第168話


倒した敵からアイテムを回収し潤った俺たちは、マップの中心を目指して進んでいく。


途中何度も敵パーティーに遭遇したが、いろんな作戦を駆使してなんとか倒した。


作戦でどうにかならない場合は気合いで倒した。


主に俺が。



味方1:マジで強いっすね…


味方2:俺もゲーム上手くなるために探索者になろうかな…



その結果、残り部隊が半分になる頃には俺のキル数は2桁を超えてキルリーダーになっていた。


キルリーダーとは、このマッチングの中で最も敵プレイヤーを殺したプレイヤーに与えられる称号だ。


つまり今現在のところ、俺はこのマップで一番キル数を稼いでいるということになる。



自分:ありがとうございます。二人の協力のおかげでなんとかやれてます


味方1:いや俺たちほとんど何もしてないんじゃ…


味方2:普通に神木さん一人でチャンピオン取れそう…w



なんか敵を倒すにつれて段々と二人の反応が一歩引いたようなものになってきた。


窮地を乗り越えて距離が縮まったかと思ったが、俺が敵を倒すと、喜ぶのではなくドン引きしたよ

うな空気になる。


もしかして俺が倒した敵のアイテムを独占しすぎとかそういうことだろうか。


一応必要最低限しかアイテムは保持しておらず、二人に行き渡るようにしているつもりなのだが。



自分:あの……何か欲しいアイテムがあれば遠慮なく言ってくださいね


味方1:あ、はい


味方2:いや、むしろ何か足りないものあります…?なんでもあげますよw


自分:こっちはアイテム足りてるんで大丈夫です。本当に何か入り用があったら言ってください




“強すぎてドン引きされてらw”

“こいつらにもだいぶ大将のヤバさがわかってきたみたいやねw”

“後日ダンジョン配信を見てもっとドン引きしそうw”

“こんなのいつものダンジョン配信に比べたら可愛いもんよw”

“てかマジで神木このゲーム上手いなw百歩譲って撃ち合いが強いのは神木だから当然だとしても……普通に立ち回りも撃ち合いのレベルと遜色ないんだよな”

“神木普通にセンスあるわ”

“時間遅くするチート抜きにしても神木普通に上手い”

“もうなんか嫉妬すら起こらんわ。強くて人気あってテレビにも出てて金も稼いでて……おまけにゲームも上手いのか”

“普通に今プロと撃ち合っても勝てそうw”

”これもうこのゲームのプロいらねぇだろw全員上期の下位互換じゃねぇかw“

”多分原理的には神木、これ系のゲーム最初っからトップレベルで上手いってことだよな?そうなると本当にプロゲーマーとかの存在価値は?ってなるんだが”

“いつか初心者だけどプロゲーマーとタイマンしてみたって配信やってほしい”

“↑やめたれw w wプロゲーマーが負けて気まずくなる未来が見えるわw w w”




うーん。


やっぱり反応がちょっと一歩引いた感じになっている気がする。


原因はなんだろう。


せっかくパーティーになったのだからもう少し和気藹々とやっていきたいのだが。


まぁしかし何か二人が俺に不満があるとしてもチャンピオンをとってポイントを稼げばきっと見直してくれるはずだ。


とりあえず今は戦いに集中してこのマッチで優勝することを考えよう。



パーーーーーーーン……



「ん?」



バシュッ!!!



味方1:うわっ!?


味方2:まじ!?



どこかで銃声が響いた気がした。


と思ったら、いきなり味方が俺の隣でダウンした。



自分:スナイパーです!!すぐに近くの物陰に身を隠して…!


味方2:はいっ…!



スナイパーだ。


誰かがどこからか俺たちのことを狙撃したのだ。


ヘッドショットで頭を一発で撃ち抜かれた味方が、一気にダウン状態に持ち込まれてしまった。



(どこだ…?どこにいる…?)


俺は自分もスナイパーで撃ち抜かれてしまわないように身を隠しながら、周囲を見渡す。



自分:いました…!あそこの高台から狙ってます…!


味方2:あれか…!見えました!!



遥か遠くの高台に、スナイパーライフルを構えてこちらを見ている敵プレイヤーの姿が見えた。


(これはかなり強いプレイヤーだな…)


俺たちとスナイパーの陣取っている高台の距離は相当開いていた。


この距離で、動いている的に偏差を考慮して当てるのは至難の業だ。


きっと相手は相当上手いプレイヤーに違いない。



“うわ、スナだ”

“芋すなだ”

“スナイパーきっしょ”

“抜かれた”

”まずい…“

”ひん;;“

”めっちゃ遠くから抜かれたな“

”この距離抜くの、普通にすごいな“

”このランク帯でこの距離砂で抜かれるか…?ワンチャンやってるやろ…“

“チーターか?”

