第208話


「人も集まってきたことですし…あ、あの…とりあえず前回の配信について振り返りません?」

半ば無理やり感が否めなかったが、金の話からなんとか話題を変えることに成功した俺は、この配信の目的である未攻略ダンジョンソロ踏破配信の振り返りをすることにした。



”逃げたな“

”逃げやがった…“

”もう一生遊んで暮らせるだけ稼いだやろ“

”この反応…相当稼いだな“

”いいなー、大将“

”まあ実際十億円以上の価値を提供してるからな。文句ないわ“

”むしろ史上初めてかもしれない偉業を達成した高校生のお給料が十億円って少ないやろ“

”むしろそれぐらいはもらっててほしいわ“

”間違いなく今年のスパチャ日本人ランキング1位やろな“

”こんだけもらってたら毎年日本のスパチャランキングを占拠してたコスプレダンジョン配信者どもをごぼう抜きやろな“

“おら年収200万しかないけど大将にスパチャするお^^”



¥10,000

神木^^俺フリーターで手取り14万円だけど神木にスパチャするお^^これからも頑張るお^^



¥20,000

神木そんなに稼いでたんだな^^

多分俺は一生かけてその半分すら稼げないけどそれでもスパチャして応援するお^^



”草“

”洗脳されてるやつおって草“

”フリーターが一万円投げんなw“

”すごいな神木信者“

”神木脳になっとるやん“

”神木貢がれてて草“

“手取り十四万が手取り億超えにスパチャするってどういう世界だこれ?w”

”フリーターの神木信者頑張れよ応援してるぞw w w“



「す、スパチャありがとうございます……本当に、お財布に余裕がある範囲でお願いいますね…そ、それじゃあ、前回の振り返りやっていきます…」



”ちょっと罪悪感覚えてて草“

”ちょっと気まずそうで草“

”手取り十四万からスパチャされることに罪悪感を覚える神木草“

“おらニートで金すら投げれないけどこれからも神木の配信見ていいですか?;;”

“ニートの俺からしたらフリーターでもすごいわ”

“振り返りさせてやれよお前らw w w”



「あの……ぜ、前回の配信どうでした?ぶっちゃけ面白かったですか?」



”最高だったぞ“

”文句なしの神回だった“

”神回“

“伝説”

“一生忘れない”

“マジでずっと見てた”

”やばかった“

”おもれった“

”満たされた“

“神回だったわ”

“文句なしの神枠”

“当たり枠”

“満場一致の神枠”

“聞くまでもない当たり枠”

“過去最高”

“マジで良かったぞ”



数字上では前回の配信が俺史上最高であることは間違い無いだろう。


だがやはりこういうのは視聴者の生の声も大事なはずだ。


俺はいい加減お金の話題から離れるために視聴者に感想を尋ねたところ、「神枠」「当たり枠」と言った反応が返ってきた。


どうやら視聴者的に前回の配信は相当楽しめたらしい。



「楽しんでもらえたようで良かったです……戦闘とかどうでした?誰との戦いが一番面白かったですか?」



“ボス戦”

“ボス戦だろ”

“ボス戦一択”

“そりゃもちろんボス戦”“

”ラストの戦い“

”巨大ロボと戦ったやつ“

”ボス戦がクライマックス“

“ボス戦だわ”

”俺はウォーターゴーレム“

”地味にテケテケが怖かった……“

”あのダンジョンに潜って襲ってくるやつ“

“ウォーターゴーレム戦良かったわ”

“ボス戦やね”

“新技が生まれたボス戦”

“ボス戦良かったけどお前が時止めたせいでよくわかんなかったわ。俺はやっぱりあの地面に潜るやつかな”

“いや、サムライゾンビやろ”

“俺はサムライゾンビのやつ好きだったわ。直接戦ってないけど”

“あのサムライのやつ好き”



ウォーターゴーレム戦、地底竜戦、サムライゾンビ戦。


一番見てて面白かった深層モンスターとの戦闘はいろんな意見があったが、一番はやはりボス戦だったようだ。


実際、俺自身もボスが一番強いと感じたしな。


新技も生まれたことで、視聴者からの評価は高かったようだ。



¥30,000

俺もボス戦が一番神だったと思います大将。

ところでもうすぐ登録者1000万人いきそうですけどもし1000万人到達したら記念になんかやります?




「あ、スパチャありがとうございます…やっぱりボス戦が一番評価高いんですね……ええと、登録者もうすぐ1000万人…え、まじ…?」



登録者がもうすぐ1000万人に到達しそうだというスパチャが来て俺は慌てて自分の登録者を確認する。



「あ、本当だ!!!あと15万人!」


俺の登録者は、前回の配信の影響で985万人まで増えていた。


ちょっと目を離したすきに、あと15万人で1000万人に到達するというところまで伸びていたようだ。



「あれ…?もしかしてこれこの配信中に行けたりします?1000万人…」



“わんちゃん”

“いけるんじゃね?”

“あるだろ”

“うおおおおおおおきたあああああ”

“よしお前らサブ垢作って登録するぞ”

“サブ垢みんなで作るべ^^”

“お前らサブ垢作るぞ^^”

”みんなで複垢で登録すべ^^“

”全然ある“

”拡散しとくわ“

”あと二時間も雑談すればいけるやろ“



「あ…986万人になった……みなさん登録ありがとうございます…」



この勢いならワンチャンこの配信内にチャンネル登録者1000万人いける。


そう判断した俺は、つーべ動画投稿者がやりがち

な“あれ”を試しにやってみることにした。



「みなさん、あの……一回あれやってみていいですか?」



“あれ?”

“何?”

“あれ?”

”あれとは“

“いいぞ”

“あれって?”

