第169話
プレイヤー名『フスマ』は、上位ランクでプレイできる実力があるにも関わらず低ランで初心者や自分より弱いプレイヤーを狩っているいわゆるスマーフだった。
フスマという名前も、スマーフをもじったもので、スマーフという概念すら知らない初心者や低ランクのプレイヤーたちを小馬鹿にする意味合いが含まれていた。
「はいダウン。雑魚乙。気持ちいいねぇ…初心者狩りは」
その日もフスマはいつものようにサブ垢で低ランク帯に潜り、初心者や低ランクプレイヤーを狩るスマーフ行為を行っていた。
最初から激戦区に降下し、立ち回りやエイムのおぼつかない初心者を狩り殺していく。
まだ初めて数十時間程度しか経っていない初心者や、低ランクのプレイヤーたちは、立ち回りやエイム、マップ理解度で遥か上をゆくフスマになすすべなく狩られていく。
「ほらほら、どんな気持ち?ねぇ、今どんな気持ち?」
性格の悪いフスマは、倒した初心者を煽ることも忘れない。
死んだプレイヤーのアイテムボックスをひたすら銃で撃ちまくる行為……いわゆる死体撃ちをして反応を楽しむ。
「ふぅ…さて次に行くか」
明らかに立ち回りやエイムが初心者だったパーティーをたった一人で壊滅させたフスマは、次の獲物を探してマップを移動する。
味方1:ちょっと待ってください
味方2:まだ武器拾ってます。一緒に行動しましょう
自分:うるせぇ。俺に指図すんな
「雑魚が。喋りかけてくんじゃねぇ。黙ってついてこいよ。それができないなら勝手に死ね」
味方が動きの速いフスマの速度についてこれず、チャット欄で待ってくれと声をあげるが、フスマは「うるせぇ」とチャットを送り返し、味方を無視してそのまま一人で突き進んでいく。
パパパパパパ!!!
味方1:敵が来ました!
味方2:助けてください!
背後で銃声がなった。
味方が交戦しているらしい。
助けてほしい。
早く援護射撃を。
そんなチャットが飛んできても、フスマはガン無視だった。
むしろスマーフであるフスマにとって味方は足手纏いだ。
死んでくれた方が好都合だったので、フスマは味方二人を見捨てて離れたところで観察する。
ザシュッ!
ドシュッ!
ダウン音が立て続けに鳴り響き、案の定味方が殺される。
フスマはそれを遠くから眺めて特に助けることもせずにせせら笑っていた。
「ははは。死んでら。ザマァ。雑魚のくせに俺に意見するからだ」
味方1:なんで助けてくれなかったんですか!?
味方2:何考えてるんですか?
自分:黙れ。死んだのはお前らが弱いからだろうが
味方1:違いますあなたが勝手に行動したからです
味方2:パーティーで行動するゲームなのになんで自分勝手に動くんですか?
自分:黙れ雑魚。死体が喋るな
味方から文句を言うチャットが飛んでくるが、フスマは黙れ、死体が喋るなと、味方の最もな意見を一蹴する。
フスマは特に自分のしたことが悪いとは思っていなかった。
自分の勝手な行動が仲間の死の原因になったとしても、それはその程度で簡単に討ち取られる味方が悪いと本気でそう思っていた。
味方1:だめだこの人、話が通じない…
味方2:こんなひどい人初めてみました。暴言と利敵行為で通報しときますね。
自分:負け惜しみ乙
やがて彼の味方は、そうそうにフスマが話の通じない部類の人間だと察して消えていく。
フスマはそれをみて、きっと顔を真っ赤にして怒っていることだろうとニヤニヤと口元を歪めた。
「さて、邪魔者が消えて一人になったな。じゃ、初心者狩り、続けますかw」
その後、フスマはたった一人で初心者のパーティーをいくつも壊滅させ、煽りに煽りまくった。
初心者が絶対に知らないようなスポットから狙撃したり、上位帯のキャラコンとエイムで正面から圧倒してみたり、ときにはわざと生かして舐めプをしてみたり。
そうやって自分より下手なプレイヤーをいたぶり、思う存分煽り、暴言を吐き、現実で溜まったストレスを発散する。
「雑魚どもをいたぶるの楽しすぎだろw w w神ゲーw w w」
スマーフという行為は、一応犯罪行為ではないものの、多くのゲームで運営から推奨されていない害悪プレイの一種だった。
ゲームを始めて間もない頃に、自分より圧倒的に上手いプレイヤーにボコボコに狩られ、煽られ、暴言を吐かれたら大抵の初心者というのはそのゲームをやめてしまう。
スマーフするプレイヤーが増えれば、初心者が減り、結果としてゲームの規模の縮小にもなる。
そうなればやがてはゲーム存続の危機になり、自分の首さえ絞めることになってしまうのだが、スマーフするプレイヤーはそんなことはお構いなしだ。
とにかく自分さえ気持ちよければそれでいいという考え方の持ち主ばかりで、フスマも、自分のスマーフ行為によって初心者がゲームを辞めてしまおうが、ゲームが縮小しようが、どうでもいいと思っていた。
このゲームがサービス終了するその時まで,自分はスマーフ行為を続けて初心者を狩り続け、煽りまくる。
犯罪行為じゃないから捕まることもない。
その結果、プレイヤー人口が減ってゲームの寿命
が縮まろうが知ったことではない。
それがフスマという人間の考え方だった。
「さて、次は誰を狩ろうか……というかまだキル
リーダーにならないのかよ。バグってんのか?」