“チーターの可能性あるな…”

“最上位ならまだしもこんな低ランもいいところのランクでこの距離スナイパーで抜かれるか?普通”

“これチーターじゃなかったら、スマーフの可能性あるな”

“チーターかスマーフ”

“あそこの砂ポジをこのランク帯のやつが知ってることってほぼないから普通にスマーフだろ”




味方2:この距離を当ててくるのか…


味方1:すみません…抜かれました…見捨てでもいいですよ



味方もこの距離でスナイパーライフルでヘッドショットされたことに驚いている。


ダウンさせられた味方は、見捨てでもいいと言ってくるが、俺はそうするつもりはなかった。


三人で優勝することが俺の目標だ。



自分:こっちまで這いずってこれますか?俺が囮になって動き回るんで


味方1:わかりました。頑張ってみます



俺はダウンさせられた味方の周囲にスモークグレネードを投げた。


これですぐに狙撃されて死ぬことはないだろう。


だが、上手いプレイヤーならダウン状態のプレイヤーの動きを予測して狙ってくるはずだ。


ダウン状態のプレイヤーが考えることはとにかくこれ以上遠くから撃たれないように近くの物陰に隠れようということだ。


そのことがわかっていれば、たとえスモークグレネードの影響で姿が見えなくとも、大体の場所を狙ってスナイパーで狙撃することができる。


ダウンシールドを貫通したスナイパーの弾が、肉体にあたれば、味方はこのマッチから完全に脱落してしまう。


そうならないために、俺が囮になる必要があった。



「こいよ」



ダウンさせられた味方が這いずってスモークの中を物陰に向かって動いている間、俺は逆に物陰から姿を晒してスナイパーの方を向く。


俺そっちのけで味方が狙われないように、エモートで煽ることも忘れない。



(上手いプレイヤーはエゴが強いことが多い。煽られたら必ず反応してこっちを狙ってくるはず…)



単純に相手を煽りたいからではなく、そんなことを考えてのエモートだったのだが、果たしてスナイパーは予想違わず、ダウンした味方にとどめを刺すのではなく俺を狙ってきた。



パーーーーーーーン!!!



遠くから銃声が響く。



「……ッ!」


俺はグッと集中する。


遠くからスナイパーライフルの弾がこちらに向かって飛んできているのが見えた。


その場に立っている俺の頭に直撃する軌道である。


「ほい」


俺は余裕を持ってしゃがむのコマンドを打ち込んだ。



ヒュンッ!!!



空気を斬る音と主に俺の頭上をスナイパーライフルの弾が通過していった。



「ほら、もっと打ってこいよ」



俺はさらにエモートを打ち、相手を挑発する。


本当のことを言うとこの距離のスナイパーライフルのたまを避けるのはそこまで難しいことじゃない。


いくら偏差打ちが得意なプレイヤーでも、この距離で、不規則な動きをしているプレイヤーのヘッドを確実に狙って当てることはほぼ不可能であり、それゆえに別に時間を遅くしたりしなくとも、俺はただ単にその場でジャンプしたりしゃがんでみたり、横に動いてみたり、止まってみたりと不規則な動きをしていれば、一発で死ぬことはないはずだった。


…しかし、万が一ということもある。


もしかしたら相手が俺のように探索者をやっているプレイヤーかもしれないし、適当に打った弾がたまたま頭に当たるかもしれない。


なので、俺はひたすら集中して遅い時間の中で確実にスナイパーライフルの弾を避けるという作戦をとった。



パーーーーン……



俺が煽りエモートをしていると、二発目の銃声が聞こえた。



「……ッ!」


グッと集中して再び遅い時間の中に入る。


遠くから、こちらに向かって飛来してくるスナイパーライフル弾が見えた。


今度は俺が避ける動作をすることを読んでか、ちょっとズレた位置に飛んできた。


当然、弾自体を視認している俺は、避けることをせずにその場に立ったままだ。



ヒュンッ!!



空気を斬る音と主に俺のキャラの顔のすぐ横を、弾が通り抜けていった。


俺は遠くのスナイパーに向かって手を振るエモートをくる。



「ほら、もっと打ってこいよ。俺と勝負しようぜ」



くるりと回転するエモートを打ちながら、ついでに背後も確認する。


ダウンさせられた味方が、物陰に完全に隠れられるにはもう少し時間を稼ぐ必要がありそうだった。


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