してもらえると思ったのだが、視聴者の反応は突き放すような冷たいものだった。
どうやらみんな、映画やドラマを見るときは自分と登場人物を完全に切り離して、楽しむことができるらしい。
俺はそこまで器用なことが出来ないので、なかなか楽しめるドラマとかが限られてくるのだ。
「ま、雑談はこのぐらいにして先に進みますね」
一通りスパチャを読み、コメントを拾った俺は、ダンジョン探索を再開する。
同接は現在290万人を突破しており、後少しで300万人の大台に乗りそうだ。
(伸びの勢いもまだまだ衰えていない……本当にこれ、400万、500万の大台を狙えるかもな…)
俺は時間が許す限りこの未攻略ダンジョン深層ソロ探索配信を続けて、まだ見ぬ高みを目指したい、なんて考えながら深層第三層の奥へと向かって進んでいった。
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新作ラブコメの
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