第209話


西園寺グレース百合亜はアメリカへと帰っていった。


俺たちは西園寺が帰国したことを朝のホームルームで突然告げられた。


皆かなり残念がっていたが、しかしあらかじめ短期留学であることを知っていたため、驚いているものはいなかった。


とりあえずクラスの委員長の案で、皆で少しずつお金を出し合って、お別れ会のできなかった西園寺に何か贈り物をしようということになった。


そうして俺の元に日常が戻ってきた。


俺が未攻略ダンジョンソロ攻略を成功させて、日本の探索史におそらく今後余程のことがない限りは塗り替えられないのではないかという記録を打ち立ててからしばらくは、学校中もお祭り騒ぎだったのだが、それも一週間もすればおさまる。


ネットの方は相変わらずあの時のことを話題にし、俺の名前や、配信にまつわるキーワードが急上昇に上がったりしていたが、しかし盛り上がりのピークは過ぎた印象だった。


未攻略ダンジョンソロ踏破配信を終えて二週間後、俺はというとしばらく配信を休み、ダンジョンにも潜らずちょっとした休暇をもらっていた。


久々に配信のない土日を過ごし、季節ものの服を

一緒に選んで欲しいという桐谷と買い物に出かけたり、新しいパソコンの部品を手に入れたいらしい祐介についていって有名電気街を訪れたりしていた。



= = = = = = = = = =



「そろそろいい加減配信するか」


週明け。


二週間配信を休んだ俺は、そろそろ配信に復帰してもいいような気分になってきた。


視聴者もそろそろなんでもいいから配信している俺を見たいだろうし、そんな声がSNSなどの投稿にも多い。


『神木そろそろ配信して;;』


『ゆっくり休んで欲しいけど神木の配信がない

日々が辛すぎる;;』


『神木……そろそろ……頼む……退屈で死にそうだ…』


『神木の配信がないだけで一日が長く感じる……』


エゴサするとそんな投稿ばかりが引っ掛かるようになってきた。


どうやら俺の配信に飢えてきている視聴者が多いようだった。


また俺の視聴者が、俺のいない間に他のダンジョン配信者たちの配信に大挙して訪れて、荒らしているという噂もある。


少し目を離すとすぐにこれだ。


俺はとりあえずこれ以上俺の視聴者が暴走して悪名が広まらないように、自分の配信に視聴者たちを隔離しておくことにした。



“今日配信します。

ダンジョン配信ではないです。

家で何か配信しようと思います。”



いいね 10万 リツイート8万


返信


 :よっしゃああああああああ

 :きたああああああああああああ

 :座して待つ

 :座して待つ

 :座して待ちます

 :座して待つわ

 :神木おかえり

 :待ってた

 :ここ二週間お前の代わりの配信者見つけようとしたけど見つからなかったお;;

 :神木が休んだことでマジで神木の配信が唯一無二なのがよくわかったわ

 :座待

 :マジでありがとう;;

 :そろそろ退屈で死にそうだったから配信ありがたい…



学校からの帰り道、今日配信に復帰することを呟くと、ものすごい数のいいねとりついーと、それから返信が帰ってきた。


俺は俺の配信を待ち遠しく思ってくれていた視聴者が多いことにありがたみを感じながらも、一部のお行儀の悪い視聴者にお灸を据えておく。




“俺のいない間に色々悪さした奴らがいたみたいだな!!

それでどんどん腫れ物みたいになっていくのは俺なんだが…?

お願いですから他の配信者に迷惑をかけるのはやめてください。”



返信


 :あ

 :あ

 :バレてた…

 :ごめん…

 :だから言ったやんお前ら…

 :ごめん大将;;

 :大将が配信しないから…

 :神木が俺たちを配信に隔離しておかないのが悪い^^

 :大将ごめん;;

 :俺は荒らしてないぞ!お行儀よく待ってたぞ!

 :お前ら神木に迷惑かけんなよ…

 :しゃーない。神木界隈の規模が大きくなりすぎた。先鋭化する連中はどの界隈にもおるやろ

 :神木ファン増えたからなぁ…頭おかしい連中もそれだけ多くなるよな…

 :まぁでも同接増えて喜んでた奴らもいたし多少はね?

