第170話
「くそっ…なぜ当たらないんだ…!」
フスマは苛立ったような声を滲ませ、思わず台パンをしそうになる。
どうやら自分と同じようにスマーフ行為でこのマッチに参加しているらしい神木拓也というプレイヤー。
味方を庇うために自ら囮になってスナイパーライフルを持つフスマの前に姿をさらした。
フスマはそんな神木拓也に弾を当てようともう何発も撃っているのだが一向に当たる気配がない。
「なぜピンポイントで避けられる…?運がいいだけなのか?」
フスマはこのゲームの武器の中で特にスナイパーライフルが得意だった。
相手の次の動きを予測して偏差打ちをするのが得意で、今までに何人ものプレイヤーを遠距離からのヘッドショットで仕留めてきた。
これぐらいの距離が離れていたとしても、五発も撃てば、ヘッドショットと言わなくても一発ぐらいはあたり、相手に大幅なダメージを与えられるはずだった。
「適当に動いているのか…?まさか、弾の弾道を見て…?」
もう十発以上も、フスマは神木拓也を狙ってスナイパーライフルで狙撃を試みていた。
だが、結果としていまだにヘッドショットどころか、一発も神木拓也に弾を当てられないでいた。
フスマにとってこれは信じられないことだった。
これほどまでにスナイパーライフルで外したのは、スマーフで潜ったマッチでは初めてのことだった。
「何かチートを使っているのか…?弾道があらかじめ表示されたり…いや、そんなチートなんて聞いたことないし、実現可能だとは思えない…」
神木拓也の動きに、フスマは違和感を覚えていた。
神木拓也の弾を避ける動きが、全く無駄のない最小限のものだったからだ。
普通、この距離でスナイパーライフルのたまを避けようとした場合、大抵のプレイヤーが、わざと不規則な動きをする。
実際に弾道を見て避けるなんてことは普通は出来ないため、走ったり、歩いたり、ジャンプしたり、しゃがんだりする動きを適当にやって、相手に次の動きを予想させないという手法を取る。
だが、神木拓也の弾回避の動きは、そう言った初心者から中堅者がやりがちな適当にコマンドを打ち込んだ不規則な動きとは一線を画していた。
その動きは全く無駄がなく、最小限で、フスマが放った弾丸の軌道をまるで知っているかのような本当にピンポイントな動きなのだ。
神木拓也の頭を狙って打つと、ただしゃがむだけの回避行動。
胴体を狙うと、その場でジャンプ。
少し動くことを予測して若干弾を外すと、絶対にその場から動かない。
弾をうつタイミングが読まれているのかと思って、早撃ちをしてみたり、逆に発砲の間を開けてみたりするのだが、いずれも全て神木拓也に完璧にタイミングを読まれていた。
「な、なんなんだよこいつ…チーターなのか…?」
フスマはなんだかこの神木拓也というプレイヤーが怖くなってきた。
何らかのチートを疑ったのだが、弾を避けるチーターなんて聞いたことがない。
加速チートや、相手を強制的に重くして動けなくするDDoSチートならみたことがあるが、神木拓也にはどれも当てはまらない。
そもそもチーターなら、今頃オートエイムでこの距離であったとしても撃ち返してきているはずだ。
それがないということは、やはり神木拓也はチートを使っていないのだろうか。
「くそっ…ちょこまかちょこまかと……こうなったら近接戦で…」
とうとう痺れを切らしたフスマは、スナイパーで狙撃することをやめて、近接戦闘で神木拓也を倒すことにした。
このまま引き下がるのは、フスマのプライドが許さなかった。
スナイパーライフルが得意な自分の弾を二十発以上も避けやがったこの神木拓也というプレイヤーは絶対に仕留めてやると心に決めた。
「どうする…?このまま突っ込むか…?いや、流石にこんな平原で正面から突っ込んでいくのは武が悪いか…」
今すぐにでも神木拓也の方へ突っ込んで行って正面からの近接戦闘を挑みたいところだったが、神木拓也とその仲間たちがいる場所は、障害物の少ないかなり開けた平原だった。
もうすでにスモークの中で味方も起こされていることだろう。
障害物のないところで正面から突っ込めば、三人に一斉に狙われて、生き延びられたとしても三人の元に辿り着くまでに相当ダメージを喰らってしまう。
キャラコンでどうにかなる問題ではない。
「さっさと動きやがれ……殺してやるよ」
よってフスマは神木拓也たちのパーティーがどこか奇襲できそうな地点まで動くのを待っていたのだが、神木拓也たちは移動中に狙撃されることを警戒してか、なかなか動き出さない。
「だりぃーな…芋ってないでさっさと動けよカス…」
悪態を吐きながら、フスマはバトルフィールドの収縮を待つ。
パパパパパパパパ!!!!
