第217話


ドドドドドドド!!!!


無数の足音が周囲を蹂躙し、何千もの神木軍兵士たちが渦巻きナルドの拠点に突っ込んでいく。


彼らのほとんどは武器も持っていない裸の兵士たちだ。


途中の拠点をレイドし、そこから強奪してきた防具や武具を身につけているのはおそらくこのゲームを前にやったことがあるプレイヤーたちだろう。


彼らの方は少し後ろの方で、様子見をするように突撃していく裸の兵士たちを眺めていく。


渦巻きナルドの拠点は、頑丈な柵で囲まれていた。


この柵を壊すには本来、ロケット弾や手榴弾などの爆発物が必要なのだが、現状神木軍にはそういった爆発物が足りていない。


だが、俺はそこに関しては数でなんとかなると思っていた。


神木軍はこうしている間にもマップの至る所から、どんどん集まってきており、時間ごとに数を増やしている。


みんなで小さいダメージでもいいから柵に蓄積させていけば、俺はこれだけの装備の薄い状態でも渦巻きナルドの拠点を攻略可能だと考えていた。


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!!


ドンドンドンドンドンドンドンドン!!!



とうとう神木軍の裸の兵士たちが渦巻きナルドの拠点まで辿り着いた。


彼らは拠点を囲む半円の柵を早速石で叩き始める。



次の瞬間……


パパパパパパパパパパパパパパ!!!!



ザシュザシュザシュザシュザシュ!!!



突然銃声が鳴り響き、一番最前列にいた裸の神木軍の兵士たちがバタバタと倒れていった。


俺は拠点の中を見てみるが、リスポンしたはずの渦巻きナルドは未だ姿を見せていない。



「タレットか」


おそらく自動掃射のタレットが反応して弾丸を発砲したのだろう。


裸の状態で銃弾を喰らった兵士たちが、バタバタと倒れて死んでいく。



「大将!タレットがあるみたいです!」


「柵に近づくと反応して撃ってくるみたいです!」


「大将!とりあえず高台に登ってタレットを破壊しましょう!」



このゲームの勝手を知っている視聴者たちがそんなことを提案してくる。



「そうだな……このまま何もしないと撃たれるだけだしな…」


パパパパパパパパパパ!!!!!


タレットから弾は発射され続けている。


柵に近づいた視聴者は、なすすべなく狩られて死んでいくが、それでも律儀に突撃を続けている。


このまま一方的に裸の兵士たちが殺されていくのを見ているわけにもいかず、俺たち武器を持ったプレイヤーたちは高台にのぼり、タレットが見える位置までやってきた。



「大将見えますか、タレットの位置はあそことあそこと…それからあそこです…」


「地味ですが、こっちから弾をうってタレットにダメージを入れていきましょう!」



「そうだな」



武器を持っている神木軍の兵士たちと一緒に高台に登った俺は、渦巻きナルドの拠点のタレットの位置を特定し、スナイパーライフルで少しずつダ

メージを刻み始めた。


カァン!カァン!!カァン!!!


動かないタレットにひたすらスナイパー弾を打ち込み、弾は弾かれるものの、ダメージを少しずつ刻んでいく。


「地味だな…もっと他に方法はないのか…」



呑気に小さいダメージをタレットに刻んでいる間にも、裸の視聴者たちはどんどん死んでいっていた。



「本来ならロケット弾があればいけるんですけど…」


「タレット破壊にはロケット弾が有効なんですけど…」


「そうだよな…まぁしゃーない。このまま地道にやっていこう」



ロケット弾などの爆発物があれば、タレットを破壊できるのだが、現状俺たちにはそういった爆発物が足りていない。


このまま地道にやり続ける以外に方法はないだろう。



「しかしあれだな……全然人数が尽きないな…」



渦巻きナルドの攻略を開始してすでに20分ほどが経過している。


柵の周りには結構な数の死体の山が築かれていたが、しかし神木軍は全く減ったようには見えなかった。



「どんどん集まってきますね…」


「死んだやつも近くでリスポンしてまた戻ってきているみたいです」


「なるほど…」



どうやら一度死んでしまったプレイヤーも、近くにリスポン拠点を設置してまた裸の突撃を敢行するためにここまで戻ってきているらしかった。


結局、死体は増えるが神木軍の総数は変わらず、渦巻きナルドの拠点のタレットはどんどんその弾を消費させていく。



「このままいけば、タレットの弾が尽きそうですね…」


「裸の奴らにひたすらリスポンと突撃をやらせ続けましょう。そうすれば、タレットの弾が尽きて柵の破壊に集中できそうです」


「すげえな…こんなタレットの攻略方法見たことないぞ…」



このゲームの玄人っぽい視聴者が、柵の周りに積み上がった死体と弾がつきそうなタレットを見てドン引きしていた。



まぁこのゲームは多くても十人以内の人数でクランを組んでレイドしたり防衛したりするゲームだからな。


おそらくタレットを弾を枯らして無効にするなんてやり方で突破しようとしているのは、俺たちが初めてなんじゃないだろうか。



「いいぞみんな!!このまま突撃とリスポンのループを繰り返してくれ!!タレットの弾が尽きれば、柵の破壊に着手できるぞ!!」



俺がそんな号令をかけると、裸の兵士たちが一層勢いを増して突撃を敢行し出した。


またマップのあちこちから、新規の兵士が、リスポンしたプレイヤーたちが続々と集まってきて、神木軍はこれだけタレットに殺されているにも関わらず、むしろ総数が時間とともにどんどん増えていた。



