第219話


「よーーーーーし、どんどんいけーー」


ドドドドドドドドドドド!!!!


神木軍の裸の軍勢たちが,死んでは蘇生して、死んでは蘇生してを繰り返し、タレットに突撃を敢行し続けたおかげでついにタレットが弾切れを起こした。


これで心置きなく柵の破壊に着手することができる。


俺の号令で水を得た魚のように柵に群がった神木軍が一斉に柵を破壊すべく、石や拳、岩などで殴打を開始する。


ガンガンガンガンガンガン!!!!


ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン!!!!


ドスドスドスドスドスドスドス!!!!


周囲に殴打音が響き渡り、みるみるうちに渦巻きナルドの拠点を囲む柵の耐久が減っていっていた。


「いける…これなら…」


「待ってろよ渦巻きナルド」


「拠点の中でふるえてんじゃねぇか!?」


「出てこいよ渦巻きナルド!!!」


俺の周りを護衛している視聴者が,そんなことを言って渦巻きナルドを煽る中、俺は先ほど渦巻きナルドが顔を出した塔を見上げた。


渦巻きナルドはもう顔を出してこない。


一度俺にヘッドショットで抜かれてから懲りて、出てこなくなってきてしまった。


「いいね、そのまま拠点の中に隠れておいてもらおうか」


実を言うと差し違える覚悟で顔を出して、爆発物を投げ込み、柵を壊そうとする神木軍の足を少しでも引っ張りにくる方がこちらとしては厄介なのだが、そう何度も殺されるのは癪に触るのか、渦巻きナルドは出てこなかった。


ガンガンガンガンガンガン!!!!


ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン!!!!


ドスドスドスドスドスドスドス!!!!


そしてその間にも、マップの各地から集まってきた神木軍がもはや完全に半円の形の柵の周りを囲み、柵の至る所に石や拳で小さいダメージを蓄積させていっている。


これだけ大規模に破壊を行えば、修復は不可能だろう。


このゲームには、破壊された瞬間に再度柵を一瞬で建築するというような技もあるんはあるのだが、それができるのは柵の壊れた箇所が一箇所のみの場合だけだ。


半円の柵のあちこちに一斉にダメージを与え、至る所を破壊すれば、たとえ渦巻きナルドが拠点の外に出てきて柵を壊された先から修復しようとしても、間に合わせることは不可能だろう。


「ゆっくり待つか…」


柵が壊れるのは時間の問題だ。


俺は周りを武装したプレイヤーで固めてもらい、柵が壊れるのをじっくり待つことにした。


やがて……


ガシャァアアアアアアアアアアアン!!!!


凄まじい破壊音とともに、ついに柵が崩壊した。


本来なら破壊には多数の爆発物を必要とする拠点防衛用の策なのだが、これだけの人数がいれば、石や殴りによる小さなダメージでも破壊可能らしい。



“どりゃああああああああああああああ”

“きたあああああああああああああああ”

“いけええええええええええええええ”

“うおおおおおおおおおおおおおおおお”

“よーーーーーーーーーーーーし”

”よーーーーーーし“

”よーーーーーーーーーーーーーーーーし“

”キタキタキタキタああああああああ“

”突っ込めぇええええええええええええ“

“柵が壊れたぞぉおおおおおおおおお”

“全軍突撃ぃいいいいいいいいいいい”

“神木軍全軍突撃だぁあああああああああ”



とうとう拠点を守る障害物がなくなったことで、拠点本体への攻撃が可能になった。


配信では視聴者たちが大盛り上がりしており,チャット欄がまるで炎上したかのようにものすごい勢いで流れている。


同接も95万人まで増えており、本当に100万人の大台が見えてきた。



「よし、全軍突撃!!!」


俺は容赦なく突撃の指示を出す。


ドドドドドドドドドドド!!!


柵の破壊された箇所から、視聴者たちが一斉に拠点の中に傾れ込む。


「俺たちも行きましょう、大将」


「大将、入り口を開けるために爆発物が必要です、俺たちも行きましょう」


「そうだな」


俺は周りの取り巻きたちと一緒に、後から視聴者についていって拠点の中へ入った。


あっという間に拠点の中は俺と視聴者で埋め尽くされてしまった。



「大将、入り口のロックを爆発物で破壊しましょう」


「ここまで取っておいた爆発物をここで使うべきです」


「拠点の外壁は鋼鉄で作られてるみたいです。素手で壊すのはなかなかきついので、取っておいた爆発物を使いましょう」


「了解。君たちに任せるよ」



ここへきてずっと裸の神木軍の突撃を傍観していた俺の取り巻きの視聴者たちが、前にで始めた。


彼らはおそらくこのゲームをかなり理解している熟練のプレイヤーたちであり、俺に献上されなかった武器や爆発物は全て彼らの元に集まっていた。


どうやら彼らは、あまりこのゲームを理解していない視聴者が勝手に爆発物を浪費したりするのを防ぐために、今まで自分のアイテムボックスに爆発物を保管しておいたらしい。


柵を破壊した後、鋼鉄で固められた入り口を破壊するのに絶対に爆発物が必要になるとあらかじめ予想していたようだ。



「頼んだ、入り口を破壊してくれ」


「了解です!」


「おいお前ら!!!入り口を破壊するから一旦退いてくれ!!」


「裸の奴らどいてくれ!!入り口に爆発物使うぞ!!!」



”有能“

”こいつら有能“

“有能すぎ‘

”これは有能“

“賢い”

