第193話


結局その後、俺は一度もモンスターと遭遇することなく深層第三層を踏破してしまった。


不気味なこの階層に出てきたモンスターは、レイス、大量の八十尺様、そしてあの半身の女のモンスター三種類のみだった。


「見た目が怖いやつばっかりだったな…」


その割には攻略は簡単だったけど、と俺は心の中でつぶやいた。


実際に口に出すと萎えるからな。


俺は深層配信においてはできる限り、ギリギリの戦い、一歩間違えば死ぬかもしれないという空気感を維持したかった。



“まぁ明らかに不気味な雰囲気漂ってたしな最初っから”

“もう第三層踏破かよw w w”

“ここまでマジで危なげなくきてるな”

”流石に順調すぎやしませんか?“

”スムーズに進みすぎてここが未攻略ダンジョンだと言うことを忘れそうになる“

”これもう神木一人で、政府が全力で組織したダンジョン攻略部隊以上の戦力があるだろw w w“

”人間兵器定期“

”同接えっっっっぐw w w“

”同接300万人超えたやん。おめ“

”神木マジで配信始めてくれてありがとな“

”これ、真剣に未攻略ダンジョンソロ踏破見えてきたぞ……“

”もし本当に未攻略ダンジョンが高校生一人によって踏破されたら日本のダンジョン探索史変わるぞまじで…“

”もし今回本当に一人で踏破したら、歴史の教科書に神木の名前載りそう“

”まぁしばらくはお祭り騒ぎやろうな、ネットもテレビも含めて“

”いよいよ神木の名前が世界に轟くぞ“

“歴史の教科書に載るかはともかく、日本のダンジョン探索史が続く限り語り継がれる伝説になるのは間違いないよな”



同接は現時点で300万人を突破した。


チャット欄では視聴者が早くも俺がこのダンジョンを一人で踏破した時のことについて話し合っている。


流石に早すぎないかと俺も思うが、それだけ期待が大きいと言うことだろう。


もちろん俺だって今日のうちにこのダンジョンを

踏破するつもりだし、自信がある。


今の所命を危険を感じる深層モンスターにも出会っていない。


今回の探索は、これまで同様事前の情報収集なしで挑んでいるため、一体どこからが未攻略でどこまでは人の足が入ったことがあるのか、俺は知らない。


もしかしたら俺はもうすでに前人未到の領域に踏み込んでいるかもしれないし、まだ過去に探索者が踏み入ったことがある領域内にいるのかもしれない。


ともかく、俺がすべきことはどのような深層モンスターが出てこようともそれらを倒し、このダンジョンを踏破して最高のエンターテイメントを視聴者に届けることだ。


もし本当に今日俺がソロで今ダンジョンを踏破したら、視聴者も言うように、日本のダンジョン史に確実に刻まれるであろう異形達成となるはずだ。


そうなれば、ますます俺の名前も語り継がれていき、視聴者も増えるだろう。




全てはこのチャンネルの成長のために。



「それじゃあ、第四層に潜っていきたいと思います」



俺は必ずこのダンジョンをソロで踏破すると言う覚悟を胸に、深層第四層へと踏み込んでいった。



= = = = = = = = = =



『ヴォガァアアアアアアアアアア!!!』



「…ッ!!」



最初のエンカウントは深層第四層に足を踏み入れてから5分とたたずに起こった。



『ヴォォオオオオオオオ!!!』



低い咆哮がダンジョンに轟く。


鉤爪が、尻尾が、鋭く生え揃った牙が、俺を捉えようと次々に迫ってくる。


ドラゴン。


俺は深層第四層に足を踏み入れてから十分とたたずに、深層モンスター最強格の一種、竜種と対峙していた。



『ヴォォオオオオオオ!!!』



「ドラゴンが出てきました!!!交戦します!!!」


俺は片手剣を抜き、臨戦体制になる。


目の前にいるドラゴンは、今まで一度も見たことのない新種のドラゴンだった。



鉤爪、翼、牙、尻尾、鱗などと言った特徴は今まで戦ってきた竜種と共通している。


一つ決定的な違いがあるとすれば、そのドラゴンの全身からは、まるで死体から漂うような腐臭が発せられていることだった。



『ヴォガアアアアアアアアアアア!!!』



「う……」



ドラゴンが大口を開けて咆哮するたびに、吐きそうになるような匂いが押し寄せてくる。


ドラゴンの瞳は真っ白で濁っており、何も写していないように見える。


俺にはまるで腐ったドラゴンの死体が、息を吹き返して動いているように見えてならなかった。



“ドラゴンきたああああああああ”

“うおおおおおおおおおおおおお”

“ついにきたあああああああああああ”

“どりゃあああああああああああああ”

“出たああああああああああああ”

”ドラゴンだぁああああああああああ“

”でっっっっっっっか“

”強そう“

”これは深層最強格“

”めっちゃ強そう“

“新種のドラゴンか”

“ワクワクしてきたぁあああああああ”

“頼むから神斬り一発で終わるとかやめてくれよ?がっかりさせないでくれよ?“

”盛り上がってきましたあああああああ“

”いけえええええ神木ぃいいいいいい“

”ぶっ飛ばせぇえええええええ“



深層最強格、竜種の登場に視聴者は盛り上がりまくっている。


いいよなお前らは、映像だけで匂いとかは伝わってないから。


一度嗅がせてみたいもんだ、この臭すぎる匂いを。


俺は漂う腐臭に顔を顰め、思わずそんなことを考えながら、この新種のドラゴンと対峙した。


死体のドラゴン…そうだな名付けるならアンデットドラゴンといったところか。



『ヴォガァアアアアアアアアア!!!』



「臭いなぁ!!!……ああ、もう。とりあえず斬撃から!!!」



斬斬斬ッ!!!



俺は吐きたくなるような腐臭を我慢して戦わなくてはならない現状に対する苛立ちを込めて、ちょっと強目の斬撃を数発飛ばした。



ザクザクザク!!!!



『ヴォガァオオオオオオオオ!?!?』



斬撃は確かにアンデットドラゴンのでかい図体を捉えて、その巨体を一瞬よろめかせた。



『ヴォォオオオ……』



「ま、そうだよな」



しかし当然のことながら致命傷には至らない。


俺の放った斬撃は、その全身を覆う鱗に傷をつけたが、しかしアンデットドラゴンはまるで痛みを感じていないと言うように俺へと向かって再度進行してくる。



「ちょっとずつギアを上げていくのは手間だし……お前臭すぎるから、ごめんだけど序盤から使うわ……神斬り」



斬撃の威力を少しずつ上げていくのも面倒だと考えて、俺は速攻で神斬りを使った。


決して断っておくが、これはあまりの臭さに配信の盛り上がりよりもとにかくこの戦闘を終わらせたいという欲求に負けたとかそう言うことではない。



斬ッ!!!



横にはなった神斬りが、世界を上下に分けた。



『ヴォ……』


『……』


そして神斬りに首元を捉えられたアンデットドラゴンの頭部が、胴体から切り離されて地面に落ちる。



『『……』』



しばしの沈黙がダンジョンに舞い降りた。


その直後。



『ヴォォオオオオオオ!!!!』



『……ッ!……ッ!!!!!』



「ふぁっ!?」



次の瞬間目のお前で起こった現象に,俺はまるで自分の視聴者のような驚き方をしてしまった。


ドラゴンは再生したわけでも、絶命したわけでもなかった。



「いや、それは新しいな……」



首と胴体が完全に分かれたドラゴンは……頭部と体がそれぞれ別の生き物のように動き出していた。




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