「お…?」
銃声がなった。
神木拓也たちパーティーの背後からだった。
バトルフィールドの収縮に伴い、神木拓也たちの背後から後続のパーティーが一つやってきて、そのまま神木拓也たちを発見し、戦闘が始まったらしい。
神木拓也たちは慌てて後ろを振り返って、敵のパーティーに対して撃ち返している。
「ラッキー……これは漁夫るしかないな」
フスマはニヤリとほくそ笑む。
神木拓也が他のパーティーとの戦闘に気を取られている間に接近し、そのまま仕留めてしまおうとフスマは考えた。
二つのパーティーが戦闘しているところに乱入し、アーマーの削れたプレイヤーを簡単に狩る行為を、このゲームでは漁夫と呼んでいる。
フスマは、神木拓也たちのパーティーが交戦状態に入ったのをみて、今のうちに接近して漁夫ろうと考えた。
「待ってろよ神木拓也…」
スナイパーライフルを捨てて、サブマシンガンとショットガンという完全に近接戦闘の武器構成に変更したフスマは、未だ別のパーティーと交戦中の神木拓也たちに向かって意気揚々と近づいていった。
= = = = = = = = = =
「よし…見えた。あとはここで戦闘が終わるのを待つか…」
神木拓也と別パーティーの戦闘中、フスマは近接戦闘の武器にスイッチして距離を詰めた。
あくまで漁夫を悟られないようになるべく足音と姿を消し、ゆっくりと近づいていく。
そしてもう戦闘が行われているのが目の前に見えるというところまで何とか接近に成功した。
おそらく向こうはフスマの存在に気づいていないだろう。
あとは神木拓也が別パーティーと削りあい、ボロボロになるのを見守っていればいい。
戦闘が終わったらその瞬間に飛び出していって、回復する間を与えずにアーマーの削れた神木拓也とその他二人を仕留めるだけの簡単なお仕事である。
「さて……近接戦闘の腕前はどんなものかな…俺が査定してやるよ、スマーフ野郎」
自分を棚にあげ、神木をスマーフだと決めつけ、フスマは評価者気取りで障害物からわずかに頭を出して神木拓也たちと別パーティーとの戦闘を観察する。
ザシュッ!!
バシュッ!!
ダウン音が鳴り響き、キルログに名前が二つ流れる。
「ククク…味方が死んだか…さて、一人でどうする?神木拓也?」
神木拓也たちの後続としてやってきたパーティーは、どうやらこのランク帯にしてはかなり上手いパーティーだったらしく、あっという間に神木拓也の味方の二人がダウンさせられた。
神木拓也は3VS3の状況から一気に1VS3の状況にまで追い詰められていた。
おそらくこのままでは神木拓也はあの三人に殺されてしまうだろう。
死にそうになったら、自分が背後からトドメさしてキルを奪ってやろうとそんなことを思いながら、フスマは一方的な展開になるであろう1VS3の戦闘を見守る。
「は…?」
フスマが素っ頓狂な声を上げたのはわずかその数秒後だった。
「な、何だよその動き…?」
思わずそんな声が漏れた。
神木拓也が、敵プレイヤー三人を相手に、意味不明なキャラコンを見せて弾を避けまくっていた。
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