第211話


アメリカの某所にあるサバイバルゲーム,ラストの開発拠点。


ゲームの開発者であり、現在運営も手がけている数名のアメリカ人が、モニターの前で呆気に取られたような顔を晒していた。


「な、なんだこの人数は!?一体どこからやって

きた!?」


「信じられない数の人間が一気に流れ込んでくるぞ……どこの国からだ!?」


「ジャパンだ!!!日本人たちが一斉にゲームサーバーに押し寄せてきているぞ…」


「なぜ日本人が…?」


ラストは今まで日本国内ではそこまで人気のあるゲームではなかった。


北米やヨーロッパ地域では根強い人気があったものの、日本にはまだ広まっておらずユーザーも非

常に少ない数で推移していた。


それが今日突然、1000人を超える数のユーザーが流れ込み、一つのサーバーを制圧しそうな勢いを見せている。


宣伝広告を打ったわけでもないのに、いきなりこんなことになり、開発者であるアメリカ人たちは大いに驚いていた。


「一体どういうことなんだ!?」


「なぜ今まで我々のゲームに見向きもしなかった日本人がこんなに大勢!?」


「宣伝なんて日本向けには打ってないぞ!?」


「何が起きているんだ!?」


混乱した開発者たちは、すぐにいきなり日本人がサーバー内に大量発生している理由を調べる。


そしてとあるダンジョン配信者が視聴者参加型の配信でこのゲームを始めたことが、大量の日本人の流入につながったのだと突き止めた。


「タクヤ…カミキ……聞いたことある名前だ…?なんだったっけな…?」


「あれじゃないか?例のダンジョンサムライと呼ばれているダンジョン探索者の…」


「ああ!!それだ…!!!動画を見たことがあるぞ…!!!まるでアニメのキャラクターのような動きをする日本人の探索者だ!」


「あのダンジョンサムライがまさか我々のゲームを始めたのか!?」


開発者たちは急いで神木のチャンネルに飛び、一体何が起きているのかを確認する。


「ど、同接45万人だと!?」


「信じられない!!!まさかゲーム配信をこれだけ多くの人間が見ているとは…」


「どうやら本物のダンジョンサムライのようだ

ね…」


「彼の視聴者が一斉に私たちのゲームをやり始め

たのが原因か…」


開発者たちは、神木のゲーム配信にあるまじき同接に驚くとともに、ひょんなことから巡ってきたまたとないチャンスに、全員で顔を見合わせる。


「これはまたとないチャンスだぞ…!」


「これをきっかけに日本で我々のゲームが広まっ

てくれれば…」


「ああ…!宣伝広告を打つよりも何倍も効果がある…」


「できるだけ彼に長くこのゲームをプレイしてもらおう…そのために、快適な環境を提供する必要がある…」


すでにダンジョンサムライこと神木拓也のいるサーバーは、あまりの人数の流入に耐えきれなくなり、重くなり始めていた。


開発者たちは、相談し、神木拓也がこのゲームをプレイしている間だけ、他のサーバーを落として、リソースを神木拓也がいるサーバーに割くことにした。


「すぐに彼のいるサーバーの許容人数を拡張するぞ…」


「5000人…いや、もっとだ。10000人以上が同時にプレイできる状態を作らなければ…」


「できるだけ長く彼にプレイしてもらうぞ!!」


「すでに何千人もの人間がサーバーに入れなくて待機しているみたいだ……すぐにサーバーを補強するんだ…!!!」


開発者たちは、このチャンスを逃す手はないと即座に行動を開始したのだった。



= = = = = = = = = =



「ボーリング…ディスゲームファッキンボーリング……」


渦巻きナルドは退屈していた。


彼はアメリカ人の引きこもりで、いわゆるナード

と呼ばれる種類の人間だった。


働きもせずに親の脛を齧り、一日自室にこもってゲームをする日々。


最近だとこのサバイバルゲーム、ラストにハマっており、プレイスキルはほとんどトップクラスと言っていいほどまでに極めていた。


これまでにいくつもの拠点を制圧し、レイドしてきた。


武器を奪い、敵を殺し、サーバー内をたった一人で荒らしに荒らし回っていた。


最初は、好き勝手に振る舞えるこのゲームが楽しかったのだが、最近彼は退屈していた。


このゲームを極めてしまった彼にとってもはや数人が作った拠点を攻略することなど容易いことだった。


彼はもっと大人数のプレイヤーたちを相手に戦いたいと思っていたが、なかなかこのゲームを10人以上で協力してやるプレイヤーはいない。


せいぜいが七、八人程度で、それくらいの人数が作った拠点を攻略することなど、廃ゲーマーの渦巻きナルドにとっては造作もないことだった。


「もっと強い奴は居ないのかよ…本当に退屈だ…

またfpsに戻るか…」


