第212話


「よし…手榴弾にナイフにマシンガン……武器はこのぐらいでいいな…」


渦巻きナルドは自らの拠点へと帰り、神木拓也とその軍勢を倒すための武器を装備していた。


拠点の中の武器庫には、彼が今までに敵拠点をレイドしたり自ら作ったりしたさまざまな武器がプールされていた。


「あいつらは大軍とはいえ、まだ武器は行き渡っていないはずだ……一人とはいえ、掻き乱すことは十分に出来る…」


先ほど見た神木拓也とその軍勢のほとんどが、まだ裸同然のプレイヤーだった。


彼らはまだこのサーバーにやってきたばかりで、高度な武器などは作成できていないらしい。


拠点を作るためのクワなどはすでにあるみたいだが、しかし作るのに時間のかかるマシンガンのような高度な武器は持っていたとしても少人数だろう。


渦巻きナルドは、今仕掛ければ、たった一人でもあの大軍を十分に相手にできると考えていた。


「よし…準備は整った…行くか…」


たくさんの武器によって武装した渦巻きナルドは、拠点を出てしっかりとロックをかけ、再び馬に乗って、神木拓也と視聴者たちが拠点を構築している浜辺へと戻ってきた。


「早いな…もう中規模の拠点が一つできたのか…やはりこれだけの人数で作業するとこれだけ早く拠点を構築できるのか…」


浜辺に戻ってみると、すでにそこには中規模の拠点のようなものが一つ完成していた。


よく統率された軍隊のようにテキパキと作業している神木拓也の視聴者たちは、あっという間に砂浜にたくさんの拠点を構築しつつあった。


「完全に向こうの拠点が完成して仕舞えば俺に勝ち目はない……仕掛けるなら今だ…」


渦巻きナルドは、神木拓也とその視聴者たちを見渡せる小高い丘に登った。


そしてそこで身を伏せて、スナイパーライフルを

構える。


「まずは統率者であるダンジョンサムライからだ……トップを失えば,一気に大混乱になるだろう……」


標準を合わせたのはもちろん、軍団の真ん中にいる神木拓也だった。


視聴者からたくさんの装備品や武器などをもらい、すでに一人だけ一級品の装備が整ってはいる。


しかし、スナイパーライフルを使えば、一発で仕留められるはずだ。


渦巻きナルドは、神木のキャラクターの頭に狙いを定める。


「死ね!!!ダンジョンサムライ!!!」


バァアアアアアアアン!!!!



スナイパーライフルが火を吹いた。


巨大な銃声と共に、一撃でプレイヤーを仕留める銃弾が一直線に棒立ちになっているダンジョンサムライの頭部めがけて疾走する。



ヒョイッ



「ワッツ!?!?」



まさにスナイパーライフルの銃弾が神木拓也の頭蓋を仕留めそうになっていたその瞬間、神木拓也がまるで弾道を知っていたかのようにいきなりヒョイッとしゃがんだ。


銃弾はハズれ、その背後にいた別のプレイヤーに命中した。



「なん…だと…?」



偶然しゃがんだのではない。


明らかに避ける挙動だった。


一体どうやってこちらの攻撃に勘付いた?


今のは完璧な不意打ちだったはずだ。


向こうは完全にこちらの存在には気づいていなかった。


ウォールハックでも使っていない限り、今の弾は避けることが不可能だったはずだ。



「チーター、なのか…?」



渦巻きナルドは神木拓也がウォールハックか何かのチートを使っているのではないかと疑った。


しかし神木拓也は、弾を避けた後、まるで狙撃手を探すかのように辺りをぐるぐるを見渡した。


飛んできた弾には気づいて避けたが、こちらの位置にはまだ気づいていないようだった。



「まさか…音を聞いて銃弾を避けたのか…?」



チーターでないのだとしたら可能性はそれぐらいしかなさそうだった。


現実では、銃声よりも銃弾の方が速いことがほとんどだが、このゲームではわずかに銃声の方が銃弾よりも早かったりする。


それでもほとんど差はなく、秒数にしてコンマ1秒未満だ。


これは距離などには影響せず、銃声の聞こえる範囲で一律でそうなっている。


なのでどれだけ距離が離れていようと、銃声と銃弾の到達には人間が感知できるほどの時間差はほぼないと言ってよく、音を聞いて銃弾を避けるなんて芸当は不可能なはずだ。



「ダンジョン探索者ってのは人間離れしたやつが多いと聞くが……さ、流石にそんなことはできないよな…?」



渦巻きナルドは一瞬本当に神木拓也がそんな人間離れした技をやってのけたのかと思ったが、しかし流石にダンジョン探索者といえども不可能だと思い直し、スナイパーライフルに二発目を装填しようとする。


その時だった。 



「大将!!!向こうの丘に敵がいます!!!スナイパーライフルを持っています!!!」



神木拓也の視聴者の一人が、渦巻きナルドのことを発見し、何事か叫んだ。


日本語だったので渦巻きナルドには意味がわからなかったが、しかしそれが、神木拓也に自分の存在を報告するものであったことは流石に理解できた。



「ホーリーシット!!まずいぞ!?」



ドドドドドドドド!!!



