第218話


神木軍と渦巻きナルドの本格的な戦闘が始まった。


パパパパパパパパ!!!!


拠点の中で装備を整えながら、渦巻きナルドは聞こえてきた銃声にほくそ笑んだ。


「やってるやってる……日本人どもがタレットにバカみたいに突っ込んでるぞ…」


渦巻きナルドの拠点は、柵で囲まれ容易には侵入でいない作りになっており、さらに柵に少しでも近づこうとすれば自動掃射武器であるタレットが発動する。


仮に拠点の前の柵を壊そうと敵が近づいてもタレットが無数に弾を発射して仕留めにくるのでまずはタレットの場所を特定し破壊する必要があるという、二十の防御体制になっているのだ。


ほとんどが裸の兵士で構成されている神木拓也の軍隊は、タレットの前にひとたまりもないだろう。


柵に近づいたものからどんどん仕留められ死んでいっているはずだ。


「どれ、様子を見にいくか…」


銃火器で全身を固めた渦巻きナルドは、拠点の中を移動し,最も高い塔へと登った。


その塔からは、拠点の全体いや周囲の地形を高所から見渡すことが出来た。


塔へと登った渦巻きナルドは、眼下を見下ろし、拠点の周りを取り囲んでいる神木拓也の軍勢を見下ろした。


「ははははは、めちゃくちゃ死んでいるじゃないか!!!」


そこではまさに,裸の神木拓也の兵士たちがなすすべなくやられている最中だった。


柵を壊そうとして近づいた裸で防御力の低い神木拓也の兵士たちは、自動で発射されるタレットの弾にやられてバタバタと死んでいっている。


柵の周りにはすでに無数の死体の山が築かれており、死屍累々といった様相を呈していた。


「いいぞいいぞ!そのまま馬鹿みたいに突っ込ん

で死んでいけ!!数だけが取り柄の日本人どもめ!!!」


渦巻きナルドは興奮して高笑いする。


2度も数だけの軍勢に押しつぶされ、死亡に追いや

られたことで募った苛立ちが、解消されていくような気分だった。


「さて……さらに上から火力を叩き込んで蹂躙してやるか…」


馬鹿みたいに柵に突っ込み、タレットに殺されていっている神木拓也の軍勢を見下ろし、渦巻きナルドはロケットを構えた。


そしてなるべく密集しているところを狙って早速ロケットを発射する。


バシュウゥウウウウウウウ!!!


ドガァアアアアアアアアアアアン!!!


「ははははははははは!!!ザマァ見ろ!」


煙を上げて飛んでいったロケット弾が神木軍のど

真ん中に命中した。


轟音と共に巨大な爆発が起こり、一気に十人近い裸の兵士が吹っ飛ばされて死亡する。


「まだまだいくぞ!!!今まで溜め込んだ火力、全部お前らに食らわせてやるよ!」


渦巻きナルドが二発目のロケット弾を装填しようとしたその次の瞬間だった。


バァアアアアアアアアン!!!


ザシュ!!!!


「何!?」


突如、銃声が鳴り響き、画面が真っ赤に染まった。


ヘッドショットを喰らった。


渦巻きナルドは一瞬遅れてそう気づいた。


「くっ」


二発目を撃たれる前に急いでしゃがんで身を隠す。


そして身を隠しながら眼下を覗けるように作ったわずかな隙間から自分に向けてスナイパー弾を発射した人物を確認する。


「やっぱりお前か!!!ダンジョンサムライのクソ野郎!!!」


馬に乗り、背後から戦場を俯瞰している神木拓也の持っているスナイパーライフルから煙が上がっていた。


どうやらまたしても神木拓也にヘッドショットを喰らわされたらしいとわかり、渦巻きナルドは憤慨する。


「くそが!!!あいつこのゲーム結構やりこんでやがんのか!?よくこの距離をヘッドショット出来たな!!さっきのはまぐれじゃなかったのか!?」


この距離を確実にヘッドショットで射抜いてくるには相当な熟練度が必要になる。


渦巻きナルドはどうやら神木拓也が、ただ単に大勢の視聴者を連れているだけの裸の王様などではなく、しっかりとした実力を兼ね備えたプレイヤーであると認識した。


本当はただ単に対深層モンスター用の技を無理やりゲームに落とし込んで実力をカサ増ししているだけなのだが、もちろん渦巻きナルドは築くよしもなかった。


「はっ…いいだろう。顔を出すのはもうやめにしよう」


渦巻きナルドは素直に神木拓也の実力を認め、これ以上顔を出すのはやめておくことにした。


どのみち自分がわざわざここからロケット弾を放ったりしなくとも、神木拓也の軍勢はタレットの前に無防備であり、攻め込めない結果は変わらないと思った。


「だったら馬鹿みたいにタレットに突っ込んでじわじわ数を減らしていくといい」


渦巻きナルドは回復アイテムを使い、ヘッドショットのダメージから立ち直りながら、神木拓也の軍勢が無惨にもタレットに虐殺されていく様を大人しく眺めておくことにした。


「ははは、死んでる死んでる。学ばない奴らだなぁ…まずはタレットをどうにかしないと何も出来ないと言うのに……今からでも拠点に帰ってロケットの弾でも作った方がいいんじゃないか?ええ?」


