第210話


ラストというゲームは、簡単にいうと大人数でやるサバイバルゲームのようなものだ。


参加者は大きな島のどこかにリスポーンし、素材を集め武器を作り、拠点を建築する。


サバイバルの基盤が整ったら、次に武器を持って敵の拠点を奪いにいく。


この行為はゲーム内でレイドと呼ばれている。


武器は尖った石や、ナイフ、機関銃、ロケットとさまざまであり、乗り物も馬や船、果てはヘリコプターなんてものもある。


生き残りをかけて戦ったり、じっくり建築したり、とにかくいろんな要素が詰め込まれた人気ゲームだ。


俺がこのゲームを今回選んだのには、そのようないろんなことが出来る配信映えするゲーム性に加えて、このゲームが視聴者参加型の配信に適しているからだ。


サーバーによっては千人以上のプレイヤーが同時に同じ島でプレイすることも出来るラストなら、たくさんの視聴者と一度に触れ合うことが出来ると考えたのだ。


(自分を普段見ている視聴者がどういう人たちなのか、ちょっと気になるしな…)


俺はチラリと同接に目を移す。


現在の同接は、32万人。


最近のメインチャンネルの勢いもあって、このゲームチャンネルにおける配信でもこの同接である。


当たり前だが、この32万人は一人一人が血の通った人間なのだ。


ずっとインターネットで配信ばかりして数字の増減だけを見ているとたまにそのことを忘れそうになる。


だが、視聴者は一人一人が別々の考えを持った紛れもない人間なのであり、そのことを実感するのには視聴者参加型などを通して、自分の視聴者がどういうパーソナリティーなのかを把握することが近道となる。


…そういうかんがえもあって俺は今回ゲーム配信をするのに、このラストというサバイバルゲームを選んだのだ。



“ラストきたあああああああああ”

“よっしゃああああああああああああ”

“神ゲーきたああああああああああああ”

“視聴者参加型きたあああああああ”

“神回確定!”

“うおおおおおおお!ゲームの中とはいえ神木に会える!!!”

“神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!”

“お前ら絶対に大将を守るぞ!!!”

“大将!俺のことは弾除けの肉壁だと思ってくれていいからな!!!”

“神木視聴者の団結力見せるぞぉおおおおおおおおおお!!!”

“お前らあんまりでしゃばりすぎんなよ!?”

“自己主張444444”



ラストというゲームを配信すると告げると途端にチャット欄が盛り上がり始めた。


初めての視聴者参加型の配信に、視聴者たちは大いに盛り上がっている。



(たまにはこういうのもいいよな…)