“何かわかんないがいいぞ”

“なんだよ”

“焦らすな”



「つーべ動画投稿者とか配信者がやりがちだと思うんですけど……1000万人登録者行くまで終われません……いわゆる耐久配信です」



“うおおおおおおおおおおおお”

“きたあああああああああああああ”

“よっしゃあああああああああああああ”

“いいね”

“やろう“

”最高“

”きたこれ“

”神“

”きたキタキタきたあああああああああ“

“名案”

“大将最高っす”

“よしきた”

“みんなやることはわかってるな?”

“お前らわかってるよな?”



¥10,000

耐久配信きたぁあああああ!!!

お前らわかってるよな?^^




「スパチャありがとうございます。耐久配信、実は一回やってみたくて……お前らわかってるよな?ん?どういう意味ですか?」



”^^“

”^^“

“えー?^^“

”んー?^^”

“あにー?^^”

“なんでもないおー?^^”

“耐久配信嬉しいお^^”

“^^“

”^^“

”^^“


「え、何、怖いです…なんですか?」 


なんだかコメント欄が異様な雰囲気に包まれたが、しかしこの勢いなら本当にこの動画内で1000万にん登録者いけそうだと思った俺はいわゆる耐

久配信をやってみることにした。


もちろん配信者において登録者なんてのはあまり意味をなさず、大事なのはどちらかというと同接なのだが、それでも1000万人の登録者というのは一つの節目ではある。


この数は日本の動画投稿者や配信者でも達成している人数が極めて少ない。


チャンネル登録者1000万人いけば、箔がつくというものだ。


そういうわけで俺は今から耐久配信を行うことにした。



「とりあえずこのまま雑談続けます…1000万人いきそうになったらみんなでカウントダウンしましょう」



俺はとりあえず登録者が1000万人に近づくまで雑談配信をすることにした。


コメントを拾い、前回の配信を振り返ったりなどして時間を潰していると,やがて登録者が996万人、997万人、998万人と1000万人に近づいてきた。



「あ、もうすぐ1000万人いきそうです!!!みなさん準備はいいですか!?」



“いいおー^^”

“準備万端だお^^”

“完璧だお^^”

“いけるお^^”

”お前らわかってるよな?^^“

”1000万人楽しみだお^^“

”やるお^^“

”1000万人登録者楽しみだお^^“

“大将頑張るお^^”

“^^”

“^^”

”^^“


「なんかさっきからコメント欄変じゃないですか?」



“そうか?^^”

“そんなことはない”

“気のせいだお^^”

“気のせい^^”

“きのせいだから安心しろ^^”

“^^”

“^^“


「うーん…まあいいや…あ、999万人いきました…!もうすぐですよみなさん!準備はいいですか!?」



なんだかコメント欄の雰囲気がいつもと違うような気がしないでもないが、俺は登録者1000万達成のその瞬間を視聴者と共有するため、登録者の増減をわかりやすくするためにでかく画面に表示する。


俺が固唾を飲んで見守る中、登録者は999万5000人、999万6000千人、999万7000人とどんどん増えていく。



「9997000…9998000……もうすぐ生きそうですみなさんいきそうです!!準備はいいですか!?9999000人!!!いきますよ!!!いよいよです!!!さん、にー、いち……」



俺はついにその時が来ると思ってカウントダウンを開始する。


これまでのペースならカウントダウンが終わると同時に登録者が1000万人に到達するはずだった。

しかし……



999万4000人。



「あれ!?減った!?」



999万1000人。



「なんで!?減ってる!?どうして!?」



998万8000人。



「ちょちょちょちょ、みなさん!?チャンネル登録者減ってるんですけど!?チャネル登録解除してません!?」



998万5000人。



「いやいやいやいや、おかしいですって!!!やってるでしょ!!やってるでしょこれ!?」



”^^“

”^^“

”^^“

“^^”

”^^“

“^^”

“^^”

“^^”

”^^“



「み、みなさんお願いします…チャンネル登録解除しないで…」



もうすぐで1000万人いきそうなところでチャンネル登録者が減り始めた。


嫌な予感がしてチャット欄を見たら、案の定”^^“が並んでいた。


どうやら視聴者が悪ふざけで、あとすこしで1000万人いきそうなところで一斉にチャンネル登録を解除し始めたらしい。



「お願いします…登録解除しないで…」



俺が絶望し、視聴者に懇願するが視聴者は容赦なかった。


チャンネル登録者はどんどん減っていき、997万人を割ってしまった。



「お、お前らまじで…さあ…なにこれ…?」



”^^“

”楽しい^^“

”この瞬間を待ってた^^“

”神虐たまんない^^“

”ごめんね大将^^“

”正直めっちゃ笑ってます^^“

”ギャハハ!“

”^^“

”可哀想な神木正直ちょっと好き^^“

”ごめん大将^^でもこれが俺らなんだ^^受け入れてね^^“



「本当にいい性格してるよ、お前ら…」



“ありがとう^^”

“嬉しい^^”

“褒められた^^”

“だろ?^^”

“ありがとね^^“

“大将に褒められた^^”

“嬉しいな^^”

“もちろんだ^^”

“当然だろ?^^”

“そりゃそうよ^^”



「いや皮肉だから……真面目に受け取るなよ…はぁ……ったく…いやなよかんはしてたけどさぁ…」



こういう時の俺の視聴者の一体感は本当に以上だ。



¥50,000

永い夜になりそうだな!神木!



¥30,000

今夜は寝かせないぞ、大将



「長い夜になりそうだな…今夜は寝かせないぞって…やかましいわ!!!」



結局その後、登録者は減ったり増えたりを繰り返し、俺は散々視聴者に弄ばれたあと、三時間後の深夜にようやくチャンネル登録者1000万人に到達することができたのだった。




酷いよ;;



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