神木拓也の視聴者たちが、報告を聞いて一気にこちらに押し寄せてきた。


砂浜の白を埋め尽くすぐらいに密集し、まるで黒い津波のようにして渦巻きナルドのところまで迫ってくる。


 

「オーマイガアアアアアアアアア!?!?」


渦巻きナルドは絶叫し、スナイパーライフルを捨ててマシンガンに持ち替えた。



= = = = = = = = = =



「すげぇ…もう拠点できちゃったよ…」


地面を埋め尽くすほどの大群の視聴者体が浜辺に集合し、統率の取れた軍隊のように一斉に拠点作成に取り掛かる。


それぞれが役割分担をし、無駄のない動きでテキパキと動き、その結果、あっという間に中規模拠点が一つ出来上がってしまった。


一人で作ろうと思えば、徹夜で何日もかけないといけないような拠点が一時間未満で出来上がってしまったことに俺は驚き、しばらく唖然としていた。



「あ、ありがとう…どうも…」


そして相変わらず視聴者たちは、武器や装備を作った先から俺に貢ぎに来る。


おかげで俺は自分では何もしていないのに、まるで何日もやりこんでいないと手に入れられないような装備で身を固めることになった。



「これだけの人数がいれば、すぐにこのサーバーの敵拠点を全て制圧できそうだな……一瞬重かったけど、それも治ったし…」



先ほど、一瞬ゲームがかなり重くなり、ほとんど身動きができない状態が発生した。


一箇所に俺の視聴者が集まりすぎてサーバーに負荷がかかっているのかもしれないと心配したのだが、時間が経つと治ってまたぬるぬると動くようになっていた。


企画倒れにならなくてよかったと安渡しながら、俺は視聴者の仕事ぶりを見渡す。



「ん?」



不意にチリッと何か嫌な予感を感じ取った。


その直後、バァアアアアアン!という凄まじい銃声が聞こえてきたような気がした。




「おっと…やってしまった…」



反射的に俺は超集中状態に入ってしまう。


周囲の時間がほとんど止まり、1秒が10秒にも20秒にも拡大される。



「今の銃声?もしかして敵の…?とりあえず避ける挙動しておくか…」



このゲームでは銃弾よりも若干銃声の方がはやい。


もしかしたら敵からの攻撃かもしれないと思って、俺は念の為しゃがみのコマンドを入力しておく。

 

ヒョイッ!



超集中状態を解除した瞬間に、俺のキャラクターがしゃがんだ。



ビシュッ!!!!



次の瞬間、頭上を何かが通過していき、俺の背後にいた視聴者の一人に当たる。



「あ…」



裸だった視聴者が撃たれて倒れてしまった。



「なんかごめん…」



俺は謝りながら周囲を見渡す。 


やはり今のは敵の狙撃だった。


どこからか俺たちを狙っているものがいる。



「どこだ……?」



俺が銃弾が飛んできた角度などから、狙撃手の位置を割り出そうとしていると…



「大将!!!向こうの丘に敵がいます!!!スナイパーライフルを持っています!!!」



今まで終始無言だった視聴者の一人が、ボイチャを入れて、大声で警告してきた。


どうやら敵の位置を発見したらしい。


マップ上に敵の位置を示すためのレッドピンがマークされた。



「全軍とつげ……早っ!?」



敵の位置がわかったなら突撃あるのみだ。


装備はまだ整ってないとはいえ、この人数でかかれば怖いものなしだ。


そう思って俺が突撃指示を出そうとしたが、視聴者の方が動くのが早かった。



ドドドドドドドド!!!



まるで軍隊ありのように地面を埋め尽くし、無数の足音で周囲を蹂躙しながら、レッドピンのマークされた丘まで突撃していく。



丘の上で、これから悲惨な運命を迎えることになるであろう哀れなプレイヤー一名が、慌てたように立ち上がって武器を構え直しているのが見えた。

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