タレットの前に無力な神木軍を、塔の上から見下ろして渦巻きナルドは笑っていたが、しかし、段々とその笑顔が曇り始めた。


「なぜだ…?これだけ死んでいるのに…数が減らないぞ…?」


柵の周りにはすでにタレットによって殺された神木軍の死体が無数に積み上がっていた。


数で言えば、もうすでに元いた神木軍を半分以上は殺していてもおかしくないぐらいだった。


にも関わらず、神木軍の数も勢いも衰えるところを知らない。


それどころかむしろ時間を増すごとに、神木軍の数も勢いもどんどん増していっているように渦巻きナルドには感じられた。


「なぜだ!?こんなに殺しているのに!?」


バァンと渦巻きナルドは今日何度目になるかわからない台パンをする。


タレットの弾は相変わらず神木軍に向けて自動掃射されており、裸の神木軍の兵士たちはなすすべなく死体に変わっているのに、それを上回る速さで各地から新たな神木軍の兵士たちが集まってきて突撃の列に加わっている。


おかげで、全く神木軍の数が減らず、むしろタレットの弾だけがどんどん消費されていく事態となっていた。


「冗談だろ…?」


これは流石に渦巻きナルドも予想外だった。


タレットがあれば、裸の神木軍などどうとでもなると思っていた。


だが、まさかこれだけ殺されても一向に数を減らさず、ひたすら突撃を繰り返してくるのは完全に想定外だった。


「まさか……今も新しいダンジョンサムライの視聴者が、早くここに駆けつけるために待機を…?」


普通のプレイヤーは、一度死ぬとデスペナルティをくらい、すぐにはリスポーンできない。


サーバーにエントリーするのには順番待ちがあり、一度死ぬと、サーバーが込んでいる間は、その順番待ちの一番後ろに並ばされるのだ。


これを回避して順番待ちをスキップするには、課金をしてプレミアムパスを購入する以外に方法がない。


「まさか……こいつら全員課金勢なのか?いや、そんなはずはない……どう見ても今突っ込んできている連中は素人だ…」


渦巻きナルドは一瞬神木の視聴者が全員課金者であり、死んだと同時にすぐに近くでリスポンしてもう一回ここに突撃しにきているのかと思ったが、しかしそれはないと首を振った。


タレットに突っ込んでいる連中は明らかに初心者であり、どう見てもゲームを始めたてのものたちに見える。


おそらく神木拓也が今日配信でこのゲームをプレイするからと言う理由でゲームをインストールしやり始めたものたちだろう。


そんな連中が、この配信のためだけにわざわざこのゲームに課金するはずもなく、リスポンで無限に蘇生することはあり得ない。


と言うことは一体どう言うことか。


「まさか……今このサーバーに順番待ちしているプレイヤーのほとんどがダンジョンサムライの視聴者なのか…?」


そうとしか考えられなかった。


それであれば、殺しても殺してもどんどん神木拓也の軍隊が補充されて一向に減らない現状に説明がつく。


「5,000人…いや、もしかしたら一万人以上……このゲームに参加しているプレイヤー以上の人数の視聴者が順番待ちをしているのか…」


渦巻きナルドは、ただ裸で自分の拠点に突っ込んで少しタレットの弾を減らし神木拓也の役に立ちたいというそれだけのために、一万人を超える視聴者がサーバーエントリーの順番待ちに並んでいる絵面を想像して思わずブルリと身震いした。


「しゅ、宗教なのか…こいつは…?」


渦巻きナルドはなんだか神木拓也の視聴者の盲目信者っぷりが怖くなってきた。


自分はもしかしてとんでもないコミュニティに喧嘩を売ってしまったのではないかと今更ながらにそんなことを思うようになっていた。


実を言うと、渦巻きナルドの予想は半分当たっており、半分間違っていた。


確かに彼が想像した通り、現在このサーバーのエントリーには一万人どころか数万人規模の神木拓也の視聴者が順番待ちをしていた。


だが、それだけではなく視聴者たちは、少しでも神木拓也の役に立ちたいと、一月千円以上もするこのゲームのプレミアムパスを購入し、ただ裸での特攻を敢行するために、ひたすら死んだ先から近くでのリスポンを繰り返していた。


たとえ今日この日のためだけにお金を払うことになったとしても、それが神木拓也のためなら彼らは一向に構わないと思っていた。 


彼らはただ自己主張もせず、神木に認知されることもなく、裸で無名の兵士として敵拠点のタレットのたまを数発減らすための突撃を敢行するというただそれだけの理由のためにお金を支払い、ひたすら死と蘇生を繰り返していた。


そしてプレミアムパスを購入した視聴者がひたすら死と生をループする中、さらに各地から新規の神木視聴者であるプレイヤーたちが続々と拠点の周りに集まってきていた。


「冗談だろ…!?このままだとタレットの弾が…」


タレットを壊すことなく、弾切れを狙って攻略するなんてこのゲームにおいて聞いたことがなかった。


膨大な数の視聴者を有しているが故の新たな戦法に、渦巻きナルドはなすすべがなく呆然とするしかなかった。


やがて……ついにその時がやってきた。


パパパパパパ………シン……


タレットの銃声が途切れた。


一向に減らない神木拓也の軍勢にひたすら弾を操車し続けたタレットは、ついに全ての残弾を吐き出してただの鉄の塊になったのだ。


ドドドドドドドドドド!!!!


タレットの弾が切れるや否や、すかさず神木拓也の軍勢が拠点を囲む柵まで殺到して、石や鍬などを使い、柵にダメージを刻み始めた。


ドンドンドンドンドン!!!!


ガンガンガンガンガンガン!!!!!



無数の打撃音と共に、ミシミシと柵から嫌な音が鳴り始める。



「オマイガァアアアアアアアアアアアアアアアア

アアア!?!?」



生存者に群がるゾンビのように柵に殺到してくる神木拓也に視聴者に、渦巻きナルドは頭を抱えて絶叫した。

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