「明らかにサーバーの許容人数超えてるよな…?なんでいけてるんだろ?まぁいいや」



どう見ても神木軍の人数だけでこのサーバーの許容人数を超えており、ゲームが重くなったり、クラッシュしたりしてもおかしくないのだが、なぜかゲームは最初のヌルヌルの動きをいまだに保っていた。


よくわからないが俺にとっては好都合だ。


俺はこのまま渦巻きナルドの拠点のタレットの弾を枯らして、柵の破壊に着手し、その後はいよいよ拠点内部へと攻め入るつもりだった。



ドガァアアアアアアアアアン!!!



「ファッ!?」


突如として柵の周りに積み上がっていた神木軍の死体が吹き飛んだ。



「大将!渦巻きナルドです!!」


「大将敵が出てきたみたいです!」


「あそこです!渦巻きナルドが姿を見せました、大将!」



俺が驚き慌てふためく中、周りのプレイヤーたちが拠点の最も高い塔のてっぺんを指差した。



「あそこか!!」



そこにロケットランチャーを構えた渦巻きナルドの姿が見えた。


どうやら拠点の内部から俺たちに向けて一方的に高火力を叩き込むつもりらしい。



バシュゥウウウウウ!!!


ドガァアアアアアアアアアアン!!!


二発目のロケットが発射、着弾。


裸の神木軍たちが一気に数十名吹き飛び、死亡する。



「させるかよ」



俺は集中状態に入り、スナイパーライフルを即座に構えて渦巻きナルドの頭部を狙って発射した。



バァアアアアアアアン!!!



バシュ!!!



放たれた弾は渦巻きナルドの頭部を捉えて大ダメージを与える。


渦巻きナルドは防具を身に纏っているため、一発で殺すことはできないが、それでも妨害にはなる。


いったんその姿が塔の向こう側に引っ込んで見えなくなった。



「流石です大将!」


「す、すげぇ…当たった…」


「ナイスです大将!」


「おそらく回復していると思います!」



周りにいる兵士たちがそんなことを言ってくる。


俺は塔の向こう側に姿を隠した渦巻きナルドに注意を払いながら、未だ突撃を敢行している裸の兵士たちを見た。



「タレットの弾が尽きかけているな」



タレットから発射される弾は、随分まばらになっていた。


おそらくもうすぐで弾切れを起こすだろう。


柵の周りには神木軍の死体が山のように積み重なっていた。


おそらくタレットに千人以上が殺されたのではないだろうか。


だがそれだけの数死んでも神木軍の数も勢いも全く衰えるどころか、どんどん時間と共に増していっていた。



「いいぞ、いいぞ…このままどんどんいけ、お前ら!!!」



俺は順調に拠点攻略が進んでいっていることに思わず頬を歪めた。



「お?」


「あ」


「きた!」


「タレットの」


「弾が尽きた…!」



そしてついにその時がやってきた。


これまで柵に近づいた途端に撃たれて死んでいた裸の兵士たちが、なんの問題もなく柵に張り付くことが出来るようになっていた。


ついにタレットの弾が尽きたのだ。



俺は早速神木軍全軍に、柵の破壊に着手するように指示を出す。



「よしみんな!!!タレットの弾が尽きたみたいだ!!!一気に柵を破壊して中に攻めむぞ!!!」



“うおおおおおおおおおおおおおお”

“きたああああああああああああああ”

“弾切れだぁあああああああああああ”

“いけえええええええええええええええ”

”柵を壊せぇえええええええええええ“

”ぶっ壊せぇえええええええええええ“

”どりゃあああああああああああああ“

”やああああああああああああああああ“

“神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!“

”神木軍全軍突撃ぃいいいいいいいいい“

“神木拓也万歳!神木拓也万歳!神木拓也万歳!”




ガンガンガンガンガンガンガンガン!!!

ドンドンドンドンドンドンドンドン!!!



俺の号令で一斉に神木軍たちが柵に張り付き、石や棒を使って破壊作業に着手する。


殴打音が周囲を支配し、大人数の手によって柵に着実にダメージが刻まれていく。



「行けますね!!」


「これなら!」


「待ってろよ渦巻きナルド!」


「きっと今頃あいつ、拠点の中で震えてますよ」



俺は周りの味方のそんな声を聞きながら配信に目を移す。


チャット欄は大いに盛り上がり、同接も80万人に達していた。



(これは渦巻きナルドを倒すときには100万人超えるかもな…)



俺はもしゲーム配信で100万人を超える同接を叩き出せばとんでもない快挙だなと考えながら、柵が破壊されるその時を待つのだった。

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