視聴者と馴れ合いすぎるとそれはそれで逆につまらない配信になってしまったりするのだが、たまに視聴者と触れ合うのはやはり活動者としては重要なことだろう。


ダンジョン配信だとなかなかそういうことができないぶん、ゲーム配信をやる時ぐらいは、視聴者と協力して何かやりたいと俺は思っていた。



「それじゃあ、ラストやっていきます……サーバーは……一番大人数のところにしますか…」



ゲームを開始する。


まずはサーバー選びからだ。


俺は視聴者がたくさん入ってきても大丈夫なように、三千人が一度にプレイできるめちゃくちゃ大きなサーバーを選んだ。


これならたくさんの俺の視聴者が、ゲームに参加

して一緒に楽しむことが出来るだろう。



「それじゃあ、このサーバーに入ります。ラストやったことある人はどんどん入ってきてくださいね」



俺はそう言いながら、サーバーを選択し、いよいよゲームをスタートさせる。



「お?浜辺でスタートか…」



スポンした場所は地図の端っこ、浜辺だった。


周りには海と砂浜、そしてヤシの実などがある。



「まずは石を拾って……素材集めからだな……」



サバイバルゲームといってもいきなり武器を持って敵と戦うわけじゃない。


このゲームでは敵と戦うための武器すら自分の手で一から作らなければならないのだ。


そのために、まずは手近にある石を拾い上げて、木を切っていく必要がある。


また、体力ゲージは放っておくとどんどん減っていくため、食料の確保もしなくてはならない。



「ヤシの木を切り落とすか…」



俺は拾った石で近くに生えているヤシの木を切り

倒す作業に取り掛かる。


ヤシの木は、拠点や武器を作るための素材になるし、やしの実は体力回復のための食糧になるため一石二鳥だ。


「よーし、一時間以内に簡易的な拠点を完成させるぞ…」



何をするにも、敵から身を守るための拠点が必要だ。


どんなに小さくてもいいから、敵から守ってくれる拠点を築かなければ、資材を集めたり、武器を作ったりしても全て盗まれ、強奪されてしまう。


そうならないために、俺は意気揚々と拠点作成に

取り掛かる。



「うわっ!?びっくりした!?」



ヤシの木をほとんど切り倒し、背後を振り返ると、キャラクターが十人ほど俺の方を見ていた。


いつの間に敵が!?と一瞬焦ったのだが、裸の状態の十人のキャラはじっと俺を見つめるだけで攻撃してきたりはしない。



「お、お前ら…え、もしかして視聴者?」



コクコクコク。



約10人が首をカクカクさせて肯定する。




「早くない…?」



ブンブンブン……



首を振って否定。



「え、あ……じゃあ、一緒に拠点作ってくれる?」



コクコクコク……



首を縦に振り、肯定。



「じゃあ……えっと、一緒に拠点作るか……って、早っ!?」



俺が拠点づくりの手助けを頼むと、10人は、まるで上司の命令を忠実な部下のように黙々と作業に取り掛かり始めた。



「これは……すぐに拠点できちゃいそうだな……」



俺の場所の特定が早かっただけあって、どうやらこの10人はそれなりにラストについて理解度のあるプレイヤーらしい。


いわれずとも何をすればいいのかわかっているらしく、役割分担までいつの間にかして、各自黙々と拠点作成にとりかかっている。



「頼もしいなぁ…じゃあ、俺も一緒に……って、うおっ!?なんかめっちゃきてる…!?」



10人の仕事ぶりを眺めていた俺が、その中に加わろうとしたその時だ。


向こうのほうからたくさんのプレイヤーがこちらへ向かって進んできていることに気がついた。


ものすごい数だ。


白い砂浜をプレイヤーのデフォルトの肌色である黒が埋め尽くしている。


一瞬敵が大軍で攻めてきたのかと思ったが、何も装備しておらず、裸のままこちらに俺めがけて向かってきているところを見ると、これも俺の視聴者たちらしい。



「お、お前ら……まさか全員俺の視聴者?」



コクコクコク……

コクコク……

コクコクコクコクコク……



「めっちゃ多くない…?ま、まさかこんなに来るとは……」



………。

……。

………………。

…。




「え、それじゃあ…みんなも拠点作りに参加してくれる…?」



コクコクコク……

コクコク……

コクコクコクコクコク……



了解だと言わんばかりに頷いている総勢100名を超える俺の視聴者たち。


俺が拠点づくりの参加を頼むと、忠実な僕の如く無言で作業に着手しはじえた。



「なんか怖いんだけど…だ、誰か何か喋ってよ…」



100名を超える視聴者たちが無言で拠点を作っている様は鬼気迫るものがあった。


このゲームには全体チャットも音声チャットもあり、その気になれば俺に話しかけることもできるのだが、誰一人として絡んでくることなく、黙々と作業をしている。



俺たちはただの神木の下僕。


いざとなれば、弾を防ぐための肉壁になるような存在。


自己主張する奴は去れ。


黙々と大将のためだけに行動せよ。



そう言わんばかりの視聴者の行動に、俺は呆気に取られて立ち尽くしてしまう。



“無言w w w”

“誰も喋らねぇw w w”

“統率が取れすぎているw w w”

“他の配信者の参加型だと絶対にだるい奴とか無駄に殺しにくるやつとか、小学生みたいなガキがしゃしゃり出てくるものなのにw”

“まぁ自己主張したら他の視聴者にリンチされるの目に見えてるからな”

“このコミュニティ怖すぎw w w”

“ボイチャ入れて神木に馴れ馴れしく話しかけようものなら殺されかねない雰囲気だなw”

“全員が黙々と神木のためだけに作業しているの軍隊感があっていいね”

“この人数で作業すれば、まじで数時間で巨大な拠点が築けそうだな”



「あ、くれるのね…てか、早くない…?もうクワできたの…?」

 

プレイヤーとして参加している視聴者の一人が、俺の元まで歩いてきて、献上品とばかりに作ったばかりのクワを差し出してくる。


クワは木を切ったりといった作業をしやすくするための大切な道具だ。 



「ありがとう」



俺が無言で御礼を言いうと、そのプレイヤーは俺の前で膝をつき、忠誠を誓うように首を垂れた後に、また作業へと戻っていった。 


「え、あ、みんなありがとう…」



俺が呆気に取られていると、次々に視聴者が寄ってきて、俺の元に作ったばかりの服や、どこからか連れてきた馬や、落としたヤシの実、木の実などを届けてくれる。


俺の周りには一人でやると30分以上は集めるのにかかりそうな物資があっという間に集められてしまった。



「みんなありがとー……何か俺することあるかな…?」



ブンブンブンブン……



黙々と作業していた視聴者たちが、一瞬こっちを向いて首を振った。


あなたはそこで休んでいてください。


俺らが全部やるんで。



そんな気迫を感じ、ごくりと唾を飲んだ俺は、とりあえず捧げられた服を着て、木のみを食べ、馬に乗った。



(俺はとんでもない視聴者を育ててしまったのかもしれない…)



自分の視聴者たちを末恐ろしく思いながら、俺はとりあえず偵察でも行こうかと走り出そうとした。



「うわ……まだまだくる…」


馬に乗って俺は砂浜を離れ、小高い丘に登った。


すると草原の向こう側から、たくさんの裸の集団がこちらへと向かってきていることに気がついた。


敵なら武器を装備しているだろうから、これも間違いなく俺の視聴者たちだろう。



「いや何人いるんだよ!?おおすぎだろ!?」



いくら視聴者参加型とはいえ、俺の視聴者は基本的にダンジョン配信の視聴者であるため、参加型のゲーム配信をしても、せいぜい参加してくるのは100名程度かと思った。


だが見積もりが甘かった。



「千人…いや、もっといるぞ!?どうなってんだ!?」



草原を黒で埋め尽くすほどの数の俺の視聴者。


サーバーの参加人数のほとんどが俺の視聴者なんじゃないかと思われるほどの規模である。


まさかダンジョン配信者の俺の参加型ゲーム配信にこんだけの人が集まるとは思わなかった。


続々と軍隊のようにして集めってくる視聴者たちに、俺は馬に乗ったまま呆気に取られてしまう。



と、その時だった。



「あ、あれ…?なんかラグい…?めっちゃゲームが重たくなってるぞ…?」



なんだかゲームの挙動が一瞬にして重たくなり始めたのだった。

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