渦巻きナルドはそんなぼやきを漏らしながら、今日もラストを起動して、一人で小高い丘からちまちました敵の拠点を見下ろしていた。


「ワッツ…?ワットイズザット!?」


遠くに、黒い波のようなものを見た。


渦巻きナルドは一瞬限界まで酷使した目の写した錯覚だと思って目を擦ったのだが、しかしその黒い波は消えなかった。


渦巻きナルドはすぐに双眼鏡アイテムを取り出し

てその黒い波の正体を確認する。


「ホーリーファック!?オーマイガ!?なんだあの人数は!?」


波のように見えたそれは、人の大群だった。


今までこのゲームで見たこともないような大人数が、ある一方向へと向かって更新していた。


「バグなのか!?それともプレイヤーか!?確認してみるか!!!」


渦巻きナルドはすぐに拠点から馬を一頭連れてくると、その黒い波のように草原を埋め尽くしながら進んでいくプレイヤーの大群を追いかけた。


果たして彼らは、マップの端っこの砂浜に集まると、一斉に近くにあった木々などを切り倒し始めた。


あっという間に周りに木々がなくなり、一瞬にし

て大規模な拠点が建築されていく。


「オーマイガ…」


見たことのない光景にたちすくむ渦巻きナルドだったが、やがて彼らの中心に一人のプレイヤーがいることがわかった。


「あいつがボスなのか…?」


プレイヤーの大軍は信じられないほどよく統率されていて、その中心には一人の漢字名のプレイヤーがいた。


「あいつがトップか…?名前は漢字か…中国人なのか…?おそらく人気のインフルエンサーか何かだろう、調べてみるか…」


渦巻きナルドは、神木拓也の名前をコピペし、正体を調べる。


「ダンジョンサムライ!?こいつがそうなのか!?」


ネットで検索をかけたところ、この神木拓也という男が最近北米でも話題のダンジョン配信者であるダンジョンサムライだということがわかった。


ネットに入り浸っている渦巻きナルドは、ダンジョンサムライについて知っていて、モンスターと戦闘している動画なども見たことがあった。


翻訳チャンネルは、確か登録ボタンを押していたはずだ。


「なるほど…ダンジョンサムライがゲーム実況配信をしているのか…とすると周りの連中は視聴者だな……」


渦巻きナルドは、神木拓也のゲーム実況チャンネ

ルをすぐに見つけ、その同接の多さに驚く。


「同接40万人超え…凄まじい人気だな……しかし不気味なほどに統率が取れている……たまに配信者が視聴者引き連れてやってるのを見かけるが、こんなに統率が取れているコミュニティは見たことがないぞ…」


ラストには、たまに有名配信者が自らの視聴者を引き連れてやってくることがあったが、大抵そういう時は視聴者の統率が取れずに、混沌とした感じになるものだ。


数が多ければ、必ずその中にキッズみたいなくだらないことをする連中が出てきて、そいつのせいで皆の努力が台無しになったりするものなのだ。


だが、見たところ、これだけの人数がいるのに、神木拓也の視聴者の中には輪を乱しているプレイヤーが一人とて見当たらない。


渦巻きナルドは不気味さすら感じるその統率の取れ方に、思わず身震いしてしまうのだった。


「ん!?なんだ!?ゲームが重いぞ!?」


やがて突然画面がカクカクし出して、ゲームが重くなり出した。


「くそ!!こいつらのせいだ!!日本人のせいで重くなりやがっているぞ!!」


おそらくこのダンジョンサムライの視聴者が一気にこのサーバーに傾れ込んでいるせいだろう。


サーバーに負荷がかかり、ゲームが重くなり始めた。


「動けない…」


渦巻きナルドは固まった自分のキャラを見て、キーボードを連打する。


しばらく固まったまま全く動けない状態が続いていたが、しかし突如として解放されたようにゲームが軽くなった。


固まっていた神木拓也の視聴者たちも、若干戸惑ったような様子を見せつつも、拠点作成作業を再開している。


「サーバーが軽くなった…?運営が何かしたのか?まぁ、軽くなったのならよしとしよう…」



渦巻きナルドはペロリと唇を舐め、頬を歪めた。 

久しぶりに、彼の中に、このゲームを始めた時のような高揚感が戻ってきていた。


今まであのような大軍を相手にしたようなことがあっただろうか。


この機会を逃す手はない。


自分一人で、あのダンジョンサムライとその視聴者が作る拠点を攻略してみせる。


仮にできなくとも最大限に掻き乱して邪魔をしてやる。


「くくく…日本人ども……このゲームの真髄を教えてやるよ…」


渦巻きナルドはくつくつと笑い、自らの拠点へ戦うための武器をとりに戻っていくのだった。

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