“頭いい”

“有能神木視聴者”

“熟練者いいね”

”これは有能と言わざるを得ない“

“ぐう有能”

“使えるわ”

”こいつら使えるわ“

“やるやん”

“この時のために爆発物とっておいたのか、いいね”

“よし、拠点の入り口壊せ。一気に傾れ込むぞ”



有能、使える、とコメント欄でこのゲーム理解度の高いプレイヤーたちが褒められる中、彼らは裸の兵士たちに道を開けさせ、入り口の近くまで行き、手榴弾などの爆発物をそこに置いた。



「爆発するぞ!!!!」


「近づくな、爆発するぞ!!!」


彼らがボイスチャットで全体にそう警告した直後。



ドォオオオオオオオンン!!!


バァアアアアアアアアン!!!!!



扉の前に置いた手榴弾が爆発した。


凄まじい轟音と共に、渦巻きナルドの拠点の入り口を固める鋼鉄の扉に黒い焦げ跡がつく。


「ダメージは?」


「確認してくる」


熟練のプレイヤーたちが互いにコミュニケーションをとり、鋼鉄の扉のダメージを確認する。



「今ので大体6割ぐらい削れた」


「オッケー。じゃあロケット五発ぐらいか?」


「五発じゃ無理。六発ならいけると思う」


「了解」


何やらダメージを計算しているらしく、必要になる爆発物の数を互いに伝え合っているらしい。



俺やその他の素人視聴者が何もできずに見守っている中、彼らはテキパキとロケットとその弾を違いで交換しあって全員がロケット弾を装填したランチャーを構えた。



「打て!!!」



バシュシュシュシュシュゥウウウウウ!!!



何発ものロケット弾が同時に鋼鉄の扉に向けて発射された。



ドガァアアアアアアアアアアアン!!!!


爆発。


煙がもくもくとたって視界が一瞬悪くなる。


「よし」


「やった」


「大将、扉の破壊完了しました」


「大将これで中に入れます!!」


「おお!!!」



煙が晴れると、そこには完全に破壊された鋼鉄の扉が鉄屑になって地面に転がっていた。


「よくやった!!!それじゃあ中に入るぞ!!」



興奮した俺が真っ先に拠点の中へ足を踏みれようとすると、途端に神木軍の兵士たちが俺の目の前に立ち塞がった。



「ちょっと待ってください大将」


「大将が先行するのは危険です」


「多分拠点の中には罠とかがいっぱいあると思います」


「まずは俺たちが入ります」


「大将、俺たちを人柱にしてください」


「俺たちがまず入ってみて大丈夫なら大将が入ってください」


「お、おう…」


絶対に俺を死なせまいとする強い意志を感じ取り、俺はとりあえず拠点に先に入るのは彼らに任せることにした。


裸の神木軍たちが、壊れた入り口から拠点の中へと足を踏み入れ、その背後から俺は熟練のプレイヤーたちに囲まれ護衛されながら恐る恐る拠点の中へと足を踏み入れるのだった。



= = = = = = = = = =



「オーマイガ…オーマイガ…」


タレットの弾が切れた後、拠点を守るための柵は破壊され、神木軍がついに拠点の中へと侵入してきた。


渦巻きナルドがどうしていいかわからずに頭を抱える中、爆発音が数回立て続けになり、拠点がぐらぐらと揺れた。


おそらく入り口の鋼鉄の扉を爆発物で破壊しているのだろう。


すぐに神木軍による拠点内部への侵攻が始まるはずだ。


「だ、大丈夫だ…まだ罠がある……侵入されたとき用の罠が…」


渦巻きナルドはすがるようにそういった。


ゾロゾロゾロゾロ……


「ひぃ!?」


階下から無数の足音が聞こえてくる。


足音はものすごい勢いで最上階にいる渦巻きナルドの元へと迫ってきていた。


どうやらすでに無数の神木軍が建物の内部に入り込んでいるらしかった。


渦巻きナルドは出窓から恐る恐る眼下を確認する。


「オーマイガァアアアアアアア!?!?」


拠点へと群がった無数の裸の兵士たちが、入り口から拠点の中へとどんどん殺到する光景が目に入った。


まるで生存者のいる建物に我先に群がろうとするゾンビのようだった。


「罠は…?」


渦巻きナルドはキルログに目をうつす。


たくさんの日本語のプレイヤー名がそこに表示されるが、一向に神木拓也の名前は現れない。


おそらく裸の兵士たちを使って罠を踏ませ、場所を特定し、破壊しながら確実に進んでいっているのだろう。


これだけの数のプレイヤーたちを前に、せいぜい数人のクランによる侵入を想定した罠など、全く意味をなさなかった。


「ドントカム!!!ゲットアウトヒア!!オウ、プリーズ…ジーザス…」


キルログに次々に日本人プレイヤーの名前が並び、足音はどんどん渦巻きナルドの隠れている階まで近づいてきていた。


渦巻きナルドはもはや手遅れであることを自覚し、最上階の部屋の隅にお守りのように武器を構えたままうずくまって震えることしかできなかった。

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