 :同接は増えるかもしれんが、神木語録連投でチャット欄荒らされたらたまったもんじゃないだろ…



「いや、神木語録連投って…そんなことしてたのか…」



俺が素行の悪い視聴者にお灸を据えるつぶやきをすると、返信欄で「一部の神木視聴者が他の配信者のチャット欄に神木語録を連投して荒らしていた」と書かれていた。



「ったくこいつらは……これからは迂闊に配信を休んでもいられないな…」



俺の視聴者は熱狂的すぎるが故に、俺の配信に隔離しておかなくてはならないことをよく理解できた。


俺はため息を吐いて、家へと向かう足を早める。



= = = = = = = = = =



「うわ……こっちのチャンネルもめっちゃ登録者増えてる…」



ダンジョン配信を行なっている俺のメインチャンネルの登録者は現在1000万人を超えている。


もちろんこれは未攻略ダンジョンソロ踏破配信のおかげであり、あの配信の二日後に行なった振り返り雑談配信の配信中に登録者一千万人をすでに超えていた。


それからも勢いは多少落ちつつも俺のチャンネルは伸び続け、現在登録者は1150万人となっている。


日本でもつーべの登録者が1000万人を超えている活動者は片手で数えるほどしかいない。


配信者の価値は決して登録者の数では決まらないとはいえ、普通にすごいことである事実は変わりない。


耐久配信の際には視聴者に登録者解除からの再登録などをされて散々弄ばれたが、それはそれとして普通に1000万人達成は嬉しいし、視聴者に感謝もしているので、何かしら後日記念の企画をやろうと思っている。


それは今は傍に置いておくとして、だ。



「すげーな……メインチャンネルの余波がこんなところにまで…」



420万人。


俺が現在見ている画面にそんな数字が表示されている。


これが何かというと、俺のゲーム実況チャンネルの登録者である。


以前に思いつきで作り、一度だけゲーム配信をした時のチャンネル。


ダンジョン配信者の俺のゲームチャンネルは、なぜか一日で100万人登録者を達成した後、その後もじわじわ伸び続け、未攻略ダンジョンソロ踏破配信の影響で一気に伸びが加速し、現在登録者は420万人となっている。




「これ……普通に日本の名だたるゲーム実況者の登録者超えてるよな……」



どうしてダンジョン配信者の俺のゲーム実況チャンネルがこんなに伸びてしまっているのだろう。


意外と俺のゲーム実況配信、求められていたりするのか。


そんなことを思いながら、俺はゲーム実況チャンネルの方で配信を開始する。



「こんにちはー……今日はこっちの方で配信始めていきたいと思いまーす…」



“やあ”

“やあ”

”やあ“

”やああああああああああああ“

”きたあああああああああああああ“

“うおおおおおおおおおおおおおおお”

“どりゃあああああああああああ”

“やあ”

“やあ”

“やあやあやあやあやあやあ”

”神木おかえり“

”待ってたよ“

“おかえり神木”

“大将おかえりなさい”

“待ってましたぜ大将”

“久々の神木拓也の配信;;嬉しいお;;



配信開始ボタンを押すと同時に視聴者がどんどん流れ込んでくる。


すでにこのチャンネルで配信を始めた時点で多くの視聴者が察していることと思うが、俺は改めて宣言する。



「今日は久しぶりにゲーム配信していきたいと思います……なんかこっちのチャンネルも気がつかないうちに伸びていたみたいで……本当にありがとうございます…これからも本業のダンジョン配信に影響しない程度に動かしていけたらなと……」



”ゲーム配信きたああああああああ“

”よっしゃああああああああああああ“

”うおおおおおおおおおおお“

”大将のゲーム配信好き“

”どりゃあああああああああああ“

”また無双するの?“

”まーた環境破壊するのか“

“今度こそ視聴者参加型やれ”

“なんのゲームするの?”

“正直雑談配信よりもゲーム配信のが好きだわ”

“ゲーム配信供給助かる”

“もちろんダンジョン配信が一番好きだけど神木の配信ならなんでもええで”



「えーっと……それでですね。今日やっていくゲームは……」



同接はあっという間に20万人に到達し、まだまだ伸びていく。


俺はSNSでゲーム配信チャンネルの方で配信を始めたことを呟きながら、あらかじめ決めていた今日遊ぶゲームタイトルを視聴者に明かした。



「視聴者参加型で……ラストというゲームをやっていきたいと思います」


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