激戦区に降りたフスマは、あらかた近くにいたプレイヤーを狩り尽くして、マップの高台から周囲を見渡す。
何パーティーも壊滅させてかなりのプレイヤーを撃破したはずなのだが、一向にキルリーダーになる様子がない。
つまりこのマッチないに現在自分よりも速いペースでキルを稼いでいるプレイヤーがいるということだ。
「こいつか…」
キルログに同じプレイヤーの名前が何度も流れる。
ものすごいスピードでプレイヤーをキルしており、どうやらこのプレイヤーが現在のキルリーダーで間違いなさそうだ。
「神木拓也……なんかどっかで言いたことがあるような名前だな…」
フスマはなんだったっけ?と首を傾げるが思い出すことは出来なかった。
「もしかしてチーターか…?」
通常このランク帯のプレイヤーがこれだけの速度でキル数を稼ぐなんてありえない。
自分のようにスマーフをしているか、それともチーターである可能性をフスマは疑った。
「チーターだったらダリィな。スマーフだったら戦ってみたいが…」
現在日本でかなり流行っているこのゲームには、実は結構チーターも多い。
オートエイムと呼ばれる、標準が勝手に敵に合わさるチートや、ウォールハックと呼ばれる、障害物越しに敵が透けて見えるようになるチートなど様々だ。
他国の業者が日本人向けに販売しているという噂もあり、スマーフ行為をしているフスマにとってもチーターは天敵と言わざるを得なかった。
たとえ初心者で立ち回りのおぼつかないチーターであっても、高級チートを使っていれば、能力がほとんどバグレベルに向上しているため、スマーフのフスマであっても勝てない。
ましてや初心者なら尚更で、勝ち目は百に一つもないだろう。
「高級チート使いか…?それともスマーフか…?ちょっと様子見てみるか…」
もしチート使いならどうせ勝てないし、倒されるのが癪に障るので切断しよう。
もし自分と同じようにスマーフだったなら、勝てるかもしれないので戦ってみよう。
そんなことを考えながら、フスマは、キルリーダー『神木拓也』の存在するパーティーを探す。
「あれっぽいな…」
そして、ついに『神木拓也』がいると思われるパーティーを発見した。
障害物のない開けた場所を、三人で固まって歩いている。
「どれが神木拓也だ…?とりあえず殺して確かめるか」
フスマは、三人のうち一番先頭のプレイヤーをス
ナイパーで狙撃する。
パーーーーーーン!!!
ザシュッ!!
狙い違わず弾が命中し、そのプレイヤーがダウンした。
「こいつじゃなかったか」
キルログを確認するが、どうやら今倒したプレイヤーは神木拓也ではなかった。
「前のやつか…?それとも後ろのやつか…?」
フスマが残る二人、どちらが神木拓也なのかわからず迷っていると、一人のプレイヤーがさっと物影に隠れ、ダウンした味方に対してスモークグレネードを使って狙撃されないように守り出した。
その小慣れた立ち回りを見て、フスマは確信する。
「こいつ、チーターじゃないな。スマーフだ」
チーターは大抵、立ち回りはゴミの場合が多い。
チートに頼り切っていて、プレイヤースキルが伸びていない場合が多いからだ。
だが、今の神木拓也と思しきプレイヤーの動きは、完全にプレイヤースキルが高いもののそれだった。
フスマは神木拓也がチーターではなく、自分と同
じスマーフであると確信する。
「チーターじゃないなら……勝てるな。ククク……本当の強さってものを教えてやるよ……」
スマーフしていいのは俺だけだ。
俺以外のやつが初心者狩りをするのは許さない。
そんな身勝手な理由で、フスマは神木拓也というプレイヤーを倒すことに決めた。
「お…?囮になるつもりか?」
まずは邪魔な周りの二人を倒してしまおうと、スナイパーのスコープを覗くと、一度隠れた神木拓也が岩陰から堂々と前に出てきた。
どうやらダウンした味方が確殺を取られないように、囮になるつもりらしい。
「お前スマーフなのに仲間のこと気にすんのかよ。バカかよ。偽善者か?」
よくわからない怒りが沸々とフスマの中に湧き上がってきた。
「偽善者が。くだらねぇ。スマーフのくせに仲良しごっこかよ。初心者にチヤホヤされて嬉しいか?気持ち悪いな。殺してやるよ」
火がついたフスマは、神木拓也を狙い引き金を引いた。
直立不動の神木拓也のヘッドを完璧に捉える弾道だった。
勝ったな。
そう確信した瞬間、スコープのその先で、神木拓也がヒョイっとしゃがんだ。
「は…?」
まるでスナイパーの弾が見えているかのような動きだった。
「偶然か…?」
フスマは首を傾げる。
今、まるでスナイパーの弾が飛んでくることを完全に見越して、しゃがんだように感じてしまった。
ゲーム内の弾を目で見て避けるプレイヤーなんて上位帯にも存在しない。
あり得ない想像にフスマは首を振る。
「いやいや、ないだろ。普通にたまたまだろ」
きっとたまたましゃがむタイミングがあっただけだ。
偶然、運が良くて避けられただけだ。
そう自分の言い聞かせ、フスマは二発目の弾を装填した。
今度こそ仕留める。
フスマは、相手の動きを加味した上で二発目の弾丸を神木拓也に向けて放った。
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